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11話「気にしなくても大丈夫だよ」

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「気にしなくても大丈夫だよ、ソフィア」

義父が穏やかな顔でほほ笑んだ。

ソフィアが第一王子の婚約者候補から外れることを望んでいることに、義父も安堵しているようだ。

「お義父様のおっしゃる通りだよソフィア。
 君は今の段階では殿下の【婚約者候補】でしかないのだから。
 縁談が白紙に戻ることだってある、だから気にすることはないんだよ」

僕もソフィアを慰めた。

義父も僕も、もとより第一王子とソフィアの縁談を白紙に戻すつもりだったとは口が裂けても言えなかった。

「ありがとうございます。
 お父様、お義兄様」

ソフィアが花が綻ぶように笑った。

義父と僕は義妹の無邪気な笑顔に癒やされていた。

そうこうしている間に応接室でも話が進みだしたようだ。

「承知いたしました。
 殿下のお言葉はそのままソフィアお嬢様にお伝えいたします」

「えっ?」

ルーリー先生の言葉に王子は驚いた顔をしている。

「お、お前は誰だ……?!
 ソフィアではないのか!?」

「申し遅れました。
 私はバウムガルトナー公爵家で、ソフィアお嬢様の家庭教師をしておりますルーリー・フートと申します」

ルーリー先生は自己紹介をし綺麗なカーテシーをした。

「家庭教師だと……?
 では本物のソフィアはどこにいるんだ?」

第一王子は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。

「はい王妃様とのお約束の時刻には少し時間がありましたので、お嬢様は父親であるバウムガルトナー公爵に呼ばれ、宰相閣下の執務室に参りました」

「宰相の部屋だと……?」

王子は困惑しているようだった。

「ならさっさと呼んでこい、もうすぐ母上との約束の刻限だろ!」

王子がルーリー先生を怒鳴りつける。
頃合いを見計らって義父が応接室の扉を開けた。

「その必要はございません殿下。
 娘のソフィアならここにおります」

隣に立つ義父をちらりと見ると氷のように冷たい目をしていた。

おそらく僕も義父と同じような目をしていたと思う。

ソフィアを第一王子の婚約者候補から外すことはこちらが望んでいたことだ。だがこの王子の義妹に対する横柄な態度は我慢ならない。

殺気の籠もった目で王子を睨むと、彼はブルブルと体を震わせていた。

奴は今にもお漏らししそうだった。義妹の前で失禁するのはやめろ。お前の大事なものを潰すぞ。

僕がそんなことを考えていたとき、王子の瞳が僕の後ろにいる義妹を映した。

ソフィアは金色に輝くロングストレートヘア、サファイアブルーの瞳、白磁のような白い肌の美少女だ。

奴が義妹の容姿と、彼女の優雅な所作に見惚れるのはわかる。

予想していたことだ。だが実際に奴が義妹に惚れる瞬間を目の当たりにするのは気分が悪い。

王子の視線に気付いた義妹が、彼の前に進み優雅にカーテシーをした。

「お初にお目にかかります。
 ソフィア・バウムガルトナーと申します。
 第一王子殿下にあらせられましてはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じ上げ奉ります」

ソフィアの小鳥のさえずりのような美しい声に王子が聞き惚れているのがわかる。

彼女を映す王子の両の瞳はハートを描いていた。

僕のイライラは先程よりも増していた。

一刻も早くソフィアをこの部屋から連れ出し、よその男の視界に入らないところに閉じ込めてしまいたかった。

ポンコツ王子、逃した魚の価値に今頃気づいても遅いんだよ。

ソフィアを必ず王子の婚約者候補から外す。そのためなら僕はなんだってする。


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