3 / 5
3話「芋ジャージ」
しおりを挟む―そんなこんなで芋掘り当日を迎えた―
穏やかな青空が広がり、秋の風が心地よい。
絶好の芋掘り日和。
「ブラザ……こ、このような衣服を、
本当に十代前の王妃様はお召しになられていたのですか?」
アデリンダはえんじ色の、柔らかく伸縮性の高い長袖と長ズボンをまとっていた。
乗馬以外でズボンを履くことがない彼女は、いま着ている衣服に戸惑いを覚えていた。
「ええ、文献のとおりに再現いたしました。
なんでも王妃様の故郷で若者がよく着ている服で『芋じゃーじー』と言うそうですよ」
「芋じゃーじー?」
「さつま芋の皮のような色だから芋じゃーじーと呼ぶそうです。
じゃーじーとは王妃様の故郷で、作業着や体操服を指す言葉だとか」
「この服のデザイナーはなぜ、さつま芋の皮の色を選択したのかしら?」
「それはわかりかねますが、他にも芋虫色や、内出血したときの肌の色などのじゃーじーもあったそうです」
「王妃様の故郷の方は、個性的な色の衣服を好んで身に着けていたのね」
(さつま芋に、芋虫に、内出血したときの肌の色の衣服を好んで身につけていた王妃様の故郷の人々はどんな感性をしていたのかしら?)とアデリンダは、文献にすら詳しくは記されていない十代前の王妃の故郷に思いをはせていました。
「それにしても……今日は随分参加者が多いのですね。
しかも由緒ある家の殿方ばかりだわ」
アデリンダが芋ジャージを着て芋掘りをすることは、あっという間に国中……いえ国境を超え他国にも広がりました。
それは種族を超え、精霊や妖精の世界にも伝わっていました。
今日の参加者はフンメル国の宰相の息子に、騎士団長と魔術師団長の息子、隣国の皇太子。
異種族の代表として、精霊王に、妖精王、竜神族の王子が参加していました。
皆、見目麗しく、聡明で、優秀な殿方ばかりです。
「皆様が、農作業にこれほど関心があるとは、存じませんでした」
アデリンダは、高貴な方々が農業に興味を持ってくれたことを嬉しく思っていました。
農業の辛さを体験し、それを政治に活かせれば、住みよい国に繋がる……彼女はそう考えていたのです。
「ブラザ、バナード様はまだいらっしゃらないのですか?」
「王太子殿下は急用が入ったようで遅れていらっしゃるそうです。
なので先に始めているようにと、陛下から言付かっております」
「わかったわ。
高位の貴族令息や隣国の皇太子殿下や異種族の王族の方までいらっしゃっているのですもの。
彼らをお待たせするのは失礼よね。
先に始めましょう」
そんなわけで、バナードにいつもと違う姿を見せて興味を持ってもらう為に催された芋掘り体験は、主要人物であるはずのバナード抜きで行われました。
「見てブラザ、こんなにたくさんお芋が取れたわ」
ドレスから芋ジャージに着替え、太陽の下で汗を流すアデリンダ。
泥だらけになりながら芋を掘る彼女の姿に、芋掘り体験に参加した男性陣は息を呑んだのです。
アデリンダが芋ジャージをまとったことで、彼女のスレンダーだが出るところが出ている体型が一目瞭然になりました。
額の汗を泥のついた手で拭う彼女の姿は、健康的であり、かつそんな仕草にも長年王太子妃教育で培われた気品が漂っていて、見るものの心を鷲掴みにしました。
普段は凛とした佇まいで、優雅な笑みを浮かべ、難しい政治の話をするアデリンダ。
しかし今日の彼女は、健康的に汗を流し、屈託のないほほ笑みをたたえ、大きな芋が取れたと侍女と一緒にはしゃいでいます。
男性はそんな彼女のギャップに魅了され、もうアデリンダに夢中です。。
こうしてブラザの「王太子妃に泥をつけ高貴さを損ね、モテモテにするぞ! 芋掘り大作戦」は大成功に終わったのでした。
93
お気に入りに追加
676
あなたにおすすめの小説
「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。
長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。
*1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。
*不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。
*他サイトにも投稿していまし。
さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます
夜桜
恋愛
令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。
アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます
結城芙由奈
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】
交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。
※他サイトでも投稿中
※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです
【完結】離縁の理由は愛されたいと思ったからです
さこの
恋愛
①私のプライバシー、プライベートに侵害する事は許さない
②白い結婚とする
③アグネスを虐めてはならない
④侯爵家の夫人として務めよ
⑤私の金の使い道に異論は唱えない
⑥王家主催のパーティー以外出席はしない
私に愛されたいと思うなよ? 結婚前の契約でした。
私は十六歳。相手は二十四歳の年の差婚でした。
結婚式に憧れていたのに……
ホットランキング入りありがとうございます
2022/03/27
想い合っている? そうですか、ではお幸せに
四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。
「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」
婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる