【BL】完結「異世界に転移したら溺愛された。自分の事を唯一嫌っている人を好きになってしまったぼく」

まほりろ

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18話「リュートの過去」

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「ハルトの男を引き寄せる力は、魔法じゃなくて技なのかもね」

「えっ?」

リュートがぼくに好きって告白して、甘い雰囲気もキスもなくその話?

「魔法なら、呪文を封じられとき、周りの男たちは正気に戻ったはずなんだ」

「そう言われてみれば……」

金髪碧眼の男に宿屋で襲われたときも、城で七人の王子に襲われたときも、ぼくが呪文を封じられたあとも男たちは正気に戻らなった。

「神子ほどじゃないけど、魅了の技を使うモンスターがいる。より良い子孫を残すために、発情期に魅了の技を使い同族のオスを集めるんだ。神子はその技を無意識にかつ永続的に使い続けているのかも」

「そうなんだ」

魔法じゃなくて技だったんだ、しかもぼくの意思とは関係なく永続的に使ってる。

「技だから魔法を封じられても効果が続いた」

「なるほどそういうことだったんだね。ぼくが永続的に魅了の技を使っているとして、リュートにはどうしてぼくの魅了の技が効かないの?」

前から不思議だった、他の男の人はぼくに近づいた途端におかしくなった。リュートだけはぼくの側にいても普通でいられた。

リュートのおちんちんを触って確認したから、リュートが男なのは間違いない。

「おれには……状態異常系の魔法と技は効かないから」

「えっ……?」

七色王子の技がリュートに効かなかったことと関係があるのかな?

「それってどういう意味?」

「魔王に呪いをかけられたんだ。それからおれはレベルが上がらなくなった」

暗黒の大地フィンスター・エーアト・ボーデンで修行してたとき、レベルが上がらないって言ってたのはそのことだったんだ。

「その代わり年を取らないし、状態異常も受け付けないけど」

「年を取らない……?」

そういえば最初に会ったとき、年はだいたい十八歳って言ってた。

自分の年が分からないなんてあるのかな? って思ったけど年を取らないからだったんだ。

「聞いてもいい?」

「なに?」

「リュートって今いくつ?」

おじいちゃんではありませんように。

「生まれてからの年数を聞いてるなら、二十だよ」

二十歳!? ぼくの二つ上! 大丈夫、守備範囲内だ! むしろ同い年よりちょっと年上の方が好みだ!

「もしかしておれのことおじいちゃんだと思った?」

「そんなことは……」あります。

「答えなくてもいいよ、ハルトはすぐに顔に出るから」

「うっ……」

リュートにはぼくの考えなどお見通しのようだ。

「その呪いって解けるの?」

「魔王を倒せれば」

「リュートが旅をしている理由って魔王を倒すため?」

「そう、それと人探し」

「人を探してるの?」

「同じ村で育った大切な人を魔王にさらわれた」

リュートの大切な人、胸がズキンと痛む。

「その人ってリュートの……」

婚約者ではありませんように……!

「姉だよ」

「良かった婚約者じゃなくてお姉さんだった! えっ? ……?? お兄さんじゃなくて?」

確かこの世界で女の人は希少だったはず。

「そうじゃなくて、この世界では希少な女。俺も母親と姉以外の女を見たことがない」

「リュートのお母さんも女の人なの?」

お母さんが女なのは元いた世界では当たり前のことだった。

だけどこの世界では男性が妊娠可能で、女性はほとんどいないと、以前リュートが教えてくれた。

「俺が生まれた聖なる翼ハイリヒ・フリューゲル村は神に仕える村で、よその地域の人間より魔力が高い人間が多い。そして百年に一度の間隔で女が生まれる。男女の夫婦から生まれた子は、男同士の夫夫から生まれた子より魔力が高いとされ、大切に育てられる」

そうなんだ、だからリュートは強力な魔法を使えるんだ。

「女親から女の子が生まれることはほぼない、それこそ何百年とか何千年に一度ぐらいの確率。姉は特別大切に育てられた。姉が生む子はとてつもない魔力を秘めているだろうと村の誰も期待した……でもそれが良くなかったのかも」

リュートの顔が曇る。

「どこで知ったのかは分からないけど、姉の存在を知った魔王が村に現れて、姉をさらって行った」

リュートは淡々と話しているけど、表情はつらそうだ。

「おれは姉を助けようと魔王に立ち向かった、だけど力及ばず魔王こてんぱんにされた。揚げ句、時を止める呪いをかけられた。年を取らない、レベルも上がらない、新しい魔法も覚えない、唯一の良い効果は状態異常にかからないこと」

リュートでも敵わないなんて、魔王ってどれだけ強いんだろう。

「レベルが上がらなければ魔王に再戦を挑んでも絶対に勝てない、それが分かっていても諦められなかった」

「村の人たちは」

村の人たちも一緒に戦えば、もしかしたら……。

リュートが首を横にふる。

聖なる翼ハイリヒ・フリューゲル村には村の外に出てはいけないという掟(おきて)がある。姉が魔王に誘拐された事を伝えても、誰も助けに行こうとしなかった」

「そんなの酷いよ!」

「仕方ないんだそういう村だから、だからおれは一人で旅に出た」

リュートがどこか諦めたように言った。

「それじゃあリュートは……」

「魔王を倒して姉を助け出しても、村には帰れない」

「そんな……!」

「姉は希少な女性だし、村を出たのも自らの意思ではなく魔王に連れ去られただけだから、魔王を倒せば姉だけは村に帰れるかもしれない」

そういう事情があったんだ。でも魔王を倒しても故郷に帰れないなんてかわいそう。

「ハルトを助けたのは、どこか自分に似てたからかも」

「えっ?」

「自分より強い相手に大切なものを目の前で奪われる……そういう悔しさ知ってるから、気がついたらハルトを助けてた」

無理やり奪われそうになった大切なものって、リュートは姉さんで、ぼくはお尻の処女ってことかな?

「神子だって分かってからは、境遇が似てると思った。おれもハルトも故郷には帰れない」

「うん」

「そういうところに惹かれたのかも」

「リュート……!」

難しい話の間に不意にデレを挟むのやめてほしい。ぼくの心臓がトクントクンと鼓動する。きっといま耳まで赤くなってる。

「魔王を倒そうにもレベルも上がらないし、新しい魔法も覚えない、だから強力な武器や防具を探して旅をしていた」

また難しい話に戻った。リュートの貴重なデレ終わりか~残念。

「仲間は」

「仲間?」

「仲間を増やせば魔王戦が有利になるンじゃない?」

仲間を増やして敵を倒すのは、ロールプレイングゲームのお約束!

「その考えはなかったな。レーゲンボーゲンの国の七人の王子を覚えてる?」

「うん」

今日会ったばかりだし。

「たぶんあれが聖なる翼ハイリヒ・フリューゲル村以外の人間の最強クラス」

「え゛っ?」

リュートに瞬殺されたあの七人がこの世界の最強?? 

「だから仲間はいらない、足手まとい」

「うん、そうだね」

確かにリュートのレベルだと、仲間はいない方がいいのかも。

「じゃあ、ぼくは? ぼくを仲間にして大丈夫? 足手まといじゃない? ぼくは魔法の才能もないし、リュートに迷惑をかけてばかりだし」

「自分には才能がないって本気で思ってる?」

「だって、ヴィントを覚えるのに一万回もかかったし、暴風シュトゥルムヴィントに至っては百万回以上唱えてやっと覚えたし……」

「何千万、何億回唱えたとしても、呪文を唱えただけで魔法を覚えられる人間なんていないよ」

「ふぇっ?」

そうなの?

「幼い頃から厳しい訓練を積み、難解な魔術書を読み、ようやく魔法を覚えるんだ。聖なる翼ハイリヒ・フリューゲル村の人間は三歳から魔術の訓練を受ける、それでも暴風シュトゥルムヴィントを覚えるのは二十五歳を過ぎてからだ」

「ええっ?」

暴風シュトゥルムヴィントって、そんなに難しい魔法だったの?

「千年に一度の天才と言われた姉でさえ、暴風シュトゥルムヴィントを覚えたのは五歳のとき、おれが覚えたのは八歳のときだった。それをハルトはなんの訓練も受けずにたった一カ月で覚えた、誇っていいと思うよ。神子は別格なんだって、思い知らされたよ」

リュートにほめられた! 嬉しい! ぼくってそんなにすごかったの? これが異世界チートってやつ?

「古文書には神子はどんな呪文も一度で覚えるって記されてるから、歴代の神子と比べると物覚えが悪いのかもしれないけど」

「うぐっ……」

上げられてから下げられた。そういう意地悪なところも好きだよリュート!

「神に仕える聖なる翼ハイリヒ・フリューゲル村の人間は他の地域に住む人間より魔力が高い。村以外の人間だと神童と言われ王立学校を主席で卒業してエリート官僚になったやつが突風ヴィントシュトームを使えるぐらい。暴風シュトゥルムヴィントを使える人間は魔術の修行を六十年以上した年寄りぐらいだよ」

暴風シュトゥルムヴィントって、そ、そんなすごい魔法だったの?!

リュートが暴風シュトゥルムヴィントを使えるのになんで負けたの? ってぼくに聞いたわけだ。

リュートが仲間を連れて魔王討伐に行こうとしない理由が分かったよ。

普通の人間じゃリュートの足手まといにしかならない!

「リュート、ぼくをいっぱい鍛えて! 魔王討伐にぼくも連れてって!! リュートの力になりたいんだ!」

リュートがいなかったら、最初の村で声をかけた人に襲われて犯されて、そのあとはきっと国中の人にシェアされた。

裸にむかれ拘束された事もあったけど、今もぼくのお尻の処女が無事なのはリュートのおかげ! だからリュートの助けになりたい!

「それはちょっと……」

「だめなの? ぼくがうっかり者だから?」

「それもある」

否定はしないんだ。

「一番の理由は、魔王がハルトの魅了の技に感化されるのが嫌だから」

「えっ……?」

「神子の力は同族にしか効かないみたいだけど、絶対に魔王に効かないとは言いきれない」

そういえば動物やモンスターはぼくを見てもおかしくなっていない。獣姦とかモンスター姦とかなくてよかったァァ!

だけど魔王にはぼくの魅了の技が効くかもしれないんだ。魔王に襲われる……想像しただけで全身に鳥肌が立った。

「魔王に犯されるハルトを指をくわえて見てるなんて、耐えられない」

リュートがぼくを真っすぐに見つめる。

「リュート……!」

リュートのサファイアの瞳で見つめられ、ぼくの心臓がドキンドキンと音を立てる。

リュートは相変わらず無表情だし声に抑揚もない。でもリュートの思いは伝わってくる、ぼくはリュートに大切にされている。

「でも残していくのも不安で、ハルトは目を離すとすぐに男に襲われるから」

「ぐっ……」

反論できない。

「魔法を教えても、レベルを上げても、装備を強化しても、男に襲われて裸にされて拘束されるなんて……狙ってやってるとしか思えない」

リュートが深く息を吐いた。

「わざとはやってないよ!」

露出狂じゃないし、拘束プレイが好きな訳でもない! 第一好きな人と……リュート以外の人とするなんて嫌だ!

「ハルトの身の安全を考えると、一緒に連れていくしかないのかな……いっぱい鍛えて」

「リュート!」

やった! リュートと一緒に魔王と戦える!

炎の竜フランメ・ドラッヘを覚えるのに、五百万回呪文を唱えられる?」

「うん!」

暴風シュトゥルムヴィントのときより、呪文の詠唱回数が四百万回多いけど、ぼく頑張る!

雑草ウン・クラウント・百足ダオゼント・フュースラーのエキスを千杯飲める?」

「ゑ゛っ……?」

雑草ウン・クラウント・百足ダオゼント・フュースラーって、あの黒ずんだ緑色の百足ムカデのことだよね?

苦くて、エグくて、臭くて、吐きそうになるし、実際吐いたけど、が、頑張って飲むよ!

「も、もちろん!」

「コップでじゃなく鍋で千杯だけど」

「なっ、鍋で……う、うん、やれるよ!!」

「他にもいっぱい苦しいことがあるけど耐えられる?」

「うん、大丈夫!」

リュートと離れること以上にしんどいことなんかないもん!

「ならいいよ、一緒に魔王城に行こう」

「ありがとう! リュート!!」

ぼくはリュートに抱きついた!

リュートはぼくの頭をなでてくれた。



◇◇◇◇◇

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