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3話「城下町の噂」
しおりを挟む「アリー、大丈夫? 死にそうな顔をしているのだ」
魔法で姿を消したフェルが小声で話しかけてくる。
「大丈夫よ。ちょっとコルセットが苦しいだけだから」
昨日、あのあとお風呂に入れられて身体中をくまなく洗われた。
そのあと髪を何度もブラッシングされ、ドレスの採寸をされて、ベッドに入ったのは深夜だった。
翌日は早朝から叩き起こされ、コルセットでギュウギュウに腰を締められ、急ごしらえで作ったと思われるドレスを着せられた。
「そのドレス……少し派手……というか、これ以上ないぐらいダサいのだ。髪も変なのだ。お化粧もあっていないのだ」
ドレスを着たあとは髪を縦ロールにされ、顔にベッタリと化粧をされた。
鏡に映っていたのは、金色のけばけばしいドレスをまとい、元の形がわからなくなるほど化粧を施された自分で……めまいがした。
昨日のメイドが、視界がぐらぐらしている私を、屋根のない馬車に放り込んだ。
なんでも嫁入りする姿を民衆にお披露目するらしい。
嫁ぐって大変。
母の古着では嫁げないのはわかっていたけど、こんな格好をさせられるなんて。
でも馬車には私とフェルだけなので、こうしてフェルと気軽に話せている。
御者席とは少し離れているから、フェルの声が聞こえる心配はないだろう。
「仕方ないのよフェル、いつもの格好では王太子に嫁げもないもの」
「僕はいつものアリーの方が好きなのだ」
「ありがとうフェル」
フェルと話している間に、馬車はお城の拾い庭を通り過ぎ、城の外に出ようとしていた。
生まれて初めて見る外の世界に、少しの不安と、沢山のわくわくとドキドキでいっぱいだった。
お城の大きな門を抜けると、城下町が見えた。
城から城下町までは少し距離がある。
「あれが街なのね」
大小沢山の建物が所狭しと並んでいる。
母が働いていたカフェの前も通るかしら?
ドキドキしながら待っていると、程なくして城下町にさしかかった。
事前に馬車が通る通達があったのか、沿道には大勢の人が並んでいた。
沿道に並んでいる人たちに笑顔で手を振る。
彼らの反応は喜ばしいものではなかった。
「贅沢三昧の姫様は嫁入りするのときのドレスも華美だね!」
「金遣いの荒い王女様は馬車もドレスも派手だね!」
「暴力王女は引っ込め!」
沿道にいる人たちから、馬車に乗っている私に聞こえるくらいの大きな声で叫んでいる。
贅沢三昧? 金遣いが荒い? 暴力王女??
私にはなんのことかわからない。
みんな私を親の敵でも見るような目で睨みつけている。
民衆からの怒りをひしひしと感じる。
「みんな何に怒っているのかしら?」
私は八年間、食事も衣服も満足に与えられなかった。
その私が、民に贅沢三昧していると思われているなんて、ショックだわ。
「僕ちょっと調べてくるのだ。すぐ戻るのだ」
そう言ってフェルは姿を消したまま飛んでいってしまった。
フェルがいなくなり、途端に心細くなった。
フェル……早く戻ってきて!
十分後、フェルは戻ってきた。
戻ってきた彼の眉間にはいくつのもシワが寄っていた。
いつも温厚なフェルがこんなに怒るなんて、何があったのかしら?
「お帰りなさいフェル。帰ってきてくれて嬉しいわ」
私はフェルを抱きしめて膝の上に乗せた。
「ただいまなのだ、アリー! 一人にしてごめんなのだ!」
「大丈夫よ。それで何かわかったの?」
「酷い話なのだ! アリーは第二王女の罪を全部着せられていたのだ!」
「ええっ?!」
「この馬車の後ろを走っている、馬車に乗ってる兵士とメイドが話していたので間違いないのだ!」
フェルが聞いてきた話によると、異母妹のシャルロットは可愛らしい見た目とは真逆の性格らしい。
シャルロットはとてもお金遣いが荒く、ドレスやアクセサリーを買い漁り、それに加えヒステリックな性格で、気に入らないことがあると、使用人に八つ当たりしていたらしい。
「その罪を全部アリーに着せたのだ! アリーが今日ハデハデのへんてこなドレスを着せられたのも、屋根のない馬車に乗せられ町中をパレードさせられてるのも、アリーが噂通りの人間だと民に印象付けるための国王や第二王女の策略なのだ!」
フェルは頭から湯気が出るくらいプンプンと怒っている。
フェルの言うとおり、私の悪い噂が流れているのなら、そこに噂通りの派手なドレスを纏った私が馬車で現れたら、民衆が憤るのはもっともだ。
「アリーを蔑ろにする王族も、王族の嘘を信じる国民もだい嫌いなのだ! こんな国なんて……」
いけないわ。フェルの怒りを沈めなくては。
妖精の怒りを買った国の末路なんて、考えただけでも恐ろしいもの。
「落ち着いてフェル。私も陛下やシャルロットがしたことには腹が立っているわ。でも国民は何も知らないの。噂に踊らされているだけなのよ。だから許してあげて」
「アリーは優しすぎるのだ」
フェルははーっとため息をついた。
彼の眉間のしわが消えているので、少しは怒りが治まったのかもしれない。
「アリーが頭を撫で撫でしてくれるなら、許してあげてもいいのだ」
「うん、ありがとうフェル」
私はフェルの髪をそっとなでた。
フェルはくすぐったそうな顔をしている。
お母様との思い出がある国だから、妖精の怒りを買ってほしくない。
馬車が城下町を走る間、ずっと民衆から怒りを向けられたけど、フェルと一緒なので耐えられた。
城下町を抜け森に入ると、屋根のない馬車を降りて、屋根付きの馬車に乗るように言われた。
この馬車で国境までいくらしい。
馬車には私のお付きと名乗るメイドが同乗することになる。
彼女は結婚式まで私の世話を焼いてくれるそうだ。
メイドの名前はジャネット。私の二つ年上で、茶色い髪をお下げにしていた。
「このメイドだよ! 兵士とアリーの悪口を言ってたのは!」
昨日、部屋に呼びに来たのも、私の髪を力いっぱい梳かしたのも、コルセットをギュウギュウに締めたのも、このメイドだった。
フェルの話では、兵士とメイドは同じ馬車に乗っていたようだ。
兵士の座っていた席には私が座るので、兵士は御者席に座ることになるようだ。
メイドと兵士に飛びかかりそうになるフェルをなんとかなだめた。
国境まで三日、このメイドと同じ馬車で移動することになる。
正確にはフェルもいるので、三人で過ごすことになる。
フェルと気軽におしゃべりできないのは辛いわ。
それよりもフェルが彼女に危害を加えないか心配ね。
フェルが彼女をつねったり、蹴ったりしないように、注意しなくては。
途中、何度か宿駅に泊まり、国境を目指した。
朝、メイドと兵士の顔に靴墨が塗られ真っ黒になっていたり、兵士の眉が剃られたり、メイドの髪がチリチリになっていたり、彼らの靴に虫が入っていたり、謎のアクシデントは起きたけど、無事に国境にたどり着いた。
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