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3話「元婚約者が何故か怒っています」
しおりを挟むあれから一カ月が経過しました。
私とエドワード様の婚約は無事に解消されました。
解消されたのですが……。
「アリーシア!
僕と君の婚約が解消になったってどういうことだ!」
ある日、エドワード様が血相変えてロンメル伯爵家に乗り込んできました。
礼儀正しい彼が、先触れもなく訪れるなんて珍しいです。
「取り敢えずガゼボでお茶をしながら話しましょう」
使用人の目もあるので、私はエドワード様を連れて、ガゼボに場所を移しました。
メイドがクッキーとお茶をだしてくれました。
ガゼボには私とエドワード様だけが残されました。
「改めて聞く、僕とアリーシアの婚約が解消されたとはどういうことだ!」
彼は美しい顔を歪ませ、眉を吊り上げていました。
彼がこんな風に怒るところを初めて見たかもしれません。
「エドワード様はディアがお好きなのでしょう?
ディアもエドワード様をお慕いしているようなので、エドワード様の婚約者の立場をディアと代わっていただきました」
彼にとってもこれは僥倖なはずです。
なのに、なぜ彼は怒っているのかしら?
「なぜ、僕が愛しているのが君の妹になるんだ!?」
彼は戸惑いと困惑の混じった表情をしていました。
何を今更白々しい。
「理由はいくつかあります。
一つ目は、エドワード様が妹のクラウディアを「ディア」と愛称で呼ぶことですわ。
私はエドワード様と婚約してから、一度も愛称で呼ばれたことがありません。
婚約者ではなくその妹を愛称で呼ぶなんて、通常はありえません」
そんなことは貴族の常識ですわ。
「それは君がクラウディア嬢を『ディア』と呼んでいるから、呼び方が移ってしまっただけだ。
今後はアリーシアのことを『シア』と呼び、君の妹のことは『クラウディア嬢』と呼ぶことにするよ」
今更そんな言い訳しても無駄です。
「私とエドワード様の婚約はすでに解消されております。
いまさら愛称で呼ばれても困りますわ。
とはいえエドワード様は妹の婚約者、「ロンメル伯爵令嬢」と家名で呼ばせるのはよそよそしいですし、エドワード様も年下の私を『お義姉様』と呼ぶことに抵抗があるでしょう。
なのでこれからは私のことは『アリーシア嬢』と呼んで下さい」
元婚約者が妹と婚約するって意外と面倒なんですのね。
私が表情一つ代えず冷静に伝えると、エドワード様が困ったように眉尻を下げました。
「僕が愛しているのはシアだ! 信じてくれ!」
「愛称呼びはおやめください。
周囲に誤解されますわ」
「どうしたら僕がシアを愛していると信じてくれるんだ?」
「今さらエドワード様を信じるなんて無理ですわ」
「なぜだ!?
僕は名前の呼び方以外にもミスをおかしたというのか?」
「二つ目の理由は薔薇の花束です。
エドワード様は当家を訪れるとき、私に十五本の黄色い薔薇の花束を、
ディアには七本のピンクの薔薇の花束を渡していましたよね?」
「ああ渡していた。それがなんだと言うんだ?
君も花束を喜んで受け取ってくれたじゃないか」
エドワード様は心底わからないという表情をされました。
「以前シアが黄色と十五という数字が好きだと言っていたから黄色い薔薇を十五本渡した。
クラウディア嬢はピンク色と七という数字が好きだと言っていたから、ピンクの薔薇を七本渡した。
クラウディア嬢に贈った花束より、君に贈った花束の方が、薔薇の本数が多い。
二人の好きな色の花を渡しただけだし、クラウディア嬢は婚約者の妹だから親切にしただけだ、なんの問題ないだろう?」
「エドワード様は薔薇の花言葉が色や本数によって変わることをご存知ないのですか?」
「花言葉……?」
「黄色い薔薇の花言葉は『友情』『薄れゆく愛』、十五本の薔薇の花言葉は『ごめんなさい』
ピンクの薔薇の花言葉は『可愛い人』『美しい少女』、七本の薔薇の花は『密かな愛』『ずっと言えませんでしたがあなたが好きでした』という意味があります。
それにピンクはエドワード様の瞳と髪の色。自分の髪の瞳の色の花を異性に渡すことの意味を知らないはずがないわ。
エドワード様はそのことを知っていて私に黄色い薔薇を十五本、ディアにピンクの薔薇を七本贈っていたのでしょう?」
「知らない!
薔薇の花にそんな花言葉があるなんて僕は知らなかった!
たかが花言葉で婚約を解消するなんてあんまりだ!」
彼は泣きそうな顔をしていました。
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