【完結】「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」

まほりろ

文字の大きさ
上 下
11 / 26

11話「隣国の王女との出会い」王太子視点

しおりを挟む




俺の名前はレオニス・ヴォルフハート。

ヴォルフハート王国の王太子だ。

我が国は、ここ数年、大寒波や水害や水不足に襲われ、作物の収穫量が激減している。

それに加え、モンスターの動きが活発になり、モンスターが村や畑を荒らす被害が増えている。

民を守るため、自ら先陣を切りモンスター退治に当たった。

そうしてついたのが「殺戮の王子」の二つ名だ。

恐ろしいあだ名だが、国と民とを守ったことで付いた呼び名だ。不服はない。

だが、この名前で呼ばれるようになってから、婚約や婚姻の話がパタリと来なくなった。

カラスのような漆黒の髪に、魔物のような真紅の瞳、長身で、目つきが鋭く、表情の乏しかった俺は、ただでさえ気弱な令嬢には敬遠されていた。

このあだ名がついたことが決定打となり、誰からも相手にされなくなった。

父は「裕福な国との政略結婚を考えていたのに、話すら持ち上がらなくなった」……と酷く消沈していた。

俺に「殺戮の王子」という恐ろしい二つ名がなくても、貧困に喘いでいる我が国に、嫁入りしたい姫などいないだろう。

そんな折、国境付近でモンスターに襲われている男を救ったのは、偶然だった。

俺が助けた男は、隣国ノーブルグラント王国の国王だった。

国王は「命を助けて貰った礼に王女を嫁がせたい」と言ってきた。

隣国は約二十年間、どのような天災が起きても、変わらぬ収穫量を誇る農業大国だ。

しかも国王は、ノーブルグラント王国の宝玉と歌われる美しいシャルロット王女を、目の中に入れても痛くないほどに可愛がっていると聞く。

シャルロット王女を嫁にすれば、隣国からの食料の援助を受けられるかもしれない。

打算にまみれた結婚に、年頃の王女を利用するのは気の毒だが、食糧難にあえぐ我が国には、他に選択肢がなかった。

俺は国王の申し出を二つ返事で了承した。

そして、数週間後……。






国境にシャルロット王女を迎えに行った俺は、嫁いできたのがシャルロット王女ではなく、アリアベルタ王女と知り酷くがっかりした。

アリアベルタ王女は、国王の愛人の娘だ。

彼女は酷く金遣いが荒く、使用人に暴力を振るうことで有名だ。

顔にゴテゴテした化粧を施し、成金趣味の金ピカのドレスを纏ったアリアベルタ王女が、馬車から降りてきたとき、俺は騙された気持ちになった。

隣国は、評判が悪く金遣いの荒い王女を厄介払いしたのだ。

愛人の子であるアリアベルタ王女では人質の価値は薄い。隣国から食料の援助は期待できない。

しかし、嫁いで来てしまった者を追い返す訳にもいかない。

隣国の国王は「命を助けて貰った礼に王女を嫁がせたい」と言った。

なるほど、アリアベルタ王女も姫には違いない。

国王は嘘をついていない。婚姻をなかったことにはできない。

アリアベルタ王女は、馬車から降りるとき、ドレスの裾を踏み、転びそうになった。

彼女の体を支えようと馬車の前まで走り、腕を広げた。

腕の中に降りてきた彼女は、羽のように軽かった。

彼女の体は思ったよりも細く、ちゃんと食べているのか心配になった。

俺の心配をよそに、彼女は何もないところに向かって、コクリと頷いていた。

そのあと、彼女は俺が支えていることに気付き、俺から体を離すと恥ずかしそうに頬を赤らめながら、ドレスの裾を直した。

「先程はお恥ずかしいところをお目にかけました。私の名はアリアベルタ・ノーブルグラント。ノーブルグラント王国の第一王女です。ヴォルフハート王国のレオニス殿下とお見受けします。この度は国境まで出迎えてくださりありがとうございます。ふつつか者ですが、いつ久しくよろしくお願いします」

彼女は、何事もなかったかのように淑女の礼をした。

王女としては少したどたどしい挨拶だが、見られないこともなかった。

彼女の名前を聞いた兵士から、ざわめきが起きた。

「なぜ、第一王女なんだ……?」
「第二王女が輿入れするはずでは?」
「第一王女ってあれだろ? 金遣いが荒くて、暴力的って噂の……」
「美少女と名高い第二王女ではなく、悪名高い第一王女が輿入れしてくるとはな……」
「詐欺じゃないか……」

彼女の悪名は我が国にも轟いているが、当人の前で言うことではない。

「静まれ!」

俺はザワつく兵士たちを一括した。

「ノーブルグラント国王は、『王女を嫁がせる』と言った。第一王女も国王の娘。嘘はついていない。こちら側が勝手に誤解しただけだ」

俺がそう言うと、兵士たちは静かになった。

隣国の国王は嘘は言っていない。どの王女が嫁いで来るか、確認を怠った俺の落ち度だ。

「部下が失礼した。俺の名前はレオニス・ヴォルフハート。この国の王太子だ。末永くよろしく頼む」

「はい、殿下」

こちらが手を差し出すと、彼女はその手をにぎりかえしてきた。

気弱な女性なら俺の顔を見て泣き出すが、彼女は平然としていた。

なかなかに度胸があるようだ。

化粧はくどいが、彼女の翡翠色の瞳は無垢な少女のように輝いていて……彼女と目が合った瞬間、ドキリと胸が鳴った。








その時、部下がモンスターの襲来を告げた。

「アリアベルタ王女を馬車に入れろ! お前は馬車の警護をしろ! それ以外は持ち場に付け!! モンスターを迎え撃つ!!」

俺は王女を部下に任せ、剣を抜きモンスターの群れに飛び込んでいった。

幸い、モンスターの数が少なかったので、割と簡単に討伐できた。

しかし、モンスターの断末魔はそれなりに響いていたので、王女を怖がらせてしまったかもしれない。

王女の様子を見るために彼女の乗った馬車に近づくと、馬車のカーテンが開いていた。

彼女は俺と目が合うと「きゃあっ!」と悲鳴を上げ、「化け物!!」と言ってカーテンを締めた。

彼女に言われ、俺は自分の格好を確認した。

俺の服や体は、モンスターの返り血を浴びて真っ赤に染まっていた。

そうだった……。戦場を知らない淑女から見れば、俺は化け物なのだ。

分かりきっていたことなのに、面と向かって言われたのにはショックだった……。

彼女とは、最低限の関わり以外持たないことにしよう。

向こうも「化け物」とは、一緒にいたくないだろう。

アリアベルタ王女には最低限の使用人を付け、離宮に閉じ込めることにしよう。

そうすれば、手当り次第に使用人に暴力を振るわれることもないだろう。

離宮に商人を近づけさせなければ、散財されることもないだろう。

それがお互いにとって、最善の道のはず……。

その時の俺はその判断が正しいと信じていた。


しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

処理中です...