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1話「扉を開けたらそこは異世界でした」

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ある朝玄関を開けたら、目の前に森が広がっていた。

ぼくの家は閑静な住宅地にあり近所に森などない。

振り返ると家はなくなっていて、どこまでも森が続いていた。

森の中を歩くこと一時間、村を見つけた。

だけどどう見ても日本じゃない。

中世ヨーロッパ風の建物が並び、人々も中世のようなフードやローブを着ている。

とりあえず第一村人に声をかけてみる。

「あのすみません。ここってどこですか?」

どうか東京ド〇ツ村か天栄村にあるブリテ〇ッシュヒルズか映画のセットでありますように。淡い期待を込めて第一村人を上目遣いで見る。

緑の髪で背の高い、戦士風の衣装を着た人だった。

「……すきだ」

「はい?」

「すきだ村」というのだろうか?

ぼくが小首をかしげると、次の瞬間男に抱きしめられた。

「好きだ! 愛してる! 結婚してくれ!」

ギャー! と叫びたいのをぐっとこらえ、ぼくを抱きしめている男をぽかぽかと殴る。

「あの……ぼく男なんですけど!」

「男でもかまわない!」

男がぼくを抱きしめる腕に力を込める。

痛い! 苦しい! だれか助けて!

「離して!」

ぼくがぽかぽか攻撃を続けていると、「おい! その手を離せ!」誰かが男を蹴り飛ばした。

ぼくはようやく男の腕から解放された。

「あの助けてくれてありがとうございます」

助けてくれた人に頭を下げる。

金髪の、貴族風の服を着た美青年だった。

青年はぼくの手を取り「礼など入りません! どうか私と結婚して下さい!」宝石のようにキラキラ光る目でぼくを見つめる。

「あのぼく、男なんですけど」

引き気味に僕が答えると。

「琥珀色の髪に黒真珠のような瞳、雪のように白くすべすべした肌に、薔薇のようにピンクの唇、折れそうな華奢な体! 君のように可憐な人なら男でもかまわない!!」

青年はそう言ってぼくを強く抱きしめた。

助けてくれたと思ったのに、この人も変態だった!

「僕と一緒に屋敷に帰り結婚式を上げましょう!」

馬車に乗せられ誘拐されそうになったぼくを、今度は猟師風の黒髪の青年が助けてくれた。

その人にも「一目ぼれした! 伴侶になってくれ!」と言われ、宿屋に連れ込まれた。

宿屋の主人が助けてくれて、その人も変態でベッドに押し倒された。

今度は赤髪の魔法使い風の人が助けてくれた。やっぱり、その人も変態で求婚されて押し倒されて。

そんなことを何十回か繰り返し、日が傾きかけた頃、ぼくは村で最初に声をかけた緑の髪の男に森の中に連れこまれ、木の根元に押し倒されている。

逃げ回っている間に服をはぎ取られ、靴を落とし、今ぼくが身につけているのは白のワイシャツに白の靴下だけだ。

両手を頭の上で拘束され、男に馬乗りになられ身動きが取れない。

「はぁはぁ、やっと二人きりになれた……!」

男がギラギラした目つきでぼくの体をなめ回すように見る。男の荒い鼻息がぼくの顔にかかる。

気持ち悪い。生理的な嫌悪感で背中を冷たい汗が伝う。

「妖精が最初に声をかけたのは俺だっつうの……!」

男が上着を脱ぎ捨てる。

見事に六つに割れた腹筋と筋骨隆々の太い腕があらわになる。

「止めて……!」

プルプルと震えながら涙目で見上げると「くっ、そんなにあおるなよ妖精!」男が顔を赤くし、舌なめずりをした。

「やぁぁ……!」

男の手がぼくの胸に近づいてくる、嫌悪感で背筋が凍る。

「ねぇ、迷惑だからここで騒ぐの止めてくれる」

淡々とした冷たい声が響く。

「ああっ! 誰だよ! こいつは俺の嫁だ!」

男が地面においた剣を手に取る。

男が周りを見回すが誰もいない。

「ここだよ」

木の上から、少年が下りてきた。

空のような青い髪に、サファイアのような青い目、白いマントを身に付けた凜としたたたずまいの美少年だった。

多分ぼくと同い年ぐらい。

「ガキは家でママのおっぱいでも飲んでな! こいつは俺のもんだ!」

男が立ち上がり剣を抜く。

「そうなの?」

男に剣を向けられても顔色一つ変えず、少年がぼくに尋ねる。

「違います!」

ぼくは上半身を起こしふるふると首を横に振る。

「違うってさ」

少年が男に視線を戻す。

緑の髪の男ぼくを見て「まじ可愛い! 絶対に犯す!」と呟く。

男に飢えた野獣のような目で見られ、ぼくの体がぶるりと震える。

「うるせぇ! 妖精は俺の嫁なんだ! 邪魔するならガキでも容赦しねぇ!!」

緑髪の男が少年に切りかかる。

「ダメっ!」

ぼくのせいで少年が死んじゃう!

「風の精霊よ我に従え、暴風シュトゥルムヴィント

少年の手から暴風が巻き起こり、緑髪の男は上半身裸のまま放物線を描きお空のかなたに飛んでいった。

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