完結「不治の病にかかった婚約者の為に、危険を犯して不死鳥の葉を取ってきたら、婚約者が浮気してました。彼の病が再発したそうですが知りません」

まほりろ

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第三章・不死鳥と初代勇者と勇者の末裔と

第3章3話「不死鳥と皇女」

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――リシェル視点――


エカード様と結婚した二年後、私は女の子を出産した。

私に似て黒い髪に黒い目の娘に、エカード様はデレデレだ。

「ミリセントちゃん、ミルクの時間でちゅよ~~」

エカード様は私との婚約前、皇帝の前に「クール」とか「氷の」という枕詞がついていたらしい。

そんな風に呼ばれていたのが信じられないぐらい、今では子煩悩だ。

「ミリセントと息子を婚約させたいと、何人かの貴族から釣り書きが届いております」

上皇后様がおっしゃった。

「もうですか? ミリセントはまだ赤ちゃんですよ?」

「どこにでも気の早い貴族というものはいるものです。
 エカードのときだって……」

ミリセントは皇帝の一人娘。

このあと私が子供を授からなければ、彼女がこの国の世継ぎになる。

あちこちの貴族から婚約の話が持ち込まれるはずだ。 

乳飲み子に婚約者を作るわけにはいかない。

婚約は家と家との結びつきだが、相性もある。

もう少し大きくなってから、本人の意思で決めさせたい。

「だめ~~!
 ミリセントちゃんは絶対にお嫁に行かせません!
 お婿も取りません!」

ミリセントと結婚するには、この親ばか皇帝を説き伏せなくてはならない。

「ミリセントは、相手を選ぶのに苦労しそうですね」

すっかり親バカになったエカード様を見ていたら、娘の将来が少しだけ心配になった。




☆☆☆☆



それからさらに七年が過ぎ、ミリセントは七歳になった。

「お祖父様、森にいるトロルキングを倒して来ましたわ!」

「さすがわしの孫、驚くべき速度で強くなっている!」

「ミリセント、剣術の訓練やモンスター退治もいいですが、そろそろお勉強やマナーもしっかりと身につけなくてはだめよ。
 あなたは皇女なのですから」

ミリセントが生まれてから四年後、男の子を授かった。

生まれて来たのはエカード様と同じ銀色の髪に紫の瞳の可愛らしい男の子で、息子の顔を見たとき将来はモテモテになること間違いなしだと思った。

あらいやだ、私も十分親バカね。

息子のウィルブアンが帝国を継ぐので、娘のミリセントはゼーマン辺境伯家を継ぐ。

「そんなことでは、誰もミリセントのお婿さんになってくれませんよ」

「お父様が、わたしは誰とも結婚しなくていいって言っていたもん」

エカード様ったら、娘になんてことを吹き込んでいるのかしら。

「皇后様、ホンニャラ侯爵家のご息女が流行り病にかかったとの報告が」

そのとき、文官が火急の知らせを持って来た。

「そう、教えてくれてありがとう」

ホンニャラ侯爵家か、農地が豊かなのよね。

恩を売っておいて損はないかも。

「お父様、久しぶりに不死鳥の山に登りましょうか?」

「それは良いな。
 孫娘が生まれてからは不死鳥の山に登っていなかったからな。
 不死鳥様と久しぶりに対戦したい」

「不死鳥様って強いんでしょう?
 わたしも行く~~!」

ミリセントが駄々をこねだした。

「あなたはまだ小さいからだめよ」

「やだ、行くの~~!」

「まぁ良いではないかリシェル。
 ミリセントの世話はわしがする。
 みんなで不死鳥様に会いに行こう」

「わ~~い、お祖父様大好き~~!」

「お父様はミリセントと離れたくないだけでしょう?」

こうして孫バカのお父様の一声で、ミリセントも連れて行くことになった。

城を出るとき、エカード様が号泣していたのは言うまでもない。

「ミリセントちゃん、お父様を置いていかないで~~!」

「すぐ帰ってくるわ、お父様!
 お土産買ってくるから!
 弟のことはよろしくね」

涙を流すエカード様とは対照的にミリセントはあっさりしていた。

私たちの体に流れる勇者の血のせいかしら?

強い相手がいるとわかると、対戦せずにはいられないのよね。

時代が変わって、勇者の血が薄くなってもそこだけは変わらないようだ。



☆☆☆☆☆



山を越え、谷を越え、途中エルフの村に寄ってお土産を買い、毒の沼地を越え、半日ロッククライミングして不死鳥山のいただきに着いた。

「おう、そちたちか久しいな」

「どちら様でしょうか?」

不死鳥山のいただきには、赤い髪を腰まで伸ばした、中性的な容姿の美青年がいた。

彼は私たちを見て、穏やかそうなほほ笑みを浮かべた。

私たちの他にも、この場所を訪れる人間がいたのね。

「なんだ、数年前に会っただけなのに我のことを忘れたのか?」

「その話し方は、もしかして不死鳥様ですか?」

「そうだ、我だ」

「人の姿になれたのですね?」

「昔から人型にはなれた。
 人里に降りるときに鳥の姿では目立つからな」

二十メートルを超える鳥が人里に現れたらパニックになりますね。

「そうだったのですね。
 それで今日はなぜ人の姿を?」

「そなたたちが来ない間、我は修行を繰り返し、試行錯誤をするうちに人型のとき、鳥型の時のパワーを維持したまま素早く動けることに気づいたのだ。
 なので今の我は鳥型の時より強いぞ」

