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24話「偽りの告白」
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一時間後、会議室。
私は妹と共に会議室の前に来ていた。
フェルは人質として取られ、妹の部屋にいる。
「王太子妃様、今は会議中故、あなた様といえどお通しするわけには参りません」
会議室の入口にいる兵士に止められた。
「国事に関して大事な話があるから通すようにと言いなさい。妖精がどうなってもいいの?」
妹は、重臣の集まってる場で私に嘘の説明をさせ、自分に関心を集めたいようだ。
「国事に関する重要な話があるの、お願い通して」
「王太子殿下に確認して参ります。しばらく、お待ち下さい」
兵士は確認を取るために会議室に入っていった。
レオニス様、私が部屋に入ることを許可しないで。
「どうぞお入り下さい。五分間時間を下さるそうです」
私の願いとは裏腹に入室を許可されてしまった。
「手筈通りにお願いね、お姉様」
妹が私の耳元で囁く。
会議室に入ると、重臣達の視線を一斉に視線を浴びた。会議に集まっている重臣は二十人前後だ。
中央の大きな椅子にレオニス様が座っている。
「まずはレオニス殿下の前に行きなさい」
妹に促されるままに、レオニス様の側まで行く。
「会議中に訪ねてくるから驚いたよ。いったいどんな重大な話があるんだい?」
レオニス様は突然押しかけて来たのにも関わらず、優しく迎えてくれた。
ズキリと胸が痛む……今から私はこの方を騙さなくてはいけないのだ。
「レオニス様、実は……」
ここで真実を伝えてしまったら……。
「わたくしの言う通りにしないと、妖精の命はないわよ」
妹が私の耳元で囁いた。
本当のフェルが殺されてしまう。ごめんなさい。レオニス様、私は今からあなたを欺きます。
「お集まり頂いている重臣の方々にも聞いて頂きたいのです」
私は集まった重臣たちの顔を見回し、それから言葉を発した。
「実は……妖精は、フェルは……元々は妹のシャルロットについていました。皆にちやほやされる妹が憎くて、嫁入りするときに妹から……フェルを奪いました」
会議室からどよめきが起こる。
レオニス様が大きく目を開いて私を見ている。
お願い、そんな目で私を見ないで……!
「わ、私のような……醜い女は王太子妃にふさわしくありません!」
自分が発する声が震えているのがわかる。
本当はこんなことを伝えたくない。
でも……言わなかったら、フェルの命が……。
「レオニス様、醜い私と離縁してください。……妖精に愛されている妹こそ、王太子妃にふさわしいです……」
重臣たちが何か口々に何かを話している。でもよく聞き取れない。
きっと、私に対する悪口だろう。
レオニス様のお顔が見れない。
この場から立ち去ってしまいたい。
「シャルロット王女、今の話は本当なのか?」
「その通りですわ、レオニス殿下。でもお姉様を許してあげて! お姉様はきっとらわたくしだけがお父様やお兄様に愛されていることが、気に入らなかっただけなの。妖精は私の元に返って来ました。お姉様の罪は不問に付しますわ」
妹は目に涙を浮かべ、姉を思いやる優しい妹を演じていた。
容姿端麗な妹が、そんな芝居をしたのだ。きっと重臣達は妹に同情しているのだろう。
「元々はわたくしとレオニス殿下が結婚する予定でした。当初の予定通り、わたくしがレオニス殿下に嫁ぎます。この国には今まで通り、妖精の加護を与えます」
妹が瞳をうるうるさせ、レオニス様に迫った。
レオニス様も、可憐な妹の虜になってしまうのかしら……?
