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6話「祖母の人生」
しおりを挟むイザベル・シムソンは侯爵家の長女で金色の髪に青い目の美しい少女だったという。
イザベルにはフリーダ・ボーゲンといういとこがいた。フリーダは公爵家の跡継ぎで、黒い髪に黒い目にわしのような鼻の醜い少女だった。
イザベルにはバナン・ケッペンという名の、伯爵家の次男で美男子の婚約者がいた。
バナンに惚れていたフリーダは、イザベル
を葬る計画を立てた。フリーダはイザベルのお茶に少量ずつ毒を混ぜて飲ませた。フリーダに毒を盛られたイザベルは日に日に弱っていき、ついにはベッドから起き上がれなくなった。
イザベルはシムソン侯爵家の跡継ぎだったが、病弱なことから跡継ぎに相応しくないとされ後継ぎから外された。侯爵家の跡継ぎにはイザベルの妹が指名された、跡継ぎに指名されたときイザベルの妹はまだ一歳だった。
バナンはイザベルが侯爵家の跡継ぎでなくなった途端にイザベルとの婚約を解消し、公爵家の跡継ぎであるフリーダと婚約した。
『……とここまではイザベルは被害者で悲劇のヒロインであったが、だがここからイザベルのしたことがえげつない、そのえげつなさをわしは気に入っている』
悪魔の本が楽しげにそう語った。
ある日フリーダは余命幾ばくのないイザベルの元を訪れ、真実を告げた。イザベルが体調を崩した理由も、バナンがイザベルを捨てた経緯も。
その時にはすでにバナンはフリーダと結婚していたし、イザベルは手のほどこしようのないほど弱っていたし、シムソン侯爵家はボーゲン公爵家からイザベルの治療費として多額の金を借りていたので、真実を知ってもイザベルはどうすることも出来なかった。
フリーダの帰ったあとイザベルは悔しさと絶望でしばし呆然としていた。一刻後イザベルの頬を涙が伝い、それからイザベルは丸一日泣いた。
やがてイザベルの涙は枯れ、イザベルの心にはフリーダへの恨みと憎悪だけが残った。
人を憎む醜い波長と悪魔の本であるわしの波長が共鳴し、気づいたらわしはイザベルの元に呼び寄せられていた。
『わしはイザベルに尋ねた【復讐したいか?】と』、イザベルはわしの問いにコクリとうなずいた。
わしは心と体を入れ替える魔法に長けていた。イザベルにそなたとフリーダの心と体を交換してやると提案すると、イザベルは満面の笑みを浮かべた。
イザベルはわしの言うとおりに行動し、フリーダの体を手に入れた。
イザベルの体に入ったフリーダは、酷く混乱していた。だが毒に犯されていたイザベルの体は精神と肉体が入れ替わった衝撃に耐えられず、数分も持たずにショック死した。
二人が入れ替わった事実を知る人間は、フリーダの体に入ったイザベルだけになった。
復讐を果たしフリーダの体を手に入れたイザベルだが、幸せにはなれなかった。己を裏切った夫のバナンと、フリーダとバナンの子供であるゲリーをどうしても愛せなかった。
フリーダの体に入ったイザベルは、息子のゲリーに厳しい教育を施した、やがてそれは親子の確執に繋がった。
成長したゲリーはフリーダの反対を押し切りクレイを嫁にした。
クレイは、かつてのイザベルの容姿を彷彿とさせる金色の髪に青い目の美少女であった。
フリーダはクレイを見るたびに、かつての己を見ているような気分に陥った。
フリーダに毒を飲まされなければ、自分はイザベルのままでいられた。
美しい容姿と健康な肉体を持ち、侯爵家の跡継ぎのままでいられ、美男子の婚約者と結婚し、可愛い子供を授かり、優しい家族に囲まれ幸せに暮らせたはずだった……その全てを本物のフリーダが壊した。
シムソン侯爵家がボーゲン公爵家に借金をしたのも、婚約者が自分を裏切ったのも、全て本物のフリーダのせいだ。
悪人の息子であるゲリーが、愛する人と結婚し幸せに暮らすなんて許せない! そう考えたフリーダは息子のゲリーにつらく当たり、ゲリーを庇う嫁のクレイにも酷い仕打ちをした。
わしの知っているのはここまでだ。
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