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11話「会心の一撃?」
しおりを挟む暗黒の大地には奇怪な形をしたモンスターがひしめいていた。
異形なモンスターを目にし、足がすくむ。スプラッタな光景は広がってないけど、できれば目隠しが欲しい。
モンスターがぼくたちの存在に気づいたらしく、咆哮や奇声を上げこちらに近づいてくる。
「リュート~~!」
出した声は震えていた。足はガタガタと音を立て、目の端に涙が浮かぶ。
涙目でリュートを見ると剣を渡された。
「だまされたと思ってこの剣を振るってみて、危なくなったら助けるから」
「……うん」
リュートはぼくに剣を渡すと、数メートル離れたところにある大きな岩に飛び乗った。
不気味なモンスターの大群が目前に迫っていた。ぼくは吐き気をおさえ、リュートの言葉を信じ剣を振る……えずに、顔から地面に突っ込んだ。
…………ぼくってやつはこんなときまで。
悲しさと恥ずかしさと悔しさとやるせなさで、胸が痛い。
そんなことより早く起き上がらないと、モンスターに頭から食べられてしまう。
ぼくは体を起こし、敵を見据える。
そこには奇怪な形をしたモンスターの姿はなく、ぼくの前に衝撃波でできたと思われる亀裂が一直線に走っていた。
「えっと……」
これはどういうことだろう?
「リュートが助けてくれたの?」
リュートが岩の上からぴょいと飛び、ぼくの前に降り立つ。
「いや、おれは何もしてない。あんたがやったんだ」
「えっ? ぼくが……?!」
ありえない! ぼくは剣を振るった拍子にこけて地面に顔から突っ込んでいたのに、どうやってモンスターを倒したというのだ?
「『転んだ拍子に会心の一撃剣』」
「へっ?」
「あんたが手にしてる剣の名前」
ぼくは握っている剣を見た。猫のモチーフがついた黄色い剣。子供のおもちゃみたいなこの剣に、長い名前があり、特別な効果があることを知った。
「あんたにやるよ、その剣はおれには使いこなせないから」
確かに剣を振るった拍子に転ぶリュートなんて見たくないかも。
「……ありがとう」
ぼくが無数のモンスターを一撃で倒したなんて、にわかには信じ難い。
だがぼくの目の前には衝撃波によって生じた亀裂がある、信じるしかない。
「レベル」
「えっ?」
「レベルが一気に上がったと思うよ、あれだけの数の格上のモンスターを一人でやっつけたんだから」
リュートに言われ、体内に意識を向ける。体の中からがみなぎって来るのを感じた。
「ありがとう、リュート!」
笑顔でリュートにお礼を伝える。
「よかったね」
リュートは心なしか嬉しそうだった。
ぼくのレベルが上がったことをリュートが喜んでくれた「よかったね」って言ってくれた。それだけのことなのに、顔がにやけてしまう。
「これであんたの修行は終わり、ここでお別れだ」
「……えっ?」
リュートの言葉に、一気に目の前が暗くなる。
ここでリュートとお別れ……? 再会してからまだ一週間も経ってないのに……?
「さすがに暗黒の大地に一人では置いて行けないから、安全な場所まで送る……けど?」
ぼくの顔を見たリュートの言葉が、途切れた。
ぼくは顔をくしゃくしゃにして涙をこぼしていた。
「うっ、ひっく……やぁっ、ぃ、やだっ……リュートと離れる、なんて嫌だよ……えぐえぐ」
リュートは慰めてくれることも、頭をなでてくれることも、涙を拭ってくれることもない。
分かっている、リュートはそんなことをしないって。
ぼくが頼みこんで無理やり弟子になっただけで、リュートが望んでしたことじゃない。
迷惑だったよね? ぼくがいなくなったらせいせいするよね?
ぼくはリュートのクールなところが好き、でも今はリュートの冷たさで心が痛い。
すっと差し出された白い布地。
「ひっく、えぐ……リュート?」
「使って、ローブで拭かれるのは嫌だから」
リュートは心底嫌そうな顔で、ぼくにハンカチを手渡した。
「ひっく、ぐすっ……リ~~ュートォォォ!!」
ハンカチをにぎり締め、リュートに抱きつこうとしたら、スッとかわされた。
手にしていた『転んだ拍子に会心の一撃剣』が大地を深くえぐった。
遠くにいたモンスターを倒したらしく、経験値が入った。
リュートとの修行はここで終わりになった。
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