18 / 21
第三章・不死鳥と初代勇者と勇者の末裔と
第3章1話「不死鳥と初代勇者」
しおりを挟む――不死鳥視点――
この世に生を受けて700年。
ここ数百年、不死鳥の羽を求め山を登ってくる人間もおらず、退屈していた。
そんなとき、突如として奴は現れた。
「よっす!
おらっちはレイ!
勇者やってるだ!
おめぇが不死鳥け?
どんなケガや病も治す薬を持っているってほんとけ?
おらっちにも一つ分けてくれさ!」
突如やってきたその男は、明るい笑顔でそう言った。
ここは神聖な不死鳥の山で、我は自分で言うのもなんだが、こう見えて神についで神聖な生き物なんだが……。
なんでこんなに気さくに話しかけられるのだ?
「よかろう!
薬が欲しければ我と戦え!
薬を得られるのは我と勝負し、我に勝利したものだけだ!」
「つまりおめぇに勝てば、薬がもらえるんだな!
おっし!
いっちょやってやるさ!」
そして出会って数分で、レイと名乗る男とのバトルになった。
「なっ、この我が負けただと?」
信じられん!
鋼の剣をでたらめに振り回すだけの、この猿みたいに男に高貴な我が負けたというのか……!
「さあ、約束通りおめぇに勝ったさ!
薬をくれっさ!」
「わかった、約束だからな。
仕方あるまい」
我が頭の羽をむしって男に渡すと、男は凄く微妙な顔をした。
「なんだ、貴重な不死鳥の羽だぞ?」
「いや~~、人間に例えるとハゲ頭のおじさんから髪の毛を貰ったようなもんさ。
薬とはいえ、髪の毛を食べるのは微妙な気分さ……」
「誰がハゲ頭のおじさんだ!
我の人型の姿はお前と同じくらい若い!
髪の毛もふさふさしているぞ!」
男は文句を言いながら不死鳥の羽を口に入れた。
「うげっ……もさもさして食べにくいさ」
「バカ、我の羽を直接食べるやつがいるか!
その羽は水に浸してから煮出して、汁の方を飲むのだ!」
「そんなことしていたらおらっち、おっ死んでるさ」
「は? どういう意味だ?」
「これを見てけろ」
男は手袋を外し腕をめくった。
あらわになった男の二の腕は、濃い紫色に変色していた。
「毒にやられたのか?」
毒が広がらないように腕の付け根部分を布で縛ってある。
「バジリスクとミドガルズオルムの毒を受けたさ。
僧侶に『解毒魔法が効かない』って言われた時は死ぬかと思ったさ」
「バカな!
バジリスクとミドガルズオルムの毒を受けて生きている人間などいるわけが……」
「ここにいるっさ!
おっ腕が普通の色に戻ってきたさ!
さすが不死鳥の羽、効果てきめんさ!」
こいつはバジリスクとミドガルズオルムの毒に冒されながら、モンスターが闊歩する危険な森や毒の沼地を超え、雲よりも高い不死鳥の山をロッククライミングしてきたというのか?!
そして毒に冒された状態で我に勝利したというのか!?
「信じられん……規格外の男だ」
「不死鳥さん、ありがとな!
すっかり元通りさ!」
「待て、毒が消えたならもう一度我と勝負を……!」
「仲間が待ってるからまた今度な!
おらっちか仲間が瀕死のケガを負うか、毒に冒されたらまたくるさ!
その時は羽じゃなくて、葉っぱかなんかもっと口に入れやすい薬を用意しておいてけろ!」
男はそう言って、我の静止を聞かずに山を降りていった。
「不死鳥の羽以外の薬だと……誰が用意するか、そんなもの」
後日、不死鳥の羽と同じ成分を持った植物を育て出した辺り、我も相当どうかしている。
きっと暇すぎておかしくなったのだ。
☆☆☆☆☆
それから何年かして不死鳥の木が順調に育った頃、その男は再び我の前に姿を現した。
「おらっちの仲間の戦士と魔法使いがスコーピオンの毒で苦しんでるさ、不死鳥の羽を二枚分けてほしいさ!」
「良かろう!
だが薬は我に勝った者にしか渡せん!」
久しぶりに男が現れたことに我の気持ちは高揚していた。
「いいさ!
いつでも相手になってやるっさ!」
「言っておくが我はあれから修行をつみ、以前より強くなっているぞ!」
「それはお互い様さ!」
男とのバトルは本当に楽しかった。
男の型は相変わらずめちゃくちゃで、攻撃手段は単調、だが……なぜか奴には勝てなかった。
「おらっちが二連勝したさ!
約束通り薬はもらっていくさ!
でも羽を一度に二枚も抜いたら不死鳥さんハゲたりしないさ?」
「不死鳥の羽はもう渡さん。
今は不死鳥の羽と同じ成分の不死鳥の葉を渡している」
と言っても不死鳥の木を育ててから、ここにたどり着いた人間はこの男以外いないのだが。
「へ~~!
じゃあこれで不死鳥さんの頭がハゲる心配をしないで、いっぱい戦えるさね!」
「我は不死鳥だ!
抜けた羽の代わりは、すぐに生えてくる!
ハゲたりはせん!」
「それは便利さ!
おらっちの国の国王様が知ったら、羨ましがるっさ!」
「そちの国の国王はハゲなのか?」
「つるっつるさ!」
「そうか、それは難儀だな」
「じゃあ、おらっちは仲間が待ってるから帰るさ!
またな不死鳥さん!
あんた、おらっちが戦った中で一番強かったさ!」
男はそう言い残して山を降りていった。
「またな……か」
退屈にも一人きりの生活にも慣れていたはずなのに、その言葉が妙に胸に響いた。
61
お気に入りに追加
1,783
あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」


王命なんて・・・・くそくらえですわ
朝山みどり
恋愛
ティーナは王宮薬師の下っ端だ。地下にある自室でポーションを作っている。自分ではそれなりの腕だと思っているが、助手もつけてもらえず一人で働いていた。
そんなティーナが王命で公爵と結婚することになった。驚くティーナに王太子は公爵がひとめぼれからだと言った。
ティーナだって女の子。その言葉が嬉しいし、婚姻届にサインするとき会った公爵はとても素敵だった。
だが、それからすぐに公爵は仕事だとかで一度も会いに来ない。
そのうえ、ティーナの給料の大半が公爵家に渡される事になった。ティーナにはいるのは端数の部分だ。
お貴族様っていうのはほんとに民から金とるしか考えてないねとティーナは諦めて休みの日も働いて食いつないだ。
だが、ある日ティーナがプッツンとなる出来事が起きた。
働いたって取り上げられるなら、働くもんかと仕事をやめて国一番の歓楽街のある町に向かう事にした。
「わたしは都会が似合う女だからね」
やがて愛しいティーナに会えると戻ってきたジルフォードは愕然とする。
そしてすぐに追いかけたいけどそれも出来ずに・・・・

いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる