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二章
20話「不安な気持ちとみんなへの感謝」
しおりを挟む日常的に使う道具を作るのには成功したけど、肝心の次元を超える機械の制作が難航している。
理由は明白、次元を超えることに関しての資料が足りないからだ。
僕が悩んでいたら、ケットシーとケルベロスがどこからか百冊近い本を持ってきてくれた。
本には綺麗な装飾が施されていて、カラーの挿絵まで入っていた。
これ……絶対高い本だ。
カラーの挿絵入りの本は値が張るから王族か貴族か大商人しか持てない。
「有り難いけど、こんな本をどこからか……」
本の裏表紙に、【王族図書館・持ち出し禁止! 門外不出!】と書かれていた。
ケットシーとケルベロスはどうやら王宮の図書館に忍び込み、門外不出の禁書を持ち出してきたらしい。
王宮の図書館だから、当然結界も施してあっただろう。
だけど人間の張った結界なんかケルベロスの手にかかれば、存在しないのも同然だろう。
これバレたら処刑される奴じゃ…………。
まぁ、いっか。
僕は二秒ほど考え、そう決断した。
アホ王子だって母さんを異世界から勝手に呼び出したんだ。これでおあいこだろ。
第一誰が盗んだかなんて、結果が破られた事にも気づかない彼らにわかるはずがない。
「後でちゃんと返すからこれは泥棒じゃない……はず」
僕は自分にそう言い訳した。
ケットシーたちが持ってきてくれた本のおかげで、次元を超える機械の作成は順調に進んだ。
それでも機械を完成させるのに四年もかかってしまった。
「待っててね母さん!
僕と父さんが絶対に迎えに行くからね!」
完成間近の機体を撫で、自身を鼓舞するためにそう口にする。
本当は次元を超えるのが少し怖い。
機械が故障したらとか、向こうの世界に行っても母さんを見つけられなかったらとか、そういう心配もある。
だけど僕が一番恐れているのはそんなことじゃない。
母さんは自称神様に記憶を消されてる。
記憶の無くした母さんが僕を見て顔を顰めたら?
母さんに「あなたたち誰よ?」と言われ拒否されたら……そう考えると凄く怖いんだ。
そのとき五歳のとき父さんとした会話を思い出した。
『ねぇ、父さん。
もしもだよ、母さんが記憶を失ってて、僕たちと再会しても何も思い出さなかったら……』
『そんなもしもの心配しても仕方ねぇよ。
そんときはリコが俺たちのことを思い出すまで、向こうに住みついてやる』
『うん、そうだよね。
絶対に母さんに思い出してもらおう!
でも、父さん向こうの世界でできる仕事あるかな?』
『心配すんな。
リコが言ってたんだ。
【あなたの木彫りの置物良く出来てるわね!日本でも高く売れそうだわ!】ってな。
だから向こうの世界に行っても父さんはやっていける!』
『それって、母さんが父さんに気を使っていったお世辞なんじゃ……』
『ゴフッ……』
父さんとのあのときの会話は僕の心の支えだ。
本人は気づいてないけど、父さんは天性の人たらし……いや生き物たらしだから、母さんか記憶を失っていてもすぐに仲良くなれちゃうんじゃないかと思ってる。
ただの僕の希望だけどね。
僕が諦めないで研究を続けて来れたのは、支えてくれた父さんと眷属たちのおかげだ。
みんなには心から感謝している。
☆
冬至を過ぎたある日、僕はついに次元を超える機械を完成させた。
母さんを連れ去られてから四年が経過していた。
僕は七歳、父さんは三十一歳になっていた。
「行こう、父さん」
「ああ行こう。
帰ってくるときは三人だ」
機械の中に食料と着替えと父さんの仕事道具を詰め込む。
あと多分向こうでは使えないと思うけど、この世界のお金も持っていくことにした。
眷属たちには留守番を頼んだ。
ケルベロスと雷竜は、父さんに抱きついてベロベロと父さんの顔を舐めている。
「ご主人様、留守の間にしておくことはございますか」
ケットシーに「ご主人様」と言われるとむず痒い気持ちになる。
だってケットシーは僕よりも父さんに懐いているから。
おそらく召喚したのが僕だから、ケットシーは僕の顔を立ててそう呼んでいるのだろう。
「そうだね。
母さんが帰ってきたとき気持ちよく過ごせるように大掃除をしておいて」
今年は忙しくて年末の掃除ができなかった。
母さんにはできるだけ綺麗な空間で過ごして貰いたい。
「大掃除ですね。
承知いたしました」
ケットシーの言い方には含みがあるような気がしたが、次元を超えることで頭がいっぱいで、僕は彼の言った言葉の意味を深く考えなかった。
ケットシーは僕と約束した通り、隅々まで大掃除していてくれた。
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