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1話「婚約者と薔薇の花束」
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空は青く晴れ渡り、小鳥の囀りが響き、蝶が花を求めて飛び交う……とてものどかな昼下がり。
ですが私の心は冬の日のように曇っていました。
原因は、私の婚約者と妹にあります。
彼らの関係を見ていると……私の胸はざわざわと音を立てるのです。
婚約者のエドワード・コルベ伯爵令息が我が家のお茶会にやってきました。
彼は二束の薔薇の花束を手にしていました。
「アリーシア、ディア、久しぶり」
「エドワード様、お久しぶりです」
「エド様、お元気でしたか?」
エドワード様は婚約者の私を「アリーシア」と呼び、妹のクラウディアを「ディア」と愛称で呼んでいました。
私は婚約者を「エドワード様」と呼んでいるのに対して、妹はエドワード様を「エド様」と愛称で呼んでいるのです。
エドワード様は、桃色の髪に珊瑚色の瞳の目鼻立ちの整った美青年でした。
彼がパーティに参加すれば、若い女性が群がって来るほどの人気です、
そして妹は金色の髪にサファイアブルーの瞳の、儚げで可憐な容姿の美少女でした。
彼女に恋をしている男性を、私は少なくとも五人はしっています。
対して私は茶色のくせの強い髪に、栗色の瞳、普通な容姿。
私は妹に比べてとても地味なのです。
エドワード様が妹を優遇したくなる気持ちも分かります。
ですが、呼び方で差をつけるのはいかがなものかと思いますわ。
「エド様、素敵な薔薇の花束ですね」
ディアが話しかけると、エドワード様が嬉しそうに目を細めました。
朗らかな表情で見つめあう二人は、まるで恋人同士のようです。
ふたりとも、私がいることを忘れているのではないでしょうか?
「気付いたかい? ディア。
花屋の前を通りかかったら、美しい花が咲いていたので、思わず購入してしまったよ。
これは君たちへのプレゼントだよ。
アリーシアには黄色い薔薇を」
エドワード様は、私に黄色い薔薇をプレゼントしてくれました。
花束からはとても甘い香りがします。
私たちにプレゼント……という、彼の言葉が引っかかりました。
彼は、なぜ婚約者である私にだけ花束をプレゼントしてくれないのでしょうか?
「ありがとうございます。エドワード様」
私はにこりと微笑み、エドワード様から花束を受け取りました。
私は上手く笑えていたでしょうか?
笑顔が引きつってはいなかったでしょうか?
婚約者から花束を貰って嬉しいはずなのに……何故か、胸がざわざわしています。
原因は薔薇の色と本数にあります。
私がエドワード様に頂いた薔薇の本数は……十五本。
また十五本なのですね……。
私は薔薇の本数を数え憂鬱な気分になりました。
「そしてディアにはこれを」
エドワード様がディアにも花束を贈りました。
ディアが受け取ったのは、桃色の薔薇でした。
「ピンクの薔薇ね綺麗!
ありがとうございます! エド様」
花束を見たエディは、嬉しそうに頬を染め、満面の笑みを浮かべていました。
エドワード様も……ディアに花束を渡したときの方が、私に花束を渡すときより嬉しそうな顔をしている気がします。
美男子のエドワード様と美少女ディアが並ぶと、まるで一枚の絵画のように見えました。
私はこっそりとディアが貰った花束の薔薇の数を数えました。
彼女が貰った薔薇の本数は七本でした。
薔薇の本数を知ったとき、私の胸はつきりと音を立てました。
この痛みを感じるのは何度目でしょう?
エドワード様とディアが見つめ合って微笑んでいるとき、エドワード様が妹を「ディア」と相性で呼ぶとき、ディアが貰った薔薇が桃色の薔薇で、本数が七本だとわかったとき……。
私の心臓に薔薇の棘が刺さったような、そんな痛みが走るのです。
花にはそれぞれ花言葉があります。
薔薇の場合、色や本数事に花言葉があります。
黄色い薔薇の花言葉は「友情」や「薄れゆく愛」、十五本の薔薇の花束の花言葉は「ごめんなさい」。
ピンクの薔薇は「可愛い人」「美しい少女」、七本の薔薇の花束の花言葉は「密かな愛」。
それに加えてエドワード様の髪と瞳の色は桃色。
自分の瞳の色の花束やアクセサリーを異性に贈ることがどのような意味を持つか、生粋の貴族であるエドワード様が知らないはずありません。
エドワード様は私が花言葉に疎いと思っているのかしら?
