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二章
14話「クリスマスイブの奇跡」
しおりを挟む異世界から帰還して四年。
その日はクリスマスイブだったが、あたしは仕事だった。
予定もないし、いつもよりお金を多くもらえるから、自ら進んで仕事を入れたのだ。
残業して帰路についた。
その日はクリスマスのイルミネーションや、仲良く歩くカップルや家族連れがやけに目についた。
今年の春から一人暮らしを始めたので家に帰っても一人だ。
カラオケでもしてから帰ろうかな……と思って歩いていたら、あたしの前に誰かが立ちふさがった。
「リコ……」
「母さん……!」
それはあたしのよく知ってる人たちで、あたしがずっと会いたかった人たちだった。
コルトがあたしの名前を呼んでいる。
これは夢かな?
コルトとアビーが恋しすぎてこんな幸せな夢を見てるのかな?
コルトは相変わらずかっこよくて、アビーは見ない間に背が伸びていた。
目の前にコルトとアビーがいる……!
神様……は信じてないけど、サンタクロースが二人の幻影を見せてくれたのかもしれない。
お願い、夢でも幻影でもいいからこのまま覚めないで……!
「あの、ごめん。
初対面でこんなこと言われても面食らうと思いますが……俺たちはその決してあやしい者では……!」
コルトが申し訳無さそうに謝りだしだ。
夢じゃない? これは現実なの?
四年前、自称神様があたしを連れ去るとき「大丈夫だよ、私が元の世界に戻してあげるからね。ここでの忌まわしい記憶を消してね」こんなこと言ってたわね。
コルトとアビーの中で、あたしは自称神様に記憶を消されたことになってるのね。
だからコルトは、「初対面」なんて言ってるのね。
「……バカ」
「えっ?」
「初めましてじゃないでしょう?
何年一緒に暮らしたと思ってるのよ」
「リコ……記憶があるのか?」
コルトは驚いた顔をしている。
「ああ、あたしを勝手に日本に連れ帰った自称神様ね!
あたしの記憶を消そうとするから、顔を引っ掻いて腕に思いっきり噛みついてやったわ!
そしたら逃げるように姿を消したわ!
全く逃げる前に私をコルトとアビーのいた世界に返しなさいっての!」
「良かった……!
本当に良かった……!」
「ちょっと、コルトなんで泣いてるの……!?」
コルトが急に泣き出した。
「母さ~~ん!」
アビーが泣きながら抱きついてきた。
アビーったら小さい頃と変わらず、泣き虫なままね。
別れたときあたしの膝の高さしかなかったアビーの身長は、あたしの腰の高さに達していた。
あと数年したらアビーにあたしの身長を追い抜かれてしまいそうだわ。
「アビー大きくなったわね!
成長しても泣き虫のままね」
コルトがあたしとアビーを同時に抱きしめた。
「ねぇ、どうやってこっちの世界に来たの?
自称神様を捕まえて締め上げたとか?
それとも城に攻め込んで王家の秘術を盗んだの?」
「どっちも違うよ」
コルトとアビーが、自称神様を締め上げたところを想像するとちょっと笑えた。
あのロリコン王子が国宝を盗まれピーピー泣いてるところを想像したら、もっと笑えた。
あたしって性格が悪い?
二人がどうやってこっちの世界に来たのかその方法が気にならない訳じゃない。
でも今はそんなことどうでもいい。
今は二人との再会を心から喜びたい。
その前に二人とも青白い顔をしているから、温かい物を食べさせてあげたい。
「とりあえず寒いからどっかのお店に入ろうよ。
あ、ちょうどハンバーガーショップがある」
コルトとアビーと一緒にハンバーガーショップに入れる日が来るなんて……夢みたい!
異世界にいるときあれだけ望んだ日本の食べ物も、一人で食べても美味しいとは思えなかった。
あたしにとってのご馳走はコルトとアビーと一緒に食べた、ちょっと硬いパンと手作りチーズとお肉入りスープなのだ。
「クリスマスイブだから期間限定ハンバーガーが食べられるかも!?
奢ってあげるわ!
温かいコーヒーとポテト付きでね!
帰りにクリスマスケーキを買って帰りましょう!
家族用の大っきなやつ!」
今年から一人暮らしを始めたから、生活はカツカツだけど、クリスマスケーキを食べるぐらいの余裕はある。
ローストビーフとピザとスペアリブとクリスマスチキンとハンバーグとローストポークとチキンステーキも買っちゃおうかな?
「ありがとう」
そう言ってはにかんだコルトの顔は、四年経っても変わっていなかった。
ううん彼は初めて会った日から変わっていない。
彼の瞳は純粋でまっすぐで少年のようにキラキラしたままだ。
大好きな旦那様に抱きついてチューしたがったけど、公道だし、子供の前なので我慢した。
「神様は信じないけど、サンタさんは信じてもいいかも。
こうしてコルトとアビーに会わせてくれたんだから」
クリスマスイブにコルトとアビーに会わせてくれるなんて、サンタクロースも粋なことをしてくれる。
あたしは心の中でサンタクロースに感謝した。
「ねぇ、リコ……」
「なぁに、コルト?」
「この世界じゃ飛行機以外に、ソリも空を飛ぶの?」
「はっ?」
コルトは不意に空を見上げたあと、あたしの顔を見て真顔で訪ねてきた。
彼には何かあたしに見えないものが見えたのかもしれない。
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