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第三章・不死鳥と初代勇者と勇者の末裔と

第3章2話「不死鳥と初代勇者と遠い約束」

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その後、勇者が魔王を倒し世界が平和になったと、渡り鳥から聞かされた。

「不死鳥の葉を育てても無意味か……魔王がいなくなった今、奴が登ってくることはないのだからな」

奴は強い。

魔王がいなくなった今、奴に手傷を負わせる者は地上にはおらぬだろう。

「不死鳥の木を育てても無駄か……」

不死鳥の木はすくすくと育ち、我の背丈に近くなっていた。

「よっ、不死鳥さん、久しぶり~~!
 おらっちとバトルしよっさ!」

脳天気な声が聞こえ、振り返るとあの男がいた。

「どうした?
 またバジリスクやミドガルズオルムやスコーピオンの毒を受けたか?」

「うんにゃ違うっさ!
 久しぶりに強いやつと戦いたくなっただけさ!」

「面白い、相手になってやる!」





戦った結果、我が勝った。

「どうした? 調子でも悪いのか?
 いつものキレがないぞ」

「うんにゃ違うっさ。
 今回は誰もケガしてないさ。
 だから不死鳥の葉を手に入れる理由がないさ。
 おらっちは誰かの為でないと力が出せないタイプだったみたいさ」

「なるほどな」

「何が何でも不死鳥の羽を手に入れる!」という強い思いが、こいつの潜在能力を引き出していたのか。

「不死鳥さん、暇け?」

「我は暇ではないぞ!
 不死鳥山の掃除に不死鳥の木の手入れにだな……」

「暇ならおらっちの話を聞いてけろ。
 おらっち、魔王討伐の褒美に辺境伯の領地を賜ったんだけど、な~~んか領主様なんて柄じゃなくてさ~~」

こいつ我は暇ではないと言ってるのに、無視して話しだしたな。

「書類仕事は家令がやってくれるから別に困らないさ。
 だからおらっちがやれることっていったら、荒れ地を耕して農地にしたり、畑を荒らす獣を退治したり、年寄りしかいない家の農作業を手伝ったり、河川工事をしたり……およそ領主らしくないことばっかりさ」

こやつの力で農作業をしたら、あっという間に仕事が終わってしまうだろうな。

荒野の開拓なんかしたら、数日で見える範囲の土地が畑に変わりそうだ。

「それで?」

「それでここに来て不死鳥さんと戦ったら、魔王と戦っていた頃のわくわくした気持ちを思い出せるかと思って、久しぶりに山を登ってみたさ」

「それで、その頃の気持ちは思い出せたのか?」

「うんにゃ、ちっとも。
 最近じゃ『勇者様』って呼ばれるより、『領主様』と呼ばれることが増えたさ。
 『村長の娘と結婚しろ~~』って家令に口うるさく言われてるし、そろそろ勇者の仕事も卒業かと思ってるさ」

「嫌なのか?」

「嫌ではないっさ。
 ただ、魔王を倒すために旅をしていたあの頃を無性に懐かしく思うっさ」

「人は成長する。
 お前もあの頃とは変わった、それだけだ」

「そうかもしれないっさ。
 不死鳥さん、話聞いてくれてありがとな。
 多分ここに来るのもこれが最後になるっさ」 

「ああ、わかってる」

人は簡単に歳を取る。

初めて男がこの山に来たときのみずみずしさを、この男の肌からはもう感じられん。

「さよならさ、不死鳥さん」

「ああ」

男は山をそう言って山を降りていった。

その動きは以前より少し遅く感じた。






つまらん。人など心を砕いてもすぐに年老いてしまう。

もうあんなにわくわくした気もちで戦うことはないのか?
 



☆☆☆☆☆




そう思っていたのだが……。

数十年後、すっかり年老いた男が山を登ってきた。

「おらっちの孫の孫の孫の……とにかく、子孫の初恋の相手が大ケガで苦しんでる夢を見たさ。
 不死鳥さん、悪いけど羽か葉を一枚もらっていくさ」

しわしわですっかり筋力は衰えたはずなのに、男の目は少年のようにキラキラしていた。

まったくこの男は、誰の為となるとバカみたいに力を発揮する。

誠に『勇者』と呼ぶにふさわしい存在だ。

「よかろう、かかってくるが良い」

その日のバトルは、七百と数十年生きてきた中で一番楽しかった。

「じゃあな、不死鳥さん。
 不死鳥の葉は遠慮なく貰っていくさ!」

男はバトルに勝利し、不死鳥の葉を手に入れた。

男が来なくなって数十年。

不死鳥の木の手入れなどずっとしていなかった。なのに不死鳥の木はまだ葉をつけていたのだな。

だが、これでもう本当に最後……。

「あっ、そうだ不死鳥さん。
 おらっちの孫の孫の孫の……とにかく子孫が不死鳥の葉を得るためにここに来る夢を見たさ。
 それまで不死鳥の木を枯らさないでほしいっさ!」

この男が死んでもこの男の子孫と戦えるというのか?

それもまた一興か。

「わかった、約束しよう」




それから二百数十年の後、我は勇者末裔を名乗る脳筋の親子とバトルすることになる。




☆☆☆☆☆☆




勇者が死んだ……渡り鳥からそう聞かされ、私は何百年か振りに山を降りた。

勇者が暮らすニクラス王国の王都を訪れたが、王都では勇者の死を悼むものはいなかった。

王家が勇者に援助を行い魔王を倒す下準備を整えたので、勇者は魔王に勝てた。

勇者に選ばれたのが他の誰かでも同じ結果だった。

むしろこれだけ準備を整えてもらったのに、勇者は魔王を倒すのが遅すぎたと。

王族が真実を捻じ曲げ、王族にとって都合の良い情報をながし民を洗脳したので、王都での勇者のイメージはあまりよろしくない。

我は渡り鳥たちから聞いて真実を知っている。

国王が鋼のつるぎと千ギルで勇者を旅立たせたことを。

その後は勇者になんの支援もしなかったことを。

無能で役立たずなのはむしろ当時の国王だ。

「勇者もつまらん者たちの為に命をかけたものだ」





人などくだらない。

魔王を倒してもらった感謝をたった数十年で忘れ、王族の流した嘘を信じ、事実を知ろうともしない。

我はその時そう思っていた。

だが、勇者が治めていたゼーマン辺境伯を訪れて我の考えを改めた。

勇者の葬儀に参列する為に集まった多くの民。

勇者の死に涙し、みな口々に勇者の功績を称賛している。

「ああ……あの男の生きた意味はこの地にあったのだな」

我は勇者の墓に花をたむけ、不死鳥の山に戻った。

「いつか来る勇者の末裔の為に、不死鳥の木を枯らさずに手入れしておかねばな」

退屈な毎日に、少しだけ生きがいができた。




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