17 / 26
17話「二人乗り」
しおりを挟む「腕の立つ騎士様といのは……」
「俺だ。この国で俺より腕の立つ騎士はいないからな」
薬草採集の朝、離宮に迎えに来たのはレオニス様でした。
それから、あれよあれよという間に馬小屋に連れて行かれ……、今私はレオニス様と馬に二人乗りしています。
「森に行くなんて二十年振りなのだ。楽しみなのだ~~!」
正確にはフェルもいるので三人乗りです。
馬は前の方が揺れが少ないらしく、私が馬の前方に座り、レオニス様は私の後ろに座っています。
「何もレオニス様自らお越しいただかなくても」
「森へ続く道は狭い。馬車では行けない。君は一人では馬に乗れないから、誰かと二人乗りしなくてはいけない。妻が俺以外の人間と馬に二人乗りするなど耐えられない」
レオニス様はときどき嫉妬深い顔を覗かせる。
「心配しなくても、私に興味を抱く人などいませんよ」
「君は自分の魅力をわかってない。先日の城下町での炊き出しの際も、不審な男に拉致されかけたではないか」
「あれは、拉致というより軟派されただけで……」
数日前、レオニス様と一緒に城下町で炊き出しをしたときのこと。
調味料が足りなくなったので、クレアさんと二人で買い物にでかけたとき、見知らぬ男たちに声をかけられたのだ。
すぐにレオニス様と騎士団が駆けつけ、事なきを得た。
「それに彼らに声をかけられたのは、きっとクレアさんの方です」
クレアさんは綺麗な人だから、男性の目に止まりやすい。
冴えない私に声をかける物好きはいない。
「いや、奴らの目には君しか映っていなかった」
この方は、どれだけ私を過剰評価しているのでしょうか?
確かあの日は、レオニス様からサーモンピンクの可愛いワンピースを貰って、色付きのワンピースが着れる事にはしゃいでいたけど……。
「だとしたら私の着ていた服が、目立っただけかと」
「君に外であんな愛らしい服を着せた事を後悔している。ただでさえ可憐な君が、桃色のワンピースを着て、民に食料を配っている姿は、さながら妖精のようだった」
妖精って……。
本物の妖精(フェル)を目の前にして、よくそんな例えが出てきますね。
「だから今日は君に地味な服を着せた」
「はぁ……なるほど」
今日の私の服は水色で、冒険者が着るような丈夫な布で作られている。
私としてはこの服も十分に可愛い。
余計な事を言うと、外では黒とか茶色しか着させてもらえなくなるから黙っておこう。
「レオニス様は黒以外の服はお召にならないのですか?」
今日も、数日前の炊き出しの時も、彼が纏っているのは漆黒の軍服だ。
炊き出しのとき、彼が給餌をしている鍋の前だけ、誰も並んでいなくて、ちょっとかわいそうだった。
「……黒が一番返り血が目立たないのだ。いつ魔物が村を襲い、現地に向かうことになるか分からないからな」
なるほど、それでレオニス様はいつも黒い服を纏っているのですね。
「でしたらせめて、笑顔を見せたらどうでしょう?」
「笑顔?」
「レオニス様は顔立ちが整っています。その顔で睨まれるから怖いのです。だから逆にほほ笑まれたら、女性を中心に人気が出ると思いますよ。せっかく笑うと可愛いのですから」
そのとき、馬がピタリと止まった。
「可愛い……だと?」
しまった、余計な事を言って怒らせたかな?
「君は俺をそんなふうに思っていたのか?」
「すみません。不敬なことを申しました」
「いや……嬉しい。女性に可愛いと言われたのは初めてだ」
振り返るとレオニス様が、顔を真っ赤に染めていた。
美男子のテレ顔は破壊力が高い。
こちらまで恥ずかしくなってしまう。
「だが覚えていてほしい。君の方が百倍も千倍も可愛らしいことを」
「なっ……!」
レオニス様ったら真顔でなんて事をおっしゃるのですか!
心臓に悪いです。
「二人共、まだこの場所に留まるつもりなのだ? 早くしないと日がくれてしまうのだ」
フェルの声で我に返った。
「すまない。急ぐとしよう」
レオニス様が馬の腹を蹴り、馬は再び歩を進めた。
私の心臓がまだドキドキと音を立てている。
先程までは、レオニス様と二人乗りしていてもなんともなかったのに……。
今は、凄く緊張している。
139
お気に入りに追加
3,980
あなたにおすすめの小説
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。
ふまさ
恋愛
小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。
ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。
「あれ? きみ、誰?」
第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。
婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている
黎
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる