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8話「暗黒の大地《フィンスター・エーアト・ボーデン》」
しおりを挟む草木の一本が生えないカルデラ状の地形、凶悪なモンスターの生息地になっているこの場所は人々から恐れられ、いつしか「暗黒の大地」と呼ばれるようになっていた、とリュートが教えてくれた。
「暴風ッッ!!」
「火の精霊よ我に従え、炎の竜!!」
ぼくの暴風の直後にリュートが炎の竜を唱える。
「土の精霊よ我に従え、巨人の岩!!」
リュートが連続で魔法を放つ。
ズガーーン! ボカーーン!! ズドドどどォォォーーン!!
「ぐぁぁあああ!!」
「ぎしぃぃぃイイイイっっ!!」
「ぶぎっ、びしゃぁぁアあッッ!!」
特撮ヒーローものを思わせる爆発音に続き、大型の獣や虫の断末魔のような声が響く。
「魔法力が尽きるまで『暴風』を連発して!」
「はいっ! 暴風!! 暴風ーー!! 暴風ッッ!!」
ぼくは目隠しをされた状態で、自分が使える中で最上級の魔法「暴風」を連続で放つ。
「初日だしこれくらいでいいかな」
リュートの声に目隠しを外す。そこには不気味な光景が広がっていた。
羽根の引きちぎれた巨大な蛾のような生き物の死骸、下半身と上半身を真っ二つにされたアリのようなモンスター、炎をあげ苦しげな声を上げる虎に似た体の六本足の魔物。
ズタズタになった大地に、巨大な岩が転がり、切り刻まれた魔物や、炎を上げるモンスターの残骸が転がっている。
…………何、この地獄絵図。
「えっと、リュートこれって……」
「あんたのレベル上げ、暴風であんたがダメージを与えたモンスターにおれが止めをさした」
「へ、へぇ……」
「あんたの魔法の効力が大したことないから、経験値の分配は少ないけど」
「そうなんだ」
「とはいえ格上のモンスターが相手だし、少しは経験値になったんじゃない? どう?」
「えっ? うん、そう言われてみれば少し強くなった気がするかも……?」
体の中から力が湧き上がってくるような感覚がある。
「そう、ならよかった」
リュートはモンスターの死骸の山を目の前にしても、冷静だ。
「ちょっとダメージが通っただけのぼくのレベルが上がったんなら、これだけのモンスターを倒したリュートのレベルは相当上がったんじゃないの?」
リュートがうつむいた、その表情は沈んでいるようにも見えた。
「おれのレベルは……上がらないから」
リュートはレベルをカンストしてるのかな?
それとも格下のモンスターを倒したぐらいではレベルが上がらないほど、リュートのレベルは高いのかな?
この世界のレベルの上限っていくつなんだろう? 「99」? 「999」? 「9999」?
「ねぇ、リュート……」
「今日はもう終わり」
亜空間収納できる便利な袋を取り出し、その中にあるモンスターをしまい始めた。
リュートが袋にしまっているのは、無数の足のある百足に似たモンスター、大きさは電車の車両三台分ぐらいある。黒と緑の絵の具を混ぜたような体の色に、一週間放置した生ゴミのような匂い。
不思議だな、このモンスターを見ているとぼくがリュートに作ってもらった魔力回復アイテムを思い出す……。
「ねぇリュート、聞いてもいい? そのモンスター何に使うの?」
モンスターを袋にしまっていたリュートの体がピクリと震え、手が止まった。
「世の中には……知らないほうが幸せなことってあるよね」
珍しく憂いに満ちた顔で遠くを見つめるリュートに、ぼくの背筋がゾクリとした。
「うん、そうだね」
ぼくは魔力回復アイテムの材料が何なのかを、考えるのを放棄した。
ついでに百足のような姿をした、モンスターを脳内から消した。
…………いや無理だった。
魔力回復アイテムの原材料って、百足(ムカデ)だったの??
うぎゃあああああ……!!
ぼくの断末魔が暗黒の大地に響いた。
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