【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ

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1話「胸の痛み」

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「分かってくれるなティアローズ。
 カインの治療には異世界から召喚した聖女タチバナコトネ様のお力が必要なのだ」

「承知しております、陛下」

誰も悪くない。

王太子カイン様の母親の身分が低いのは、王妃様に長年子が生まれず、子だくさんの家系なら下位貴族でも構わないとお触れを出し、側室に迎えたから。

私が彼の婚約者に選ばれたのは、カイン様の後ろ盾には高位貴族の力が必要で、たまたま殿下と年が近い高位貴族の子女が私しかいなかったから。

王家と公爵家の婚約は、私が生まれた時から決まっていたようなもの。

陛下のお子様は殿下お一人。

その殿下が十六の誕生日に急な病を発症したのも。

病の治療には異世界から聖女を召喚する必要があったのも。

聖女様がこの世界にはいない黒髪に黒曜石の瞳の美少女だったのも。

殿下の看病をしているうちに聖女様が若く美しい殿下に惹かれ、殿下もまた神秘的な魅力の聖女様に惹かれたのも、ただ偶然が重なっただけ。

惹かれ合う二人を結婚させたい陛下のお心も、聖女様を側室にはできないという議会の判断も全部頭では理解できている。

異世界育ちでこの世界の情勢に疎くこの国の文字も読めない聖女様に、王太子妃の仕事はとてもこなせない。

だから私が殿下の側室になり聖女様の代わりに仕事をしてほしい、という陛下のお考えも分かる。

陛下は最初から私を殿下の側室にして飼い殺しにするつもりでなかったことはわかっている。

たまたま偶然が重なっただけ。

その偶然の良い部分を殿下と聖女様が受け、私は悪い部分を受けただけ。

殿下と初めて対面したのは私が八歳のときでした。

以来十年間、私が心の底に抱き続けてきた殿下への淡い恋心。

それを私が捨てさえすれば……全て丸く収まる。

国は聖女様の力で栄え、聖女様のお力で殿下の健康は保たれ、息子が幸せな結婚をすることで陛下の心の安寧を得る。

それは私が王太子妃にならない道(あなたと離れる道)、皆が幸せになれる道。

頭ではわかっているのに……なぜ私の胸はこんなにも痛むのでしょう……?




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