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17話「森で……ぃしてたの」
しおりを挟む城から遠く離れた森にリュートは降り立った。
地面に足をつけると、リュートの背に生えた白い羽は消えた。
残念、天使みたいで奇麗だったのに。
リュートがアイテム袋から服を出してくれた。
ぼくは急いでその服を着た。
「炎」
リュートが木の枝を集め火をつけた。
たき火を囲んで座る。ぼくはリュートのすぐとなり、肩がつくぐらいの位置に座った。
いつものリュートなら『もっと離れたところに座ってくれる?』とか『暑苦しいよ』とか言うんだけど、今日はそれがない。
今日のリュートはやさしい。冷たいリュートも好きだけど、暖かいリュートも同じぐらい好きだ。
「じゃあ聞かせてもらおうか、奴らに捕まった理由を?」
リュートがスンとした顔でぼくを見る。無表情だけど怒っているのが伝わってきて、ぼくの背中を冷たい汗がつたう。
もう少し離れた位置に座ればよかった……! だが後悔しても遅い。
「複数人が相手でも今のあんたのレベルと、『転んだ拍子に会心の一撃剣』があればそう簡単には負けないよね? 野獣のような男に捕まって裸にされて縛られるのが趣味なの?」
リュートの視線が冷たい、目から吹雪が出てるよ~!
「違う! ぼくにそんな趣味はないよ! ……リュートにならされてもいいけど」
「はっ?」
ボソボソと話した言葉はリュートにも聞こえていたらしく、真顔で聞き返された。後半部分は聞かなかったことにしてください。
「なら、どうして捕まったの?」
「うっ、それは……」
リュートの顔が至近距離に迫る。別れるときにしたキスを思い出し、頬に熱が集まる。
羞恥心に耐えかね、ぼくはリュートから顔を背けた。
「わっ、笑わない?」
「笑わないよ、おれが笑ったところを見たことがある?」
「……ない」
悲しいかなリュートの笑顔を一度も見たことがない。
「だから話して、何があったのか」
「うん、あのね……」
ぼくは意を決して口を開いた。
「リュートと別れたあと、リュートとのキスが忘れられなくてその……」
リュートに一回抜いてもらっただけでは、下半身のうずきがおさまらなかった。
「森で……ぃしてたの」
「なに?」
「森で自慰してたの……!」
リュートが目を瞬かせる。
そりゃあ引くよね、自分と別れたあと、弟子が森の中でオナニーしていたら。
「リュートととの口づけが気持ちよくて、下半身がじんじんして、それで……」
「自慰してたところを捕まった?」
「ちっ、違うよ! 捕まったのは一人エッチが終わったあと、パンツを履こうとしてたとき……!」
二回も抜いていたとはさすがに言えない。
「手淫してるところなんか見られてたら、あんたその場で犯されてたよ」
リュートの言葉に背筋が寒くなった。不幸中の幸いだった!
「パンツを履こうとしてたら、赤い髪と黄色い髪の人と緑の髪の人が現れて、『天使』とか『神子』とか『妖精』とか呼ばれて」
パンツを履くことに気を取られ、攻撃するタイミングを逃した。
「赤い髪の人に『また会えましたね、今度は逃しませんよ!』って言われて、気がついたら体がしびれて動かなくて、魔法を封じられていて」
「魔法封じと麻痺の技だね」
「うんそうだと思う。それから赤い髪の男に『あなたを今すぐにでも犯したいところですが、前のように邪魔が入っては面倒だ。城に連れて帰ってからじっくりと抱くことにします』って言われて、お城に連れて行かれたの」
かろうじてパンツを履いていたことがせめてもの救い。下半身丸出しで誘拐されるのは、かっこ悪すぎる。
「あっ、リュートからもらった剣!」
リュートからの贈り物なのに、貴重な剣なのに、森においたままだ!
「『転んだ拍子に会心の一撃剣』のことを言ってる? それなら回収したよ、城の物置に転がってた」
リュートがアイテム袋から『転んだ拍子に会心の一撃剣』を取り出す。
「良かったぁ!」
ぼくは剣を抱きしめ、頬ずりした。
「王子の一人が拾って持ち帰ったんだろうね。物置に転がってたところを見ると、『転んだ拍子に会心の一撃剣』の価値には気づかなかったみたいだけど」
よかった! 王子も城の人たちもこの剣の価値に気が付かなくて!
「今回のことでひとつ分かったことがある」
リュートがぼくの目を真っすぐに見る。
「なに?」
リュートに見つめられ、心臓がドキドキと音を立てる。
「あんたがおれの想像を超える間抜けだってことが」
「うっ……!」
悔しけど反論できない。おちんちんを慰めていて、人の近づいてくる気配に気づかず、誘拐されるとかおたんこなすにもほどがある。
「目的を達成するまでは、離れていようと思ったんだけど……やめる」
「えっ……?」
リュートは何を言いたいんだろう?
「あんたは目を離すとすぐに他の男に襲われるから、おれの目の届くところにおいておく」
「ええっと……?」
リュートの言った言葉の意味を考える、リュートがぼくの側にいてくれる、それって……!
「好きだから側にいたいって言ったほうが分かりやすい?」
「ふぇっ!?」
リュート今なんて言った? ぼくのことを『好きだ』って言った?? 聞き間違いじゃなくて……??
「リュートは、ぼくのことが……好き、なの?」
「好きだよ」
リュートが無表情でサラッと答えた。『カレーが好き?』って質問に『好きだよ』って答えるみたいにすごく自然に……!
ツンデレのデレ来たーー!! ……全然デレっぽくないけど。
「好きじゃないなら、キスなんかしないよ」
「そうなの……!?」
森でリュートと別れたときに、リュートとしたディープキスを思い出し顔が火照る。
あのときには、リュートはぼくのことが好きだったってこと?!
「リュートはいつからぼくのことが好きだったの?」
「さぁいつからかな? おれにもよく
分からないけどハルトに『キスして』って言われたとき、してもいいかなって思った。多分そのときには好きだったんじゃないかな」
ダメ元で『キスして!』ってお願いして良かった! ぼくは心の中でガッツポーズした!
それから今、リュートがぼくのことを名前で呼んだ!!
「リュート今ぼくのこと『ハルト』って……!」
「あれ? 呼んだことなかった?」
「ないよ! いつも『あんた』って呼んでたもん!」
「そうだっけ? じゃあ次からは極力名前で呼ぶようにするね」
うわぁぁああああ! リュートに名前で呼んでもらえる! すごく嬉しい! スキップして野原を駆け回りたい気分!!
「うん、そうしてくれると嬉しい!!」
ぼくの顔はゆで蛸のように真っ赤で、心臓が爆発しそうなぐらいドキンドキンしていた。
リュートはぼくに『好き』って告白してからもずっと無表情で、頬を赤らめることも、目を逸らすこともなくて。
ぼくだけ目に見えるぐらい動揺しているのが、少しだけ悔しかった。
◇◇◇◇◇
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