完結「婚約者が妹と浮気していました、二人は私に冤罪を着せ殺したいようです」

まほりろ

文字の大きさ
上 下
6 / 15

6話「祖母の人生」

しおりを挟む


イザベル・シムソンは侯爵家の長女で金色の髪に青い目の美しい少女だったという。

イザベルにはフリーダ・ボーゲンといういとこがいた。フリーダは公爵家の跡継ぎで、黒い髪に黒い目にわしのような鼻の醜い少女だった。

イザベルにはバナン・ケッペンという名の、伯爵家の次男で美男子の婚約者がいた。

バナンに惚れていたフリーダは、イザベル
を葬る計画を立てた。フリーダはイザベルのお茶に少量ずつ毒を混ぜて飲ませた。フリーダに毒を盛られたイザベルは日に日に弱っていき、ついにはベッドから起き上がれなくなった。

イザベルはシムソン侯爵家の跡継ぎだったが、病弱なことから跡継ぎに相応しくないとされ後継ぎから外された。侯爵家の跡継ぎにはイザベルの妹が指名された、跡継ぎに指名されたときイザベルの妹はまだ一歳だった。

バナンはイザベルが侯爵家の跡継ぎでなくなった途端にイザベルとの婚約を解消し、公爵家の跡継ぎであるフリーダと婚約した。

『……とここまではイザベルは被害者で悲劇のヒロインであったが、だがここからイザベルのしたことがえげつない、そのえげつなさをわしは気に入っている』

悪魔の本が楽しげにそう語った。

ある日フリーダは余命幾ばくのないイザベルの元を訪れ、真実を告げた。イザベルが体調を崩した理由も、バナンがイザベルを捨てた経緯も。

その時にはすでにバナンはフリーダと結婚していたし、イザベルは手のほどこしようのないほど弱っていたし、シムソン侯爵家はボーゲン公爵家からイザベルの治療費として多額の金を借りていたので、真実を知ってもイザベルはどうすることも出来なかった。

フリーダの帰ったあとイザベルは悔しさと絶望でしばし呆然ぼうぜんとしていた。一刻後イザベルの頬を涙が伝い、それからイザベルは丸一日泣いた。

やがてイザベルの涙は枯れ、イザベルの心にはフリーダへの恨みと憎悪だけが残った。

人を憎む醜い波長と悪魔の本であるわしの波長が共鳴し、気づいたらわしはイザベルの元に呼び寄せられていた。

『わしはイザベルに尋ねた【復讐したいか?】と』、イザベルはわしの問いにコクリとうなずいた。

わしは心と体を入れ替える魔法に長けていた。イザベルにそなたとフリーダの心と体を交換してやると提案すると、イザベルは満面の笑みを浮かべた。

イザベルはわしの言うとおりに行動し、フリーダの体を手に入れた。

イザベルの体に入ったフリーダは、酷く混乱していた。だが毒に犯されていたイザベルの体は精神と肉体が入れ替わった衝撃に耐えられず、数分も持たずにショック死した。

二人が入れ替わった事実を知る人間は、フリーダの体に入ったイザベルだけになった。

復讐を果たしフリーダの体を手に入れたイザベルだが、幸せにはなれなかった。イザベルを裏切った夫のバナンと、フリーダとバナンの子供であるゲリーをどうしても愛せなかった。

フリーダの体に入ったイザベルは、息子のゲリーに厳しい教育を施した、やがてそれは親子の確執に繋がった。

成長したゲリーはフリーダイザベルの反対を押し切りクレイを嫁にした。

クレイは、かつてのイザベルの容姿を彷彿ほうふつとさせる金色の髪に青い目の美少女であった。

フリーダイザベルはクレイを見るたびに、かつての己を見ているような気分に陥った。

フリーダに毒を飲まされなければ、自分はイザベルのままでいられた。

美しい容姿と健康な肉体を持ち、侯爵家の跡継ぎのままでいられ、美男子の婚約者と結婚し、可愛い子供を授かり、優しい家族に囲まれ幸せに暮らせたはずだった……その全てを本物のフリーダが壊した。

シムソン侯爵家がボーゲン公爵家に借金をしたのも、婚約者バナン自分イザベルを裏切ったのも、全て本物のフリーダのせいだ。 

悪人フリーダの息子であるゲリーが、愛する人と結婚し幸せに暮らすなんて許せない! そう考えたフリーダイザベルは息子のゲリーにつらく当たり、ゲリーを庇う嫁のクレイにも酷い仕打ちをした。

わしの知っているのはここまでだ。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...