【BL】完結「異世界に転移したら溺愛された。自分の事を唯一嫌っている人を好きになってしまったぼく」

27話「魔王2」

杖の下からは開放されたトカゲ魔王が、めそめそと泣いている。

「しくしく、我は……我は偉大な魔王として、貫禄たっぷりに玉座に座り、ワインの入ったグラスを持ちながらお前たちを出迎え『よくぞここまでたどり着いた、だがここがお前たちの終焉しゅうえんの間だ』と言って、ワイングラスを床にたたきつけ、炎の魔法を放ち、剣を取りお前たちに斬りかかる予定であったのだ……。それをあんなふざけた剣で、不意打ちに大ダメージを喰らわされ、本来の姿をさらすことになるとは……めそめそ、酷い酷い、我に登場の挨拶もさせぬとは……お主らは鬼か！」

魔王の演出がばっちり決まっていたとしても、かなり寒い気がする。一昔前のゲームの魔王だって、そんな凍えるような登場はしない。

「御託ごたくはいらないから、さっさと呪いを解いてくれる？」

リュートが凍えるような冷たい視線をトカゲ魔王に向ける。

「分かった、分かったから、人を殺すような目で我を睨むな……！」

トカゲ魔王が呪文を唱えると、リュートのお姉さんを覆っていた氷がみるみるうちに溶けていく。

「アメリー姉さん……！」

氷が溶け倒れそうになるお姉さんの体を、リュートが支える。

「では、我はこれで……ぐえっ！」

「ちょっと待って！」

ぼくはトカゲ魔王を素手で捕まえた。

うわぁ、トカゲをじかに掴んじゃったよ！　気持ち悪いっ！！　

ぼくの全身に鳥肌が立つ。

魔王にはぼく魅了の技は効いてないみたいだし、素手で掴んでも問題ないだろう。ただ気色悪いけど……。

「リュートにかけた呪いの解除がまだだよ！！」

魔王をキッと睨みつける。

「分かった、そちらも解除するっっ！」

トカゲ魔王が呪文を唱えると、リュートの体が淡く光った。

「呪いは解いたぞ、離してくれ！　それと我が『転んだ拍子に会心の一撃剣』で負けた事は内密にな！」

「わかったよ」

トカゲ魔王を地面に下ろすと、よろよろしながら扉から出ていった。

逃してしまったけど、よかったのかな？

それより今はリュートとお姉さんが心配だ！　氷は溶けたのに目を覚まさない！