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5話

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――クヴェル視点――


僕とアデリナが出会ったのは三年前、アデリナが十五歳の時だった。

神界を出て人間の国を遊び回っていた僕は、うっかりミドガルズオルムとバジリスクが大量に住んでいる洞窟に迷い込んでしまった。

辛くもミドガルズオルムとバジリスクには勝利したけど、僕の身体はボロボロで人型も維持できなくなっていた。

王宮の庭に入り込み、トカゲの姿で休んでいた所をカラスの襲撃にあった。

魔力を失った状態ではトカゲにすら勝てない。

もうだめだと思ったところを、美しい少女に助けられた。

金色の髪にエメラルドの瞳の見目麗しい少女。

少女の名はアデリナと言い、美しいだけでなく、優しくて聡明な乙女だった。

アデリナが看病してくれたおかげで、僕は元気になった。

すっかり傷が癒えた頃、アデリナに尋ねた。

『アデリナ、何か願いはある? 
 僕に叶えられる願いならなんでも叶えてあげるよ』

僕を助けてくれた、美しく聡明で心温かい少女に何か恩返しがしたかった。

『カーリン王子の婚約者として恥ずかしくないように、学問と魔法を極めブラーゼ国に貢献したい。
 カーリン王子の婚約者としてブラーゼ国の民を慈しむ心を持ち続けたい。
 私はカーリン王子の婚約者として、ブラーゼ国の民が心から安らかに暮らせることを願います』
  
アデリナは慈しみのこもった笑みを浮かべ、そう答えた。

抽象的な願いだから叶えようかどうしようか迷った。

それよりも僕はアデリナに婚約者がいたことがショックだった。

結局僕はアデリナのひたむきさにうたれ、アデリナの魔法の才能と学問の才能を伸ばすことにした。

民の幸せを願う優しいアデリナの為に、ブラーゼ国の民の幸福値をあげる魔法をかけた。

僕に才能を伸ばす魔法をかけられたアデリナは、彼女自身の努力も加わりメキメキと魔法の腕を上げた。

一年後、アデリナは魔法の師を超える魔法の使い手になり、また学業においては学年で首席を取るほどほど賢くなった。

その結果、皮肉なことに怠け者の王子から嫉妬されるようになり、王子の仕事や生徒会の仕事を押し付けられるようになった。

国民は幸福値が上がってもその事に気付かず、当たり前のように幸福を享受した。

国土の半分が砂漠のせいでブラーゼ国では、一年に数回水不足に陥る。

僕はこっそり魔法で雨を降らせ、水源である湖を潤した。

井戸水に砂漠の砂が混ざることがあるので、井戸水に浄化の魔法をかけた。

国土の半分が砂漠のせいで、ブラーゼ国の空気は埃っぽい。

だから空気にも浄化の魔法をかけた。

しかしブラーゼ国の民は、住みやすくなったことに気づかず、当たり前のようにその状況を享受した。





二年前、アデリナに付いて城に行ったことがある。

僕はアホ王子に見つかり、アデリナの目の前で、窓から捨てられた。

僕は飛べるから良かったようなものの、五階から落とされたら普通のトカゲなら死んでる。

部屋に戻ると僕が死んだと思って泣いてるアデリナの隣で、アホ王子はヘラヘラと笑ってた。

アホ王子は俺に気付かず部屋を出ていった。

アデリナをわざと泣かせてあざけ笑うような奴が王子なんて、ブラーゼ国は終わってると思った。

アデリナを泣かせる奴は僕の敵だ、絶対に許さない。





学園に入学してからすぐ、アホ王子が男爵令嬢と浮気した。

ブラーゼ国の国民は、浮気者の王子とビッチな男爵令嬢を「真実の愛で結ばれた二人」と言って褒めたたえ、アデリナを二人の仲を引き裂く悪女に仕立てた。

学園の生徒も教師も民衆も、アデリナを「真実の愛で結ばれた二人の仲を引き裂こうとする冷血公爵令嬢」と言って罵った。

アデリナの父親は「王子の心一つ掴めない無能」と言ってアデリナを罵り、アデリナの継母は「気取っているから浮気されるのよ、いいざまだわ」と言ってアデリナをあざ笑った。

アデリナを虐げるブラーゼ国の国民にも、アデリナをいじめる公爵と公爵夫人にも、嫌気がさした。

でもアデリナはそんな状況でも黙々と仕事をこなし、誹謗中傷に耐えていた。

『クヴェル、私を連れて逃げて!』

アデリナがそう願ってくれたらどんなによかったか。

だから僕はアデリナが王子の婚約者として頑張っている間は、ブラーゼ国の為に魔法を使うと決めた。

だけどひたむきに努力してきたアデリナを、王子はあっさり切り捨てた。

公爵も公爵夫人もアデリナの苦労を知ろうともせず、婚約破棄されたアデリナを勘当し家から追い出した。

もともと嫌いだったアホ王子と、公爵夫妻がもっと嫌いになった。

アデリナはもうアホ王子の婚約者じゃない。

アデリナの願いは【カーリン王子の婚約者として】だったから、あのときの願いは無効だ。

アデリナからアホ王子との婚約が破棄されたと聞いたとき、僕はブラーゼ国の民にかけていた、幸福値を上げる魔法を解除した。

ブラーゼ国の国民に付与していた幸福の加護を消滅させ、アデリナだけに幸福の加護を与えた。

ブラーゼ国の国民には少しだけ魔法の威力が上がる魔法をかけていたがそれも解除して、魔法の威力が上がる加護をアデリナに集中させた。

アデリナに加護の力に付いて聞かれたときはドキッとしたけど、僕はアデリナがアデリナに加護の力を与えてない。

アデリナが、加護の力を与えたんだ。

だからアデリナには嘘は言ってない。

ブラーゼ国の水源の湖と井戸の水が干上がらないように、三年間定期的に雨を降らせてたけどそれも止めた。

水と空気が美味しくなるように、浄化の魔法を使っていたけどそれも止めた。

モンスターが増えすぎないように、ときどき砂漠や森に行ってモンスターを間引いてたけど、それももうやらない。

アデリナを虐げたアホ王子と公爵夫妻。

アホ王子と男爵令嬢のついた嘘を信じ、アデリナの悪口を言った国民……みんな大嫌いだ。

アデリナが去ったあと、ブラーゼ国がどうなろうと僕の知ったことではない。

これからはアデリナの為にしか僕の力は使わない。

僕はアデリナの為だけに生きる。


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