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14話「釣書はよく燃える」

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一カ月後。

僕は自宅の応接室で暖炉に紙をくべていた。

「お義兄様、何を燃やしているのですか?」

そこにソフィアがやってきて、無垢な顔で尋ねてきた。

「お義父様に頼まれて、ソフィアに届いた釣書を燃やしているんだよ。
 送り返しても送り返しても、次から次に送られてくるからね。
 面倒だから焼却処分することにした」

先月、王家はソフィアが第一王子の婚約者候補を辞退したと発表した。

アルウィンは表向き王位継承を捨て、真実の愛で結ばれた下位貴族の令嬢と結ばれることになっている。

あくまでも表向きはね。今頃は二人で仲良く一つのパンを巡って血みどろの争いを繰り広げていることだろう。

良かったね、どちらかが死ぬまで仲良くケンカができて。

ちなみにソフィアはアルウィンの恋を応援して自ら身を引いたことになっている。

王家からソフィアが第一王子の婚約者候補を辞退したと発表した翌日。

義妹が王宮に登城したとき廊下ですれ違った文官や武官から、釣書が送られてきた。

奴らがソフィアの容姿についての噂を広めたので、国中の貴族から釣書が送られてくるようになった。

ソフィアは美人で礼儀正しく聡明だ。その上彼女と結婚すればバウムガルトナー公爵家の後ろ盾が得られる。

国中の貴族の令息がソフィアを放っておくはずがない。

最近では送られてくる手紙の中に、他国の貴族からの釣書も含まれるように
なった。全く頭の痛いことだ。

「お義兄様ったらそのようなご冗談を。
 王子殿下の婚約者候補を外され傷物同然の私に、そのように沢山の釣書が送られてくるはずがありませんわ」

ソフィアはそう言って眉根を下げた。

義妹は本気で言ってるのだからタチが悪い。

もうちょっと自分の価値を理解して危機感を持って欲しいものだ。

美人だが奢らず、公爵令嬢なのにふわふわとした考えを持っているところが義妹の良いところで、僕も義父もそんな彼女だからこそ大切にしているのだが。

「その件は置いといて、僕に何か用かな?」

「はい。
 あの……お義兄様に折り入ってお話が……」

ソフィアは顔を赤く染め、指を交差させながらもじもじと話しだした。

「言いにくいことなのかな?」

義妹の様子から推測するに、恋バナだろうか?

ソフィアの口から「好きな人ができました」……なんて報告を聞きたくない。

怒りに任せて相手の男をこの世から消してしまいそうだから。

僕の心の中に闇が溜まっていく。

「私にはずっと好きな人がいたんです。
 でも私は勇気がなくて……。
 今の関係が壊れてしまうのが怖くて……その方に気持ちを伝えることができませんでした……」

彼女の顔が耳まで朱色に染まっていく。

ソフィアに好きな男がいる……表情には出さないようにしたが僕の胸中は穏やかではなかった。

誰だ? 誰が彼女の心を奪った?

殺したい、始末したい、その相手をこの世からもソフィアの心からも消してしまいたい。

心の底にどす黒い感情が溜まっていく。

「ソフィアの意中の相手は誰かな?
 僕の知ってる人かい?」

僕は平静を装いそう尋ねた。

彼女は無言でコクリと頷いた。

僕はソフィアとの共通の知り合いで独身の男を頭の中に描いていく。

どうやってそいつらを秘密裏に消せるだろうか……?

誰だかわからないならいっそ全員を消して…………。

「ですが先日王宮にお招きいただいた時、殿下……アルウィン様が男爵令嬢のクロリス様と身分違いの恋をしていることを知り、
 アルウィン様がその恋を成就させようと懸命に努力されているお姿を見て、
 私はお二人から勇気をいただいたのです」

第一王子め余計なことを……!

やっぱりあいつはこの手で息の根を止めておくべきだった。

胸中にどす黒い感情が渦巻いていく。

この清楚で可憐な義妹を誰にも渡したくない。

他の男の目に触れさせたくない。

いっそ今すぐ義妹をさらってどこかに閉じ込めてしまおうか……?

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