それとも、私にわかるように、わざと花の色と本数を調整しているのかしら?
彼はきっと、私に諦めて欲しいのね。
私との婚約を解消して、妹と婚約を結びたいのだわ。
エドワード様がご自身の髪と瞳の色の花束を妹に贈り、妹を愛称で呼んだということは……そういうことよね?
彼は婚約者の私より、妹のディアが好きなんだわ。
ディアは天真爛漫な性格で友達も多く、母親譲りの美貌を兼ね備えています。
それに比べて私は、父親似で、平凡な顔立ち。その上感情を表に出すのが苦手です。
誰だって結婚するなら、ディアの方がいいに決まっています。
私も今年で十八歳になります。
エドワード様は今年二十歳。ディアはもうすぐ十七歳。
貴族の女は二十歳を過ぎたら行き遅れと言われます。
エドワード様との婚約を解消するなら、今しかありません。
お父様に言って私とエドワード様の婚約を解消してもらいましょう。
その上で新たに、エドワード様とディアの婚約を結んでもらいましょう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もしよければブックマークやいいねをしていただけると、嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。
【書籍化のお知らせ】
この度、下記作品が書籍化されることになりました。
「彼女を愛することはない 王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」
著者 / まほりろ
イラスト / 晴
販売元 / レジーナブックス
発売日 / 2025年01月31日
販売形態 / 電子書籍、紙の書籍両方
こちらもよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/681592804
2025年1月16日投稿の新作中編もよろしくお願いします!
「拾った仔犬が王子様!? 未来視のせいで男性不信になった伯爵令嬢は獣耳王子に溺愛される」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/233933527
ですが私の心は冬の日のように曇っていました。
原因は、私の婚約者と妹にあります。
彼らの関係を見ていると……私の胸はざわざわと音を立てるのです。
婚約者のエドワード・コルベ伯爵令息が我が家のお茶会にやってきました。
彼は二束の薔薇の花束を手にしていました。
「アリーシア、ディア、久しぶり」
「エドワード様、お久しぶりです」
「エド様、お元気でしたか?」
エドワード様は婚約者の私を「アリーシア」と呼び、妹のクラウディアを「ディア」と愛称で呼んでいました。
私は婚約者を「エドワード様」と呼んでいるのに対して、妹はエドワード様を「エド様」と愛称で呼んでいるのです。
エドワード様は、桃色の髪に珊瑚色の瞳の目鼻立ちの整った美青年でした。
彼がパーティに参加すれば、若い女性が群がって来るほどの人気です、
そして妹は金色の髪にサファイアブルーの瞳の、儚げで可憐な容姿の美少女でした。
彼女に恋をしている男性を、私は少なくとも五人はしっています。
対して私は茶色のくせの強い髪に、栗色の瞳、普通な容姿。
私は妹に比べてとても地味なのです。
エドワード様が妹を優遇したくなる気持ちも分かります。
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ディアが話しかけると、エドワード様が嬉しそうに目を細めました。
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「ありがとうございます。エドワード様」
私はにこりと微笑み、エドワード様から花束を受け取りました。
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私がエドワード様に頂いた薔薇の本数は……十五本。
また十五本なのですね……。
私は薔薇の本数を数え憂鬱な気分になりました。
「そしてディアにはこれを」
エドワード様がディアにも花束を贈りました。
ディアが受け取ったのは、桃色の薔薇でした。
「ピンクの薔薇ね綺麗!
ありがとうございます! エド様」
花束を見たエディは、嬉しそうに頬を染め、満面の笑みを浮かべていました。
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彼女が貰った薔薇の本数は七本でした。
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