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6話

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――第一王子視点――


オレはこの国の第一王子に生まれ、蝶よ花よと育てられた。

面倒な仕事は全部婚約者のアデリナに押し付け、オレは可愛い恋人のイルゼと楽しく過ごしていた。

イルゼは桃色のふわふわした髪に、愛らしい顔立ちに女らしく従順な性格で、華奢な体だが胸は大きくて、エッチな要求にも応じてくれたので最高だった。

アデリナも金色の髪に緑の瞳の美人だが、お高く止まっていて、手さえ握らせてくれない。

顔を合わせれば説教ばかりしてくるし、なにかにつけて見下してくるし、なんとも腹が立つ女だった。

その上、トカゲが友達だという変わり者。

アデリナが一度だけ、青色の薄汚いトカゲを城に連れてきたことがあった。

トカゲに向かって微笑むアデリナが鬱陶しかったので、トカゲをつかみ窓から投げ捨ててやった。

アデリナの奴「クヴェルを返して!」と言って、泣きながら怒っていたな。

気の強いアデリナを泣かせることができて、胸がスカッとしたのを覚えている。

あれ以来アデリナはトカゲの話をしなくなった。

トカゲは窓から落ちたとき死んだんだろう。

薄汚いトカゲの一匹や二匹、死んだからってこの国には何の変化もない。

俺のストレス解消の役に立って死ねたのだ、トカゲも本望だろう。

トカゲしか友達がいない変人でも、頭でっかちでも、アデリナは公爵令嬢だ。

簡単には婚約破棄できない。

そこで俺は、俺とイルゼを真実の愛で結ばれながら身分の差に引き裂かれ結婚できない悲劇のカップルに、アデリナを嫉妬に狂いイルゼをいじめる悪女に仕立てた。

恋愛小説や芝居で俺達をモデルにした話を描けば、民衆は俺とイルゼの恋を応援し、悪女であるアデリナを非難した。

そうして評判の落ちたアデリナに、卒業パーティーで婚約破棄を突きつけた。

教師も生徒も小説やお芝居で描かれたことを事実だと思っている。

卒業パーティの場に、アデリナに味方するものは奴は一人もいなかった。

まさにアデリナにとって四面楚歌の状態、いい気分だ。

公爵令嬢の分際で、王族である俺に説教を垂れたりするからそんな目に合うんだ。

俺に婚約を破棄されて泣いているアデリナの姿を見て、気分が高揚した。

アデリナは泣くほど俺を好きだったのか? 
俺も鬼じゃない。

アデリナは美人だしスタイルもいい、俺の代わりに仕事をするなら、アデリナを愛人にしてやってもいい。

でもそれは今じゃない。

アデリナを愛人にするのは、アデリナが俺に説教したことや、俺の可愛いイルゼを蔑ろにしたことを、たっぷりと反省してからだ。

俺に婚約破棄されたアデリナは傷物、縁談の話など来ないだろう。

万が一に備えアデリナに求婚するものが出ないよう、裏から手を回しておこう。

婚約破棄してから三年も経過すれば、アデリナは行き遅れ。

婚期を逃したアデリナに側室の話を持ちかけたら、奴は泣いて喜ぶはずだ。

その頃にはアデリナの高慢な性格も治っているだろう。

もしアデリナが三年経過しても高慢な性格のままなら、拳を使って従順な性格になるよう教育するだけだ。

アデリナよりも、今はイルゼのことが気がかりだ。

イルゼは男爵家の娘だから、今の身分のままでは俺の正室にはなれない。

父上と母上が国内視察から帰ってきたら、イルゼとの結婚を願い出よう。

イルゼを高位貴族の養女にして、それから王室に嫁がせよう。

イルゼは愛らしい見た目で、天真爛漫な性格だ。

父上も母上も、イルゼに会えばきっと彼女のことをきっと気に入るはず。

イルゼとの婚約パーティーは豪勢に行おう。

イルゼの為に新しいドレスを作ろう、豪華なアクセサリーを買い揃えよう。

イルゼが使う靴やセンスや帽子も必要だな。

忙しくなるぞ。







このときの俺は、アデリナがペットのトカゲを連れて家を出たことを知る由もなく。

イルゼとの新婚生活に胸を弾ませていた。

まさか卒業パーティーの翌日からブラーゼ国が数々の不幸に見舞われ、井戸水が干上がるなんて夢にも思わなかった。

その原因がアデリナの連れているペットのトカゲで、トカゲがブラーゼ国に幸運をもたらす守り神だったと知るのはもう少しあとのこと……。



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