ズキズキと胸の奥が痛む。
「シャルロット王女、一つ質問してもいいかな?」
レオニス様がにっこりとほほ笑み、妹を見つめた。
「何でしょう? レオニス殿下の質問になら何でもお答えしますわ」
「妖精殿の好きな食べ物は?」
「アップルパイと桃のタルトとみかんのジャムと梨のパウンドケーキですわ」
フェルの好きな食べ物は私が妹に教えてしまった。
「そうか、では妖精殿がじゃがいもに付けている調味料は?」
「塩とバターですわ」
それも、私がさっき妹に教えたことだ。
「妖精殿の髪と瞳の色は?」
「若葉のような鮮やかな緑色ですわ」
妹は自信満々に答えた。
「妖精のことなら何でも知っていますわ! いくらでも質問してください」
妹にフェルのことを教えるんじゃなかった。
「それじゃあもう一つ。アリアベルタは彼のことを『フェル』と愛称で呼んでいるのに、君はなぜ『妖精』と種族名で呼んでいるんだ?」
レオニス様が穏やかな表情を崩し、鋭い目つきで妹を見据える。
それは、戦場で魔物を見つめる時のような厳しい眼差しだった。
「えっ?」
レオニス様の急変に、妹は動揺していた。
「妖精殿はアリアベルタのことを『アリー』と呼んで母親か姉のように慕っていて、夫である俺が入る隙がないほど仲が良かった。もし本当にアリアベルタが妖精を君から盗んだのなら、妖精殿があんなに彼女になつくはずがない」
妹の顔から血の気が引いていく。
「妖精は、誰にでもなつくので、それでお姉様にも……」
「そうかな? 俺は最初隣国が流した彼女の悪い噂を信じてアリアベルタに酷い態度を取ってしまった。そのせいで、最初は妖精殿に警戒されていたよ」
「妖精は男性が苦手なので……」
「こちらは妖精殿から、アリアベルタとの仲睦まじい過去のエピソードを山程聞かされて、そのたびに嫉妬に狂いそうになっているんだ。今さら、妖精殿がお前のものだったと聞かされて、はいそうですかと納得できる訳がないだろう!」
レオニス様に絶対零度の視線で睨まれ、妹の顔色は青を通り越して、白くなっていた。
「アリアベルタ、君が先ほど話したことが本心だとは思えない! どうか俺に本当の事を教えてくれないか!」
「レオニス様……! 私は……」
レオニス様は私の言葉を信じてくれた。
嬉しくて涙が溢れそうだった。
「お姉様、妖精の命はわたくしが握っていることを忘れないで! わたくしを助けなさいよ!」
妹が私の耳元でささやき、背中をつねった。
フェル……彼が人質に取られている以上、私には何もできない。
「レオニス様……妹の申したことは……本当……」
「アリー!!!!」
その時、誰かが私の名を呼ぶ声が聞こえた。
扉が勢いよく開いて、フェルが会議室に入ってきた。
「フェル!!!!」
フェルが私の胸に飛び込んできた。
会議室に集まっていた重臣から「あれが妖精……?」「宙に浮いているぞ!」「噂には聞いていたが、この目で見るのは初めてだ!」「なんと愛らしい」驚きの声が漏れた。
「嘘っ……! 檻に入れておいたはずなのにどうして……! それに睡眠薬で眠っていたはずでしょう……! あっ!」
妹が失言に気づき、口を抑えたが遅かった。
「僕は妖精なのだ! 人間の薬なんか効くわけないのだ! あの時はお腹いっぱいで眠っていただけなのだ!」
「きーー! 腹立つ!」
妹が地団駄を踏んで悔しがっている。
「フェル、でもどうやって檻から抜け出したの? それに部屋には妹の使用人がいたでしょう?」
「鳥用の檻程度、その気になれば簡単に抜け出せるのだ! その後は姿を消して部屋を抜け出したのだ! 使用人達が王女の計画をペラペラと話していたので、アリーの匂いを辿って急いでここまで来たのだ」
フェルが腰に手を当て、得意げに話した。
「そうだったのね、ありがとう」
私はフェルをぎゅっと抱きしめた。
フェルが戻ってきてくれて良かった。
「感動の再会を果たしているところに、水を差して悪いが、夫の前で他の男といちゃつかないでほしいな」
レオニス様が困ったような顔で、私を見ていた。
「申し訳ありません」
「君が先ほど俺に告げたことは、全部妖精殿を人質に取られ、シャルロット王女に脅されていた……ということでいいのかな?」
「はい、レオニス様のお察しの通りです」
「良かった。君に離縁を迫られた時は生きた心地がしなかったんだ」
レオニス様は、私の事をそっと抱き寄せた。
彼に抱きしめられると、先ほど彼に嘘をついたときとはまた違った意味で、胸がドキドキと音を立てた。
「ご迷惑をおかけしました」
「君が謝る必要はない」
私を見つめるレオニス様の瞳はとても穏やかだった。
こんな酷い事をした私を許してくれるの?
