6 / 15
6話
しおりを挟む――第一王子視点――
オレはこの国の第一王子に生まれ、蝶よ花よと育てられた。
面倒な仕事は全部婚約者のアデリナに押し付け、オレは可愛い恋人のイルゼと楽しく過ごしていた。
イルゼは桃色のふわふわした髪に、愛らしい顔立ちに女らしく従順な性格で、華奢な体だが胸は大きくて、エッチな要求にも応じてくれたので最高だった。
アデリナも金色の髪に緑の瞳の美人だが、お高く止まっていて、手さえ握らせてくれない。
顔を合わせれば説教ばかりしてくるし、なにかにつけて見下してくるし、なんとも腹が立つ女だった。
その上、トカゲが友達だという変わり者。
アデリナが一度だけ、青色の薄汚いトカゲを城に連れてきたことがあった。
トカゲに向かって微笑むアデリナが鬱陶しかったので、トカゲをつかみ窓から投げ捨ててやった。
アデリナの奴「クヴェルを返して!」と言って、泣きながら怒っていたな。
気の強いアデリナを泣かせることができて、胸がスカッとしたのを覚えている。
あれ以来アデリナはトカゲの話をしなくなった。
トカゲは窓から落ちたとき死んだんだろう。
薄汚いトカゲの一匹や二匹、死んだからってこの国には何の変化もない。
俺のストレス解消の役に立って死ねたのだ、トカゲも本望だろう。
トカゲしか友達がいない変人でも、頭でっかちでも、アデリナは公爵令嬢だ。
簡単には婚約破棄できない。
そこで俺は、俺とイルゼを真実の愛で結ばれながら身分の差に引き裂かれ結婚できない悲劇のカップルに、アデリナを嫉妬に狂いイルゼをいじめる悪女に仕立てた。
恋愛小説や芝居で俺達をモデルにした話を描けば、民衆は俺とイルゼの恋を応援し、悪女であるアデリナを非難した。
そうして評判の落ちたアデリナに、卒業パーティーで婚約破棄を突きつけた。
教師も生徒も小説やお芝居で描かれたことを事実だと思っている。
卒業パーティの場に、アデリナに味方するものは奴は一人もいなかった。
まさにアデリナにとって四面楚歌の状態、いい気分だ。
公爵令嬢の分際で、王族である俺に説教を垂れたりするからそんな目に合うんだ。
俺に婚約を破棄されて泣いているアデリナの姿を見て、気分が高揚した。
アデリナは泣くほど俺を好きだったのか?
俺も鬼じゃない。
アデリナは美人だしスタイルもいい、俺の代わりに仕事をするなら、アデリナを愛人にしてやってもいい。
でもそれは今じゃない。
アデリナを愛人にするのは、アデリナが俺に説教したことや、俺の可愛いイルゼを蔑ろにしたことを、たっぷりと反省してからだ。
俺に婚約破棄されたアデリナは傷物、縁談の話など来ないだろう。
万が一に備えアデリナに求婚するものが出ないよう、裏から手を回しておこう。
婚約破棄してから三年も経過すれば、アデリナは行き遅れ。
婚期を逃したアデリナに側室の話を持ちかけたら、奴は泣いて喜ぶはずだ。
その頃にはアデリナの高慢な性格も治っているだろう。
もしアデリナが三年経過しても高慢な性格のままなら、拳を使って従順な性格になるよう教育するだけだ。
アデリナよりも、今はイルゼのことが気がかりだ。
イルゼは男爵家の娘だから、今の身分のままでは俺の正室にはなれない。
父上と母上が国内視察から帰ってきたら、イルゼとの結婚を願い出よう。
イルゼを高位貴族の養女にして、それから王室に嫁がせよう。
イルゼは愛らしい見た目で、天真爛漫な性格だ。
父上も母上も、イルゼに会えばきっと彼女のことをきっと気に入るはず。
イルゼとの婚約パーティーは豪勢に行おう。
イルゼの為に新しいドレスを作ろう、豪華なアクセサリーを買い揃えよう。
イルゼが使う靴やセンスや帽子も必要だな。
忙しくなるぞ。
このときの俺は、アデリナがペットのトカゲを連れて家を出たことを知る由もなく。
イルゼとの新婚生活に胸を弾ませていた。
まさか卒業パーティーの翌日からブラーゼ国が数々の不幸に見舞われ、井戸水が干上がるなんて夢にも思わなかった。
その原因がアデリナの連れているペットのトカゲで、トカゲがブラーゼ国に幸運をもたらす守り神だったと知るのはもう少しあとのこと……。
☆☆☆☆☆
25
お気に入りに追加
3,754
あなたにおすすめの小説
【完結】妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた〜お姉様の選んだ人が欲しい?分かりました、後悔しても遅いですよ
冬月光輝
恋愛
ファウスト侯爵家の長女であるイリアには、姉のものを何でも欲しがり、奪っていく妹のローザがいた。
それでも両親は妹のローザの方を可愛がり、イリアには「姉なのだから我慢しなさい」と反論を許さない。
妹の欲しがりは増長して、遂にはイリアの婚約者を奪おうとした上で破談に追いやってしまう。
「だって、お姉様の選んだ人なら間違いないでしょう? 譲ってくれても良いじゃないですか」
大事な縁談が壊れたにも関わらず、悪びれない妹に頭を抱えていた頃、傲慢でモラハラ気質が原因で何人もの婚約者を精神的に追い詰めて破談に導いたという、この国の第二王子ダミアンがイリアに見惚れて求婚をする。
「ローザが私のモノを何でも欲しがるのならいっそのこと――」
イリアは、あることを思いついてダミアンと婚約することを決意した。
「毒を以て毒を制す」――この物語はそんなお話。
わがまま妹、自爆する
四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。
そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?
【完結済み】「こんなことなら、婚約破棄させてもらう!」幼い頃からの婚約者に、浮気を疑われた私。しかし私の前に、事の真相を知る人物が現れて……
オコムラナオ
恋愛
(完結済みの作品を、複数話に分けて投稿します。最後まで書きあがっておりますので、安心してお読みください)
婚約者であるアルフレッド・アルバートン侯爵令息から、婚約破棄を言い渡されたローズ。
原因は、二人で一緒に行ったダンスパーティーで、ローズが他の男と踊っていたから。
アルフレッドはローズが以前から様子がおかしかったことを指摘し、自分以外の男に浮気心を持っているのだと責め立てる。
ローズが事情を説明しようとしても、彼は頑なに耳を貸さない。
「こんなことなら、婚約破棄させてもらう!」
彼がこう宣言したとき、意外なところからローズに救いの手が差し伸べられる。
明かされたのはローズの潔白だけではなく、思いもよらない事実だった……
さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます
夜桜
恋愛
令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。
アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。
夢草 蝶
恋愛
公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。
そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。
溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~
弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」
……病弱な妹?
はて……誰の事でしょう??
今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。
私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。
そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。
※現実世界とは違う異世界のお話です。
※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる