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二章
31話「新しいペン持つと何か書きたくなる不思議」ざまぁ
しおりを挟む「ねねねね……猫なんか、ち、ちっとも怖くないんだから!
あ、あんたたち……わわわわわ……わたしたちを、どどどど……どうする気よ!」
王太子妃がこちらに向かって何か吠えている。
言っていることは威勢がいいが、彼女の顔色は真っ青で体はブルブルと震えていた。
「威勢がいいお嬢さんですね。
あなたの勇気を称賛し、ご褒美にあなたの顔にあなたを表すのにぴったりな言葉を書いてあげます」
倉庫でケットシーの子供が持っていたペンを、貸して貰ってきた。
ご主人様が開発したインク入りのペンだ。
このペンで書いたものはそう簡単には消えない。
「な、何をする気……!」
私は王太子妃に近づき、彼女の額に「阿婆擦れ」と書いてやった。
ついでに王太子妃の頬に「尻軽」「ビッチ」と書いてやった。
王太子妃の顔を見た貴族たちが笑いをこらえている。
「ちょっと、わたしの美しい顔に何を書いたのよ!」
「あなたを表すのにピッタリな言葉ですよ」
眷属の猫に鏡を持ってこさせ、王太子妃に渡す。
「きゃーーーー!! 何なのよこの文字は!!」
自分の額に書いてある文字を見た王太子妃が悲鳴を上げる。
いい気味です。
「王太子妃の額にだけ書くのは不公平ですね。
王太子や他の皆さんにもピッタリの言葉をプレゼントしましょう!」
会場にいた人間全員が手で顔を隠し後ずさる。
王太子と王太子妃にだけ重い罰を与えようとしたが、考えてみればリコ様に酷いことをしたのはこの二人だけではない。
神官はリコ様に粗末な食事しか与えず、冬でも冷水で禊をさせ、国中を連れ回し、リコ様を馬車馬のように働かせた。
私の調べではリコ様が瘴気を浄化した土地の持ち主から、多額の寄付金をせしめている。
リコ様には寄付金のことを秘密にし、しかもそのお金を銅貨一枚分もリコ様の為に使っていない。
集めた寄付金を貧しい子供達や病人のためにでも遣ったのならまだ情状酌量の余地があるが、奴らは集めたお金を袖の下に入れ私服を肥やしていた。
神官たちには厳罰が必要だ。
辺境伯は自分の半分以下の年齢のリコ様を金で買おうとした。こいつにも重い罰が必要だ。
貴族達も同罪だ。
私の調べによると、奴らは聖女であるリコ様に感謝をせず、「平民風情が調子に乗るな」と陰口を叩いていた。
貴族にも重い罰を与えよう。
私が会場にいる人間たちを見据え舌なめずりすると、奴らは恐怖におののいた顔で後ずさりした。
会場の出口は眷属たちが警備しているので、この部屋からはネズミ一匹逃げ出すことは出来ない。
人間たちは徐々に壁際に追い詰められていく。
私はペンを握りしめ、電光石火の早業で彼らの額や頬に悪口を書いていった。
王太子の額には「ロリコン変態王子」と書き、奴の頬には「ゴミクズ」「ゲス野郎」と書いた。
辺境伯の額と頬には「守銭奴・女狂い・人間のクズ」、神官の額には「金の亡者」「生臭坊主」「カス野郎」と書いておいた。
他の貴族や商人の顔にも適当に悪口を書いておいた。
奴らの顔に悪口を書いたことで、少しだけ気が晴れた。
人間たちは窓ガラスや鏡に自分の顔を映し、己の顔に書かれた文字を見て悲鳴を上げている。
「うわぁぁぁ! 僕が水虫であることをバラされたーー!」
「額に『親友の婚約者と寝た尻軽アホ女』って書かれたわ! もうお嫁にいけない! ちょっと火遊びしただけなのにあんまりよ!」
「あなたの額に書いてある『浮気男』って何よ!」
「お前だって額に『下男と寝たわ』って書いてあるじゃないか!」
己に書かれた文字を見て悲観するもの、相手に書かれた文字を見て相手を責めるもの、相手に責められ泣き出すものなどで溢れ、会場内は騒然としていた。
少しだけ気が晴れたが、奴らへの断罪はこれで終わりではない。
リコ様と貧困に喘ぐ民が味わった苦労を思い知らせてやる!
奴らへの断罪はこれからが本番だ。
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