「諸悪の根源はシャルロット王女なのだから……!」
レオニス様は険しい顔に戻り、キッと妹を見据えた。
「レオニス殿下、わたくしを信じて……!」
妹が美しい顔に涙をため、レオニス様に訴える。
「わたくしの方がお姉様よりもずっと綺麗よ! 正室の子だし、淑女教育だって受けたわ! わたくしと結婚した方が絶対に幸せになれるわ! 妖精も、美しいわたくしに付いた方がいいでしょう?」
確かに妹の方が美人だし、生まれも育ちも良い、それは否定できない。
「レオニス様……」
彼が妹を選んだらどうしよう……という不安から彼の服をぎゅっと掴んでしまう。
「心配しないで、アリアベルタ」
彼はそんな私の髪を優しくなでた。
そのあと妹に向き直り、彼女に鋭い視線を送る。
「顔の形が整っていようと、身分や育ちが良かろうとそれが何になる?」
「えっ?」
「お前は異母姉に浪費癖と、使用人に暴力を振るうという濡れ衣を着せ、自分の代わりに嫁がせた! 嫁いだあともアリアベルタに、自分の息のかかったメイドを付けて監視し、虐めていた! 姉に妖精の加護があると知ると、恥知らずにもこの国を訪れ、姉に媚びを売り、隙きをついて妖精を誘拐し、妖精を人質に取って姉を脅した! そのような卑劣極まりない人間を妻にするわけがないだろう!!」
レオニス様は冷たい口調で言い切った。
「お前の使用人達が、意地悪メイドのジャネットをアリーに付けたのはお前だって話していたのだ! 僕の大事なアリーを虐める奴なんか大嫌いなのだ! お前にもノーブルグラント王国にも加護なんか授けないのだ!」
フェルは妹に向かってあっかんべーをした!
「それには俺も同感だ! 俺も、俺の愛する妻を傷つける人間が大嫌いだ!!」
えっ……? 私の聞き間違いでなければ、レオニス様は今、私のことを「俺の愛する妻」と言いました??
「何? なんなのよ? お姉様ばかりちやほやして……! 美しいわたくしを責め立てるの? こんなのおかしいわ!」
レオニス様とフェルに全否定され、プライドの高い妹は相当のダメージを受けているようだ。
「シャルロット王女、妖精の誘拐及び監禁、並びに我が国の王太子妃を脅迫した容疑で逮捕する! その女を捕えよ!」
レオニス様の命令を受け、兵士が一斉に妹に飛びかかる。
「離して! わたくしは王女なのよ! 汚い手で触れないで……!!」
妹は必死に抵抗したが、抵抗むなしく拘束された。
「その女を地下の牢屋に入れておけ!」
「御意」
兵士達が妹を連れ出した。
「わたくしにこんな事をしてただで済むと思っているの? お父様もお兄様も黙っていないわよ! レオニス殿下、わたくしを選ばなかったこと、後悔いたしますわよ!」
妹は兵士に連れ去られるときも、騒がしかった。
私は妹と共に会議室の前に来ていた。
フェルは人質として取られ、妹の部屋にいる。
「王太子妃様、今は会議中故、あなた様といえどお通しするわけには参りません」
会議室の入口にいる兵士に止められた。
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妹は、重臣の集まってる場で私に嘘の説明をさせ、自分に関心を集めたいようだ。
「国事に関する重要な話があるの、お願い通して」
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兵士は確認を取るために会議室に入っていった。
レオニス様、私が部屋に入ることを許可しないで。
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「手筈通りにお願いね、お姉様」
妹が私の耳元で囁く。
会議室に入ると、重臣達の視線を一斉に視線を浴びた。会議に集まっている重臣は二十人前後だ。
中央の大きな椅子にレオニス様が座っている。
「まずはレオニス殿下の前に行きなさい」
妹に促されるままに、レオニス様の側まで行く。
「会議中に訪ねてくるから驚いたよ。いったいどんな重大な話があるんだい?」
レオニス様は突然押しかけて来たのにも関わらず、優しく迎えてくれた。
ズキリと胸が痛む……今から私はこの方を騙さなくてはいけないのだ。
「レオニス様、実は……」
ここで真実を伝えてしまったら……。
「わたくしの言う通りにしないと、妖精の命はないわよ」
妹が私の耳元で囁いた。
本当のフェルが殺されてしまう。ごめんなさい。レオニス様、私は今からあなたを欺きます。
「お集まり頂いている重臣の方々にも聞いて頂きたいのです」
私は集まった重臣たちの顔を見回し、それから言葉を発した。
「実は……妖精は、フェルは……元々は妹のシャルロットについていました。皆にちやほやされる妹が憎くて、嫁入りするときに妹から……フェルを奪いました」
会議室からどよめきが起こる。
レオニス様が大きく目を開いて私を見ている。
お願い、そんな目で私を見ないで……!
「わ、私のような……醜い女は王太子妃にふさわしくありません!」
自分が発する声が震えているのがわかる。
本当はこんなことを伝えたくない。
でも……言わなかったら、フェルの命が……。
「レオニス様、醜い私と離縁してください。……妖精に愛されている妹こそ、王太子妃にふさわしいです……」
重臣たちが何か口々に何かを話している。でもよく聞き取れない。
きっと、私に対する悪口だろう。
レオニス様のお顔が見れない。
この場から立ち去ってしまいたい。
「シャルロット王女、今の話は本当なのか?」
「その通りですわ、レオニス殿下。でもお姉様を許してあげて! お姉様はきっとらわたくしだけがお父様やお兄様に愛されていることが、気に入らなかっただけなの。妖精は私の元に返って来ました。お姉様の罪は不問に付しますわ」
妹は目に涙を浮かべ、姉を思いやる優しい妹を演じていた。
容姿端麗な妹が、そんな芝居をしたのだ。きっと重臣達は妹に同情しているのだろう。
「元々はわたくしとレオニス殿下が結婚する予定でした。当初の予定通り、わたくしがレオニス殿下に嫁ぎます。この国には今まで通り、妖精の加護を与えます」
妹が瞳をうるうるさせ、レオニス様に迫った。
レオニス様も、可憐な妹の虜になってしまうのかしら……?
ズキズキと胸の奥が痛む。
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「何でしょう? レオニス殿下の質問になら何でもお答えしますわ」
「妖精殿の好きな食べ物は?」
「アップルパイと桃のタルトとみかんのジャムと梨のパウンドケーキですわ」
フェルの好きな食べ物は私が妹に教えてしまった。
「そうか、では妖精殿がじゃがいもに付けている調味料は?」
「塩とバターですわ」
それも、私がさっき妹に教えたことだ。
「妖精殿の髪と瞳の色は?」
「若葉のような鮮やかな緑色ですわ」
妹は自信満々に答えた。
「妖精のことなら何でも知っていますわ! いくらでも質問してください」
妹にフェルのことを教えるんじゃなかった。
「それじゃあもう一つ。アリアベルタは彼のことを『フェル』と愛称で呼んでいるのに、君はなぜ『妖精』と種族名で呼んでいるんだ?」
レオニス様が穏やかな表情を崩し、鋭い目つきで妹を見据える。
それは、戦場で魔物を見つめる時のような厳しい眼差しだった。
「えっ?」
レオニス様の急変に、妹は動揺していた。
「妖精殿はアリアベルタのことを『アリー』と呼んで母親か姉のように慕っていて、夫である俺が入る隙がないほど仲が良かった。もし本当にアリアベルタが妖精を君から盗んだのなら、妖精殿があんなに彼女になつくはずがない」
妹の顔から血の気が引いていく。
「妖精は、誰にでもなつくので、それでお姉様にも……」
「そうかな? 俺は最初隣国が流した彼女の悪い噂を信じてアリアベルタに酷い態度を取ってしまった。そのせいで、最初は妖精殿に警戒されていたよ」
「妖精は男性が苦手なので……」
「こちらは妖精殿から、アリアベルタとの仲睦まじい過去のエピソードを山程聞かされて、そのたびに嫉妬に狂いそうになっているんだ。今さら、妖精殿がお前のものだったと聞かされて、はいそうですかと納得できる訳がないだろう!」
レオニス様に絶対零度の視線で睨まれ、妹の顔色は青を通り越して、白くなっていた。
「アリアベルタ、君が先ほど話したことが本心だとは思えない! どうか俺に本当の事を教えてくれないか!」
「レオニス様……! 私は……」
レオニス様は私の言葉を信じてくれた。
嬉しくて涙が溢れそうだった。
「お姉様、妖精の命はわたくしが握っていることを忘れないで! わたくしを助けなさいよ!」
妹が私の耳元でささやき、背中をつねった。
フェル……彼が人質に取られている以上、私には何もできない。
「レオニス様……妹の申したことは……本当……」
「アリー!!!!」
その時、誰かが私の名を呼ぶ声が聞こえた。
扉が勢いよく開いて、フェルが会議室に入ってきた。
「フェル!!!!」
フェルが私の胸に飛び込んできた。
会議室に集まっていた重臣から「あれが妖精……?」「宙に浮いているぞ!」「噂には聞いていたが、この目で見るのは初めてだ!」「なんと愛らしい」驚きの声が漏れた。
「嘘っ……! 檻に入れておいたはずなのにどうして……! それに睡眠薬で眠っていたはずでしょう……! あっ!」
妹が失言に気づき、口を抑えたが遅かった。
「僕は妖精なのだ! 人間の薬なんか効くわけないのだ! あの時はお腹いっぱいで眠っていただけなのだ!」
「きーー! 腹立つ!」
妹が地団駄を踏んで悔しがっている。
「フェル、でもどうやって檻から抜け出したの? それに部屋には妹の使用人がいたでしょう?」
「鳥用の檻程度、その気になれば簡単に抜け出せるのだ! その後は姿を消して部屋を抜け出したのだ! 使用人達が王女の計画をペラペラと話していたので、アリーの匂いを辿って急いでここまで来たのだ」
フェルが腰に手を当て、得意げに話した。
「そうだったのね、ありがとう」
私はフェルをぎゅっと抱きしめた。
フェルが戻ってきてくれて良かった。
「感動の再会を果たしているところに、水を差して悪いが、夫の前で他の男といちゃつかないでほしいな」
レオニス様が困ったような顔で、私を見ていた。
「申し訳ありません」
「君が先ほど俺に告げたことは、全部妖精殿を人質に取られ、シャルロット王女に脅されていた……ということでいいのかな?」
「はい、レオニス様のお察しの通りです」
「良かった。君に離縁を迫られた時は生きた心地がしなかったんだ」
レオニス様は、私の事をそっと抱き寄せた。
彼に抱きしめられると、先ほど彼に嘘をついたときとはまた違った意味で、胸がドキドキと音を立てた。
「ご迷惑をおかけしました」
「君が謝る必要はない」
私を見つめるレオニス様の瞳はとても穏やかだった。
こんな酷い事をした私を許してくれるの?
「諸悪の根源はシャルロット王女なのだから……!」
レオニス様は険しい顔に戻り、キッと妹を見据えた。
「レオニス殿下、わたくしを信じて……!」
妹が美しい顔に涙をため、レオニス様に訴える。
「わたくしの方がお姉様よりもずっと綺麗よ! 正室の子だし、淑女教育だって受けたわ! わたくしと結婚した方が絶対に幸せになれるわ! 妖精も、美しいわたくしに付いた方がいいでしょう?」
確かに妹の方が美人だし、生まれも育ちも良い、それは否定できない。
「レオニス様……」
彼が妹を選んだらどうしよう……という不安から彼の服をぎゅっと掴んでしまう。
「心配しないで、アリアベルタ」
彼はそんな私の髪を優しくなでた。
そのあと妹に向き直り、彼女に鋭い視線を送る。
「顔の形が整っていようと、身分や育ちが良かろうとそれが何になる?」
「えっ?」
「お前は異母姉に浪費癖と、使用人に暴力を振るうという濡れ衣を着せ、自分の代わりに嫁がせた! 嫁いだあともアリアベルタに、自分の息のかかったメイドを付けて監視し、虐めていた! 姉に妖精の加護があると知ると、恥知らずにもこの国を訪れ、姉に媚びを売り、隙きをついて妖精を誘拐し、妖精を人質に取って姉を脅した! そのような卑劣極まりない人間を妻にするわけがないだろう!!」
レオニス様は冷たい口調で言い切った。
「お前の使用人達が、意地悪メイドのジャネットをアリーに付けたのはお前だって話していたのだ! 僕の大事なアリーを虐める奴なんか大嫌いなのだ! お前にもノーブルグラント王国にも加護なんか授けないのだ!」
フェルは妹に向かってあっかんべーをした!
「それには俺も同感だ! 俺も、俺の愛する妻を傷つける人間が大嫌いだ!!」
えっ……? 私の聞き間違いでなければ、レオニス様は今、私のことを「俺の愛する妻」と言いました??
「何? なんなのよ? お姉様ばかりちやほやして……! 美しいわたくしを責め立てるの? こんなのおかしいわ!」
レオニス様とフェルに全否定され、プライドの高い妹は相当のダメージを受けているようだ。
「シャルロット王女、妖精の誘拐及び監禁、並びに我が国の王太子妃を脅迫した容疑で逮捕する! その女を捕えよ!」
レオニス様の命令を受け、兵士が一斉に妹に飛びかかる。
「離して! わたくしは王女なのよ! 汚い手で触れないで……!!」
妹は必死に抵抗したが、抵抗むなしく拘束された。
「その女を地下の牢屋に入れておけ!」
「御意」
兵士達が妹を連れ出した。
「わたくしにこんな事をしてただで済むと思っているの? お父様もお兄様も黙っていないわよ! レオニス殿下、わたくしを選ばなかったこと、後悔いたしますわよ!」
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