「そうだったのですね」

人型の不死鳥様がこんなに美形だったとは、エカード様に話したら、私を不死鳥山に行かせるのを嫌がりそうです。

私が、この場所を訪れるのもこれが最後になりそうですね。

「好き!」

「えっ? ミリセント何を言っているの?」 
気がつけばミリセントは不死鳥様の前にいた。

「わたし、フリーデル帝国の皇女、ミリセント・フリーデルと言います。
 突然ですが、不死鳥様に一目惚れしました。
 不死鳥様、わたしと結婚してください!」

ああっ……うちの家系は強い者に弱いから……。

きっとミリセントなりに、不死鳥様の強さを肌で感じ取ったのね。

だからといって不死鳥様にプロポーズするなんて……!

ミリセントを溺愛しているエカード様になんて言えばいいの??

「ミリセント、あなたはゼーマン辺境伯家を継がなくてはいけないのよ。
 不死鳥様のお嫁さんにはなれないわ」

「お母様、お父様と仲良しよね?
 弟か妹を生んでその子に辺境伯家を継がせて」

ミリセントの言葉にドキリとした。

ミリセントにはまだ赤ちゃんがどこから来るか、教えてなかったはずよね。

「不死鳥様、お名前はなんて言うんですか?」

「我か?
 人に名を聞かれたのは初めてだな」

「そうなのですか?」

「皆、我の事を『不死鳥』としか呼ばぬからな」

「旦那様になる人の名前は知っておきたいと思いまして」

「我の名はバッハロ。
 バッハロ・デ・フエゴという」

「バッハロ・デ・フエゴ様、素敵なお名前!」

「長いのでバッハロで良いぞ」

「それではバッハロ様と呼ばせていただきます。
 わたしのことはミリセントとお呼びください」

「ミリセントか、良い名だ」

「ありがとうございます」

娘は本気で不死鳥様に嫁ぐ気だわ。

不死鳥様もミリセントにもっと冷たく接してくれればいいのに!

「ミリセント、あなたがお嫁さんに行ったらお父様が悲しむわよ。
 お父様はミリセントに『お父様のお嫁さんになる』って言ってほしいぐらいあなたを溺愛しているのよ」

「え~~お父様弱いし、それにお父様みたいな人は好みじゃないわ。
 わたしはバッハロ様のような中性的な容姿の美しい殿方が好きなのです。
 不死鳥様は美しい上にお母様たちと同じくらい強いのでしょう?
 最強で最高のお婿さんですわ!」

今の言葉はエカード様に聞かせられないわ。

幼い頃は中性的な容姿だったエカード様も、強くなる為に体を鍛えたので今では細マッチョ。

エカード様も美しいけどどちらかと言えばワイルド系の見た目だから、ミリセントの好みの中性的な容姿の美青年からはかけ離れているわ。

中性的な容姿の美青年でミリセントより強い者なんて、不死鳥様以外あり得ないわ。

「バッハロ様、わたしここに住みたいです!」

「我の元で修行したいと申すか?
 勇者の末裔を鍛えるのも一興。
 良いだろう、我がそなたに修行をつけてやる」

「はい。バッハロ様の元で(花嫁)修行に励みます!」

ああ……! 二人の間で話がどんどんまとまっていく。

「お父様、なんとか言って!」

「ハハハ、エカード殿に娘を失う辛さを思い知らせる良い機会だな。
 数年前にわしが味わった辛さを思い知るが良い」 

だめだわ、お父様が壊れてる。

「ミリセントが不死鳥の山に住んだら、お父様もミリセントに会えなくなるのですよ。
 それでもいいのですか?」

「それは困る。
 よし、わしもここに住もう!
 そうすればミリセントにいつでも会えるからな!」

「ゼーマン辺境伯家の領地運営はどうなさるおつもりですか?」

「それはリシェル、お前に任せる!」

「お父様! そんな無責任な!」





そんな訳で、父とミリセントが暫く不死鳥の山に住むことになりました。

このことをエカード様に伝えるのが辛いです。



☆☆☆☆☆



ミリセントの帰りを今か今かと指折り数えて待っていたエカード様に、ミリセントが不死鳥に一目惚れして不死鳥の山に残ったことをお伝えしたところ、エカード様が倒れてしまいました。

目を覚ましたエカード様が公務を放り出して、「不死鳥の山に行って娘を連れ帰る!」と言い出し、なだめるのに苦労したのはまた別のお話。

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