【完結】「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」

まほりろ

文字の大きさ
上 下
23 / 26

23話「囚われたフェル」

しおりを挟む


「フェル~~? どこにいるの~~?」

客間の準備が整った知らせが届き、妹はそちらに向かった。

妹と別れ離宮に戻ると、フェルの姿が見えない。

離宮の中をあちこち探したけど、見つからない。

「もうすぐおやつの時間なのに、どこに行ったのかしら?」

一人でお留守番させたことを怒っているのかな?

「王太子妃様、先ほどシャルロット王女の侍女が、参りました」

「シャルロットの侍女が?」

「このお手紙を王太子妃に渡すように、言付かりました」

クレアさんから手紙を受け取った。

妹は私になんの用かしら……?

「……!」

妹からの手紙を読んだ私は言葉を失った。

「王太子妃様、どうかされましたか?」

クレアさんが心配そうに声をかけてくれた。

「な、なんでもありません! 私あの……えーと、そう急用ができました! 畑に、お花を詰みに行って参ります!」

「王太子妃様……?」

クレアさんに怪しまれないように、私は離宮を後にした。
 







「シャルロット……これはどういうことなの?」

妹の客室に行くと、妹がソファーで寛いでいた。

「あら、意外と早かったわね。お姉様」

「フェルはどこ? フェルを返して!」

妹からの手紙には、【妖精は預かった。返して欲しければ、誰にも告げずに一人で客室に来い】と記されていた。

「騒ぎ立てないで下さい。妖精ならほらそこに」

妹の座っているソファーの後ろにテーブルがあり、その上に布で覆われた何かが置かれていた。

妹が視線で合図すると、彼女の使用人が布を取った。

テーブルの上には大きな鳥かごがあり、その中でフェルが横たわっていた。

心臓がドキリと音を立てる。

「フェル……! シャルロット、あなたフェルに何をしたの!」

「安心してください。眠っているだけです」

眠っているだけ……? 良かった生きてるのね。

「フェル、迎えに来たよ」

「動かないで、お姉様」

私が一歩踏み出したところで、妹に静止された。

「動くと妖精の命はなくてよ」

妹が合図をすると、彼女の使用人がフェルの首元にナイフを突きつけた。

「……!」

私の体から血の気が引いていく。

「妖精もわたくしたちと同じ、赤い血が流れているのかしらね?」

妹は小首をコテンと傾げた。

可愛らしい顔で、なんて恐ろしい事を言うのだろう。

「お願い! シャルロット! フェルを返して!」

「それはできない相談だわ。でも、お姉様がわたくしの言うとおりに動いてくれるなら、妖精の身の安全を保証して上げてもよくってよ」

「何を……言っているの?」

「お姉様、わたくし欲しい物があるの。お姉様が協力してくださるなら、妖精はわたくしの元で保護してあげるわ」

「欲しい物?」

「一つは妖精の加護ね。これは達成されたも同然ね。妖精はわたくしの手の中にあるのですから。間抜けな妖精で助かったわ。お菓子の匂いにつられてホイホイやってきて、睡眠薬入りのお菓子を全部食べてくれたの」

私のせいだわ。妹を信用してフェルの好物を教えたから、フェルがこんな目に……。

「わたくしはもう一つ欲しい物があるの。お姉様、譲ってくださる?」

譲る? 妹が欲しいのは私が持っているものなの?

「わたくしが欲しいのはレオニス殿下よ」

「えっ……?」

「レオニス様って、わたくしの理想のタイプなのよね。『殺戮の王子』なんて恐ろしい二つ名に騙されて、お姉様に譲ったことを後悔してるわ」

妹は悔しそうに顔を歪めた。

「レオニス殿下は元々、わたくしと結婚するはずだったの。レオニス殿下だって、平凡な容姿のお姉様より、国一番の美少女と呼ばれるわたくしの方がいいはずよ。だからお姉様、レオニス様をわたくしに返してちょうだい」

腹の底から怒りが湧いてきた!

レオニス様と結婚したくないと言って、私を身代わりとしてヴォルフハート王国に嫁がせておきながら、今になって返せだなんて!

「それはノーブルグラント王国の総意なの? このことをお父様やお兄様もご存知なの?」

「あの人たちは何も知らないわ。お父様もお兄様も、お姉様に頭を下げて妖精の加護を分けて貰おうなんて、情けない事を言っているのよ。お姉様に媚を売って生き残るなんてゴメンだわ!」

どうやら今回の事に祖国は関わってないようだ。

「お父様もお兄様も愚か者よ。妖精なんて、お姉様から奪ってしまえばいいのに」

「あなたの要求には従えないわ! フェルを返して!」

ゴメンね、フェル。

私のせいで危険な目に合わせて……。

妹にジャネットの事を訪ねた時、彼女は「そんなメイドは知らない」と答えた。

私はジャネットの職業を妹に伝えてない。

妹がジャネットの職業を知っている事が、妹が彼女を操っていた証拠だったのに……。

そんな事にも気づけないなんて……!

「言う事を聞かないなら、妖精を殺すわよ!」

妹の使用人が、フェルの首スレスレまでナイフを近づけた。

「やめて……!」

「ならわたくしの言う通りに動きなさい。お姉様は皆の前で『妖精は元々妹のものだった。妹のようにちやほやされたくて、嫁入りする時に妹から奪い取った』……そう言えばいいのよ」

「……!」

「『醜い私は王太子妃にふさわしくありません』……そう言ってレオニス殿下に離縁を迫るの。『心が清く見目麗しい妹こそ王太子妃にふさわしいわ!』……そう言ってわたくしを彼の後妻に推薦しなさい」

妹には人間の血が流れているの?

「そうすればこの国にも妖精の加護を与えるわ。言う通りにしないなら妖精を自国に連れ帰り、この国には妖精の加護を与えないわよ。せっかく豊かになり始めたのに、元の貧しい生活に逆戻りね」

妹は、どうしてこんな恐ろしいことが平然とできるのだろう?

この国の人達が元の貧しい生活に戻るのは辛い。

そんなことになったら、レオニス様もきっと悲しむ。

「ねぇ、お姉様。わたくしはお願いしているのではなく、命令しているのよ。何なら今ここで妖精の命を奪ってもいいのよ」

「フェルを殺したら、加護を受けられなくなるわよ」

なんとかフェルだけでも助けたい。

フェルを生かしておくメリットを伝えないと。

「わたくしは、お姉様だけが隣国でちやほやされて暮らすなんて耐えられないの! 妖精を殺して、祖国もこの国も貧しくしてやるわ! わたくしが不幸なのに他の誰かが幸せなんて許さないの!! 皆一緒に不幸になればいいのよ!!」

妹の目は血走っていた。

今の妹はまともではない。

このままでは本当にフェルが殺されてしまう!

それだけはだめ! フェルは家族同然の存在なの! 絶対に殺させない!

それに……フェルの加護がなくなったらこの国の人たちは……。

私に選択する余地は残されていなかった。

フェルごめんなさい。

妹の元でも幸せに生きて……。



しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

処理中です...