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7話「黒歴史」

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コニーとグリゼルダがどうなろうと私には関係ありません。

しかしナヨタ子爵家はそう思っていないようで……。

ナヨタ子爵家はベッヒャー伯爵家に多額の融資をしていたそうです。

ベッヒャー伯爵家が破産したら、ナヨタ子爵家も共倒れです。

そこでナヨタ子爵家は、うち(クルツ子爵家)に援助を求めてきたのです。

彼らはグリセルダと婚約破棄したばかりの、コニーを引き連れてやってきました。

私はコニーに会いたくなくて、彼らが訪ねて来たことを知り自室にこもりました。

両親が応接室でナヨタ子爵たちの相手をしています。

当家の優秀な使用人が、応接室での話を逐一教えてくれるので、部屋にいても両親が彼らと何を話しているか分かりました。

ナヨタ子爵はこのように言っているようです。

「昔からの約束通りコニーとアリーゼを結婚させよう。
 やはり気心がしれた幼馴染と結婚するのが一番いい。
 コニーもアリーゼもお互い初恋同士。
 悪い話ではないだろう?」

今更、どの口がいっているのでしょうか?

状況によって、手のひらをくるっくる返すような家を信用できるはずがありません。

「グリゼルダと婚約するから、クルツ子爵家とは縁を切る!」

夏休み前、私はコニーからこのように言われているというのに。

コニーは、学園のパーティという公の場で、皆が見ている前でそう宣言し、当家の名誉を傷つけたのです。

子供の戯言では済まされません。

パーティーのあと、ナヨタ子爵家から当家に対する謝罪はありませんでした。

それはコニーの言葉をナヨタ子爵家が認めたも同然です。

なのに今更どの面下げて当家の敷居をまたげるのでしょうか?

あの一件で私がどれだけ傷ついたか……!

それなのに謝罪もないなんて……!

ナヨタ子爵家の図太さに、私は心底辟易していました。

メイドが「両家の話し合いは決裂しそうです」と告げに来ました。

まあ、そうなるだろうと私も思っていました。

両親は、パーティ会場から帰ってきた酷い状況の私を見ています。

事実確認もしないでコニーは私を悪者と決めつけ、皆の前で断罪しました。

公衆の面前で、当家に絶縁を突きつけて置きながら、あっさり許されると思っている方がどうかしているのです。

話し合いの情報を仕入れる為に、メイドが私の部屋を出ていきました。

しばらくして、メイドと誰かが廊下で言い争う声が聞こえました。

この声はコニーです。

どうやらコニーが応接室を抜け出し、私の部屋の近くまで来ているらしいのです。

幼馴染とはいえ、他人の家を許可なく歩き回るなんて礼儀のなってない男です。

コニーはメイドの制止を振り切り、私の部屋の前まで来ました。

コニーは私の部屋の扉をドンドンと乱暴に叩きました。

「アリーゼいるんだろ!
 僕だよ、コニーだよ! 
 パーティーでのことは謝るよ、開けてくれ!
 仲直りしよう!」

はぁ……、なぜあれだけの事をしておいて許されると思っているのでしょう?

彼はきっと当家のお金だけが目当てなんですね。

当家がお金を貸さなかったら、ナヨタ子爵家は破産してしまいますものね。

「帰ってください! 迷惑です!」

私が冷たく言い返すと、今度は部屋の外から怒鳴り声が聞こえてきました。

彼はドカドカと乱暴に扉を叩きました。

「おい開けろよ!
 優しく声をかけてやれば調子に乗りやがって!
 お前、学校での自分の評判を知っているのか!?
 『グリゼルダの劣化コピー』『嘘つきアリーゼ』だ!
 評判が悪くブサイクでセンスのないお前を、嫁に貰いたがる物好きはこの国にはいないんだよ!
 イケメンの僕がお前ごときで手を打ってやるって言ってるんだ!
 下手に出てる間に出てきて『はい』と返事をしろ!
 応接室に行って、おばさまとおじさまにこう言うんだ!
 『コニーは初恋の人よ。私、彼と結婚するわ!』ってな!
 それからナヨタ子爵家へ融資をするように、おじさまとおばさまを説得しろ!!」

わかってはいましたが、こうもはっきりと財産目当てと言われると、嫌な気分になりますね。

彼に惚れていた時期があるなんて、完全に黒歴史です。


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