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1話「少し昔、あるところに」
しおりを挟むむかしむかしあるところに、小さな王国がありました。
その国には、カトリーナ・シーゲルという金色の髪にサファイアブルーの瞳の可愛らしい女の子がおりました。
カトリーナの父親は仕事と称して浮気相手の家に行き、滅多に帰ってきませんでした。
ですが彼女は寂しくありませんでした。
それは彼女の母親が娘をとても愛していて、彼女に愛情をたっぷり注いでくれたからです。
カトリーナが八歳の時、黒い毛の子犬がシーゲル公爵家の庭に迷い混んできました。
動物好きだった彼女は可愛い子犬を見て大興奮!
カトリーナは子犬をレオと名付け家で飼うことにしました。
二人はどこに行くのも一緒でした。
彼女は仔犬をそれはそれは可愛がっていました。
カトリーナと子犬が侯爵家の広く手入れの行き届いた庭で戯れ、母親がその様子を見守る。
……そんな穏やかな日々が、しばらく続きました。
しかし幸せな日常は、カトリーナの母親の死とともに崩れ去るのでした。
カトリーナ母親の死からひと月後、彼女の父親は浮気相手と再婚しました。
それからカトリーナにとって辛い日々が始まったのです。
継母はとても意地悪な人でした。
彼女は前妻の子のカトリーナを、目の敵にしました。
後妻はカトリーナに使用人の仕事をさせたり、足をかけけて転ばせたり、頭から水をかけたり、濡れ衣を着せて酷く叱ったり、それは酷い仕打ちを繰り返し行いました。
継母には、ベティというカトリーナの一つ年下の娘がいました。
ベティはカトリーナの腹違いの妹でした。
カトリーナの父親は、正妻が生きている間から愛人に子を産ませていたのです。
継母がカトリーナを虐めているのを知りながら、見て見ぬふり、彼女の父親はとんでもないくずでした。
異母妹のベティもとても意地悪な性格で、カトリーナを邪険に扱いました。
ベティはカトリーナの部屋に入っては、彼女の私物を盗むか、壊すかしていきました。
ベティはカトリーナの顔が、恐怖や悲しみに歪むのを見るのが大好きでした。
あの親にしてこの子ありといった感じです。
そんな性悪な母娘が、カトリーナがとても可愛がっていた子犬に目をつけないはずがありません。
レオは継母によって森の奥に連れて行かれ、そこに置き去りにされてしまったのです。
「あの汚い黒い犬なら森の奥に捨ててきたわ。今ごろは獣の餌になっているでしょうね」
レオがいなくなって泣きじゃくるカトリーナに、継母はそう冷たく言い放ちました。
継母は血も涙もない鬼でした。
それでもカトリーナには、彼女を慕っている使用人がいました。
彼らは継母や異母妹にいじめられ泣いているカトリーナを、優しく見守っていたのでした。
しかし、それも長くは続きませんでした。
それから間もなくして、カトリーナの母親を慕っていた使用人は、継母に全てクビにされてしまいました。
とうとう公爵家にはカトリーナの味方は誰もいなくなってしまったのです……。
それからというもの、継母は彼女に一層辛く当たるようになりました。
朝は日の出前から働かされ、夜彼女がベッドに入るのは深夜でした。
与えられる食事は硬いパンと薄いスープのみ。
彼女はみるみる痩せていきました。
そんな日々が何年も続き……カトリーナは十八歳になりました。
彼女はボロを纏い、髪や肌は荒れ果てていました。
でもよく見れば彼女の目には美しい光が宿っていることに気がついたことでしょう。
しかし、彼女の周りにはそんな彼女の魅力に気付くものは誰一人としいなかったのです。
そしてある事件が起こりました。
ベティが、カトリーナの婚約者である王太子のマテルと浮気したのです。
ベティは桃色の髪に珊瑚色の瞳の美少女に成長していました。
異母妹は公爵家のお金でドレスやアクセサリーを好きに買えるので、華美に着飾っていました。
そんなベティの美しさに、王太子はメロメロになってしまいました。
継母に虐待されていたカトリーナは、お風呂に入ることを禁じられていました。
金色の髪の毛はボサボサに、ご飯をろくに食べさせてもらっていないので頬はやつれ肌はかさかさ、メイドも着ないようなボロボロの服を着せられていました。
王太子にはカトリーナが酷く醜く見えたのです。
本当のカトリーナはとても美しい少女なのに……王太子には彼女の良さが分からなかったのです。
「あたし……初めて会った日からお義姉様にいじめられていたんです。
お義姉様に睨まれ、蔑まれ、悪口を言われ、物を盗まれ、突き飛ばされとても辛かったわ!」
ベティは王太子に、カトリーナの悪口を吹き込みました。
王太子はベティの言葉を、調べもせずに鵜呑みにしました。
実際にはベティがカトリーナをいじめていたんですけどね。
ベティはカトリーナの髪を切ったり、頬を殴ったり、悪口を言ったり、物を盗んだり、池に突き飛ばしたり……それはそれは陰湿ないじめを繰り返していました。
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