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24話「……目隠しをしようか」

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炎の竜フランメ・ドラッヘ! 爆発(エクスプロズィオーン)!」

「ぐぉぉおおおおお!!」
「ぎゃしゃ、ぎゃしゃしゃしゃッッ!!」
「きぇぇええエエエッッ!!」

目の前に迫りくる敵の頭上を、ぼくの放った魔法が通り過ぎていく。

「水の精霊よ我に従え、水の竜ヴァッサー・ドラッヘ!」

リュートの放った水の竜が敵を一掃する。

「目をつぶって打ってる? ちゃんと当てて」

リュートが冷たい視線がぼくの胸に刺さる、連れないリュートも好きっ♡

じゃなくて、ちゃんと魔法を当てないと! 気を取り直して次の魔法を放つ。

突風ヴィントシュトーム! 暴風シュトゥルムヴィント!」

ぼくの放った魔法があさっての方向へ飛んでいく。

「……目隠ししようか」

深い息を吐いたあと、リュートがスンとした顔で言った。

「はい」

魔王討伐に必要な魔法を覚えたぼくは、リュートに連れられ暗黒の大地フィンスター・エーアト・ボーデンの奥深くに来ていた。

高レベルモンスターを華麗な魔法でばったばったと倒していた……主に、リュートが。

ぼくは魔法のコントロール能力がイマイチらしく、魔法が敵に当たる率が非常に低い。

リュートいわく目隠しして魔法を放ったときの方が当たるらしい。

おかしいな、最初に暴風シュトゥルムヴィントを唱えたときは、下半身丸出しの見知らぬ男に命中したし、フォイアーフランメ炎の竜フランメ・ドラッヘも、ちゃんと的に当たっのにな。

これもリュートに言わせると「ハルトの魔法は百回に一回しか当たらない、その一回が奇跡的に最初にきただけ」らしい。

なんだろうこのやるせない気持ちは……。せっかく頑張って高位の魔法を覚えたのに。リュートの役に立てると思ったのに。

このままではレベルが上がらない。レベルが上がらないと、魔王を倒しに行けない。

魔王を倒ないとリュートにかけられたインポの呪いが解けない! リュートとラブラブセックスが出来ない! それは困る……!

「レベル上げの方法を変えようか」

一時間ほどたったとき、リュートが言った。

「『転んだ拍子に会心の一撃剣』の方がリュートには向いてるかもね」

確かに前に大量のモンスターを倒したのは、この剣だった。

ただ顔から地面に突っ込むのはかなり恥ずかしい。だが背に腹は代えられない。

「うん、ぼく『転んだ拍子に会心の一撃剣』を使うね!」

この剣でぼくは強くなる! 

「……あれっ? そうなるとぼくが苦労して覚えた魔法の意味は?」

『転んだ拍子に会心の一撃剣』があればいらないよね?

「魔王相手に暴風シュトゥルムヴィントと『転んだ拍子に会心の一撃剣』だけで挑むのは危険だよ。手数は多い方がいい」

確かに。

「本当は水系や土系の魔法も覚えてもらいたいんだけど……」

「ぼく、覚えるよ! 頑張るよ!」

リュートにかけられた呪いを解くためだもん!

「呪文の名前と効果を覚えきれるか不安で」

確かに、風系と炎系の呪文だけですでに混乱してる。

これに水系と土系の魔法が加わったら、どれがなんの呪文か分からなくなる。

「とりあえずレベル上げを頑張ろうか」

「魔法のコントロールは覚えなくてもいいの」

「そのままの方がいいかも」

「それはどういう意味?」

「正攻法じゃ魔王には敵わない、飛んでいく方向が予想出来ない魔法なら、魔王の不意をつけるかもしれない」

「そうなんだ」

ぼくのコントロール不能な魔法が、リュートの役に立つなら嬉しい。

『転んだ拍子に会心の一撃剣』を使うことにより、ぼくのレベル上げはさくさく進んだ。

そして……魔王に挑む日がやってきた。



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