【完結】「完璧な淑女と称される王太子妃は芋ジャージを着て農作業をする。 ギャップ萌え〜の効果で妖精王が釣れました」

まほりろ

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3話「芋ジャージ」

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―そんなこんなで芋掘り当日を迎えた―


穏やかな青空が広がり、秋の風が心地よい。

絶好の芋掘り日和。




「ブラザ……こ、このような衣服を、
 本当に十代前の王妃様はお召しになられていたのですか?」

アデリンダはえんじ色の、柔らかく伸縮性の高い長袖と長ズボンをまとっていた。

乗馬以外でズボンを履くことがない彼女は、いま着ている衣服に戸惑いを覚えていた。

「ええ、文献のとおりに再現いたしました。
 なんでも王妃様の故郷で若者がよく着ている服で『芋じゃーじー』と言うそうですよ」

「芋じゃーじー?」

「さつま芋の皮のような色だから芋じゃーじーと呼ぶそうです。
 じゃーじーとは王妃様の故郷で、作業着や体操服を指す言葉だとか」

「この服のデザイナーはなぜ、さつま芋の皮の色を選択したのかしら?」

「それはわかりかねますが、他にも芋虫色や、内出血したときの肌の色などのじゃーじーもあったそうです」

「王妃様の故郷の方は、個性的な色の衣服を好んで身に着けていたのね」

(さつま芋に、芋虫に、内出血したときの肌の色の衣服を好んで身につけていた王妃様の故郷の人々はどんな感性をしていたのかしら?)とアデリンダは、文献にすら詳しくは記されていない十代前の王妃の故郷に思いをはせていました。

「それにしても……今日は随分参加者が多いのですね。
 しかも由緒ある家の殿方ばかりだわ」

アデリンダが芋ジャージを着て芋掘りをすることは、あっという間に国中……いえ国境を超え他国にも広がりました。

それは種族を超え、精霊や妖精の世界にも伝わっていました。

今日の参加者はフンメル国の宰相の息子に、騎士団長と魔術師団長の息子、隣国の皇太子。

異種族の代表として、精霊王に、妖精王、竜神族の王子が参加していました。

皆、見目麗しく、聡明で、優秀な殿方ばかりです。

「皆様が、農作業にこれほど関心があるとは、存じませんでした」

アデリンダは、高貴な方々が農業に興味を持ってくれたことを嬉しく思っていました。

農業の辛さを体験し、それを政治に活かせれば、住みよい国に繋がる……彼女はそう考えていたのです。

「ブラザ、バナード様はまだいらっしゃらないのですか?」

「王太子殿下は急用が入ったようで遅れていらっしゃるそうです。
 なので先に始めているようにと、陛下から言付かっております」

「わかったわ。
 高位の貴族令息や隣国の皇太子殿下や異種族の王族の方までいらっしゃっているのですもの。
 彼らをお待たせするのは失礼よね。
 先に始めましょう」

そんなわけで、バナードにいつもと違う姿を見せて興味を持ってもらう為に催された芋掘り体験は、主要人物であるはずのバナード抜きで行われました。

「見てブラザ、こんなにたくさんお芋が取れたわ」

ドレスから芋ジャージに着替え、太陽の下で汗を流すアデリンダ。

泥だらけになりながら芋を掘る彼女の姿に、芋掘り体験に参加した男性陣は息を呑んだのです。

アデリンダが芋ジャージをまとったことで、彼女のスレンダーだが出るところが出ている体型が一目瞭然になりました。

額の汗を泥のついた手で拭う彼女の姿は、健康的であり、かつそんな仕草にも長年王太子妃教育で培われた気品が漂っていて、見るものの心を鷲掴みにしました。

普段は凛とした佇まいで、優雅な笑みを浮かべ、難しい政治の話をするアデリンダ。

しかし今日の彼女は、健康的に汗を流し、屈託のないほほ笑みをたたえ、大きな芋が取れたと侍女と一緒にはしゃいでいます。

男性はそんな彼女のギャップに魅了され、もうアデリンダに夢中です。。

こうしてブラザの「王太子妃に泥をつけ高貴さを損ね、モテモテにするぞ! 芋掘り大作戦」は大成功に終わったのでした。



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