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28話「アメリー」

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「姉さん、アメリー姉さん!」

リュートが目を閉じたままの美少女を抱きかかえ、呼びかける。

お姉さんだと分かっていても、リュートが他の人と一緒にいるのを見るとやきもきしてしまう。

魔王に連れ去られ、生死不明だったお姉さんとの二年ぶりに再会したんだ。我慢しなくちゃ。

リュートがシスコンじゃありませんように! ぼくは心の中で祈っていた。

リュートのお姉さん、アメリーさんの口元が動いた。良かった、生きてる!

「うるっさいわね、あと五分寝かせて~~」

うん、命に別状はなさそうだな。今のセリフは聞かなかったことにしよう。せっかくの感動の再会が台無しになってしまう。

五分後、アメリーさんは宣言通り目を覚ました。

「あら、私どうしてここに? そうだわ魔王にさらわれて……リュートが助けに来てくれたの?」

さっきの「あと五分寝かせて~」がなければ、感動的なセリフだったのにな。

「姉さんが魔王にさらわれてから二年たったよ、魔王にさらわれたときのことを覚えてる?」

アメリーさんが額に手を当てて考え込む。

「確か誕生日に魔王が突然現れて、魔法で眠らされたの。気がついたときには魔王城にいて、魔王に『我の子を産んでくれ』と口説かれて……」

「いかがわしいことをされたの?」

リュートの目が暗く光る、いまここに魔王がいたら殺されてたな。

「されてないわよ『ごめんなさい、あなたタイプじゃないの、あなたが渋めのおじさんになったら考えて上げてもいいわ』って答えたの、魔王は二十代前半ぐらいに見えたから。もちろん時間稼ぎよ、私どちらかといえば年下が好みだし。そうしたら魔王が『ではあと千年待て、渋みがかったイケオジになってやろう』って言ったの。私が『あと千年も生きられないから無理です、家に帰して』って答えたら、魔王に『その心配はいらない』と言われて、着替えさせられて、氷漬けにされたのよ。『千年後私の花嫁にする、それまでは観賞用としてここに飾っておく』って言われてね。その時はショックだったわ、私白い服は似合わないのに、よりによって白いドレスを着たまま千年も氷漬けにされるなんて~~!」

アメリーさんが早口で説明してくれた。なんにしても、エッチな目に合わされなくて良かった。

いやセクシーなドレスを着せられて氷漬けにされていたから、セクハラはされてたみたいだけど。

「なんにしても私の機転のおかげで、無事でいられたわけ」

「姉さんの話術に引っかかるような間抜けな魔王で良かったね」

「相変わらず可愛げがないわね、そんな性格じゃ村に帰っても恋人が出来ないし、結婚もできないわよ」

「掟を破って村を出たから村には帰れない、帰るつもりもないけど。それから恋人は出来た、結婚もした」

「ふぇっ?!」

「リュート、結婚したの? いつ? 誰と?」

リュート結婚してたの? いつ? 誰と? どこで? 一夫多妻制の世界なの? ぼくには他の男に襲われるなとか言ってたのに、自分は結婚してたの?

リュートがぼくの顔を見て不思議そうに首をかしげる。

「おれはハルトと結婚したつもりでいたんだけど、ハルトはそう思ってなかったの?」

「ふわわっ! ぼくリュートと結婚してたの? い、いつ?」

指輪の交換したかな? 誓いのキスしたっけ?

「おれの育った村では、結婚した相手以外のアナルに指なんて入れないよ」

リュートがぼくの耳元でささやく。

ボッと音を立てぼくの顔に熱が集まる。

「ぼく、リュートの奥さんなの?」

「おれはそう思ってたけど、おれが夫じゃ嫌?」

リュートが小首をかしげる。

「ううん、嫌じゃないよ! ぼくリュートのお嫁さんになれて嬉しいよ!」

ぼくはリュートに抱きついた。リュートがぼくをぎゅっと抱きしめる。

「あらあら、私お邪魔みたいね」

アメリーさんがからかうように笑う。

「うん、姉さんにしては察しがいいね」

「ほんとに可愛くないわね、ハルトくんだっけ? こんな無愛想で口が悪くて何を考えてるか分からないやつのどこがいいの?」

アメリーさんが、むくれた顔でリュートを睨む。

「えっと、リュートのお姉さん……?」

「アメリーでいいわよ、義理の姉弟なんだし」

アメリーさんがぼくを見てにこにこと笑う。

リュートと違いコロコロと表情が変わる人だ。

「アメリーさん、リュートって昔からこんな性格なんですか? 魔王の呪いとかじゃなくて」

「そうよ、昔から無表情で毒舌で冷たい性格なの。えっ? ていうかあんたも魔王に呪いをかけられてたの? 魔王のこと間抜けとか乏しておいて、そのトンマな魔王に呪いをかけられるなんて、あんただって抜けてるじゃない!」

アメリーさんがお腹を抱えてケタケタと笑う。知的で艶美な美女のイメージが……。

「おれは油断しただけ、氷漬けにされてた誰かさんよりはまし」

「何よ! そのおかげで二年間も年を取らなかったのよ! ラッキーでしょ! どうせなら十年ぐらいたってから助けに来てほしかったわ」

アメリーさんがが腰に手を当てプリプリと怒りだす。

「私を年増呼ばわりしたガキ共を見返してやれたのに!」

アメリーさんは喜怒哀楽が激しい人だ。リュートの表情筋までアメリーさんが持って生まれちゃったのかな?

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