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1話「醜い姉と美しい妹」

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「アダリズ、食事中は顔を見せないでと言ったでしょう! あなたの顔を見ると食欲がなくなるのよ!」

「アダリズ何度言ったら分かるんだ! 食事がまずくなるから、食事は使用人とすませろと言っただろ!」

「申し訳ありません、お母様、お父様」 

「お父様もお母様もお姉様に冷たすぎるわ、お姉様も気になさらないで一緒に食べましょう」

「エマは優しいな! わしの自慢の娘だ!」

「本当にそうですわね! エマの愛らしい笑顔を見ていると疲れが吹っ飛びますわ! それに比べてアダリズは無愛想で陰気で……エマは私に似て美人なのにアダリズはお義母様ににて不美人ですし……娘はエマ一人で良かったわ」

「まったくだ、アダリズは亡き母に恐ろしいほど似ている、人を見下すような冷徹なまなざしまでそっくりだ」

「お父様、お母様、そんな風に言ったらお姉様が傷つきますわ、アダリズお姉様もお父様とお母様の子供でしょう?」

「だから嫌なのよ! お義母様に似た醜い子が私のお腹の中にいたなんて……考えただけでぞっとするわ!」

「お母様言いすぎです。お姉様が気を悪くしますわ。アダリズお姉様気にしないでくださいね、お母様も本気じゃないのよ」

「大丈夫よエマ、私はもう出かけるから食事は親子三人でして」

「お姉様、朝食は?」

「いらないわ、食欲がないの」

ダイニングの扉を閉めると、父の「やっといなくなった」という声と、母の「あの子の顔を見ると気分が悪くなるのよね」という声が聞こえた。

エマが「お父様もお母様もお姉様の悪口はよして、私悲しいわ」と言って父と母をなだめ、父と母が「エマは優しいな、娘はお前だけでいい」と言ってエマを褒め称えている。

そんな会話を聞きたくなくて、早足で玄関に向かう。

いつだって家族の団らんの中に私の居場所はなかった。父と母は器量の良い妹のエマだけを可愛がってきた。

父と母が妹だけを可愛がるのには理由がある、それは祖母だ。祖母は私が生まれる前に亡くなっている。

私が生まれる前、この家の当主だった祖母はそれはそれは厳しい方だった。

祖母はボーゲン公爵家に嫁いで来たばかりの母と折り合いが悪く、母は祖母からいじめに近い教育を受け、ノイローゼになり一時実家に帰っていた。

私の容姿はその祖母にそっくりなのだ、漆黒の髪も黒檀こくたん色の目も、魔女のように大きな鼻も、生前の祖母を知る人は私の顔を見ると口をそろえてこういう「若い頃のフリーダ・ボーゲンに生き写しだ」と。

母は生まれたばかりの私の髪と瞳の色が祖母と同じなのを知って、ショックで気を失ったという。私は生まれてから一度も、母から愛情をもらったことがない。

祖母は実の子にも厳しい人だったらしく、幼い頃祖母にされた教育は父のトラウマになっていて、父も私の顔を見るといい顔をしない。

一つ下の妹のエマは金色の髪に青い目、母譲りの美貌を持って生まれた。

両親は母親似の妹だけを可愛がり、本当の娘として扱っている。

私は両親と同じテーブルを囲むことも許されていない。エマは毎日仲良く両親と食卓を囲んでいる。

私は公爵家の長女として厳しい教育を受けて育った。朝は日が昇っる前に起こされ、午前中は歴史や算学や古代語の勉強、午後はピアノやバイオリンやダンスのレッスン、寝るのは深夜だった。

一つでも問題を間違えると家庭教師に厳しく叱責しっせきされ、両親に報告され「高い授業料を支払っているのに間違えるとは何事だ!」と叱られ、罰としてご飯を抜かれた。

妹のエマは午前中に基本的な教育を数時間受けただけで、午後は父や母と買い物や食事に出かけていた。

私は誕生日や復活祭にもプレゼントの一つももらえなかったが、妹のエマは誕生日や復活祭などのイベントには高価な物を買ってもらい、それ以外の日にも望むものをなんでも買ってもらっていた。

私は祖母の普段着を直して着ていたが、エマは流行のドレスを月に何着も買い与えられていた。私の部屋のクローゼットはスカスカだが、エマの部屋のクローゼットははやりのドレスでパンパンだ。

ある時父が「明日は家族で別荘に出かけよう」と言った。翌朝私がボストンバッグを持って玄関ホールに向かうと、父に「なんでお前がいるんだ、お前は家で勉強していろ!」と真顔で言われた。父にとって私は『家族』ではなかったらしい。

食事は使用人と一緒に取るように命じられている、使用人は主の食事が終わってから食べるのが通常だ。主がローストビーフを食べているとき、使用人はゆでた肉を食べている。私の食事は基本的に使用人と変わらない。

使用人の食事の時間は主が食べ終わった後なので、夜の食事は十時過ぎ、朝は九時頃になる。夜はともかく朝はそんな遅い時間に食べていては家庭教師の来る時間や、学校に行く時間に間に合わない。故に朝は昨日の残りのパンなどを食べて過ごしている。夜も帰宅時間が遅いと使用人すら食事を終えているので、パンだけで過ごすか、何も食べずに寝ることもある。

エマには専属のメイドが十人もついているが、私には一人もついていない、身支度も自分でしなくてはいけない。

こんな家だが肉体的な暴力を受けたことは一度もない。

私が肉体的な暴力を受けなかった理由は一つ、私が王太子殿下の婚約者だからだ。

私と王太子殿下の婚約は、私が生まれる前に決まっていた。

祖母と先代の王妃様が友人で、王家に男の子が生まれ、公爵家に女の子が生まれたら結婚させようと約束していたらしい。

その約束は祖母が死んでからも有効だったらしく、王太后様の独断で私と王太子殿下の婚約が決まった。

その王太后様も今はもういない、王太后様は妹の今が生まれる少し前に亡くなったのだ。

私が精神的な虐待を受ける理由も祖母なら、肉体的な虐待を受けない理由も祖母だ。

会ったこともない祖母を恨んでいいのか、感謝していいのか分からない、複雑な心境だ。

もし祖母が今も生きていたら、自分に容姿の似ている孫娘を可愛がってくれたかしら?

祖母が生きていたら、この家にも私の居場所はあったのかしら?

そんなあり得ない『もしも』を考えてしまう。







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2022/03/14に新作を投稿しました!こちらの作品もよろしくお願いします!

「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/38607887 #アルファポリス

婚約破棄された公爵令嬢が、断罪の場で助けてくれた人に溺愛され幸せに暮らす話です。
ざまぁもあります。
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