【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ

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19話「ルーウィー」ざまぁ・番外編5

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――ルーウィー・視点――


「お義父様、スタン殿下は王太子ですよ! 呼び捨てにするなんて、不敬です!」

体は動かないが、かろうじて口だけは動く。

「口を残し全身を麻痺させる薬か、よくできてるな」

「恐れ入ります。閣下」

義父の言葉に返事をしたのは、僕たちをこの部屋に案内したメイドだった。

義父の手下だったのか!

「フォスター公爵! こんなことをしてただで済むと思うなよ!」

「そうですよお義父様! 公爵より、王太子である殿下の方が偉いんです! 殿下にこんなことをしたのが王家に知れたら、お義父様は不敬罪に問われ、死罪になります!」

フォスター公爵家は僕が継ぐんだ! 家名に泥を塗るな!

僕が継ぐ前に、フォスター公爵家が取り潰しになったらどうするんだ! 

殿下に媚を売って、なんとしてもフォスター公爵家だけは存続させないと!

「スタン、ルーウィー。貴様らは何か勘違いしている」

「フォスター公爵、俺の名前を呼び捨てにするな! 不敬だぞ!」

スタン殿下が義父を睨む。

「国王など所詮は貴族に支えられたお飾り、政治は貴族から選出された官僚がしている。
国王や王太子は誰がなっても同じ。
貴様らは生きているのではなく、貴族である我々の手の中で踊らされ、生かされているにすぎないのだよ」

冷淡な眼差しで僕たちを見据え、義父が言い放つ。

「な、なんだとーー! 
王族への侮辱は 絶対に許せん! 
貴様を処刑してやる! 
フォスター公爵家は取り潰しだ!」

まずい、義父は完全にスタン殿下を怒らせてしまった。

「お義父様! 今すぐスタン殿下に謝ってください!」

僕が継ぐフォスター公爵家のために、今すぐ謝るんだ。

そして責任を取って死んでください。

「それからルーウィー、貴様に『お義父様』と呼ばれる筋合いはない」

「何をおっしゃっているのですか、お義父様は僕の義父でしょう!」

「ルーウィー、貴様は愚かだな。
実の娘をはめ、処刑した憎い敵である貴様を、養子のままにしておくと思っていたのか? 
貴様との養子縁組は本日付けで解除した。
ルーウィー、貴様は今日から平民だ」

「僕が、平民……?」

僕が平民になったというのか……?

公爵家を継ぎ、いずれは大臣になり、王妃になったゲレを支える僕が……平民?

「貴様のことだからわしを追い落とし、公爵家を継ぐ気だったのだろうな。
そんな野心を抱くなら、卒業パーティのあとすぐに公爵家に帰宅し、わしを殺すべきだった」

義父の……いやフォスター公爵の眼光が僕を射抜く。
 
「ひっ……!」

今の公爵に比べたら、悪魔だって可愛く見えるだろう。

僕は恐怖でおしっこをちびりそうになった。

「ルーウィー貴様は卒業パーティで、アリシアが男爵令嬢の髪を切り、硫酸をかけようとしたと証言したそうだな。
証拠のハサミと硫酸の瓶が、アリシアの部屋から見つかったとも言ったそうだな」

「そ、それは……」

フォスター公爵の手には先が鋭く尖った洋裁用のハサミと、液体の入った瓶が握られていた。

「嘘つきのドブネズミを養子にしたことを後悔しているよ。
貴様を公爵家に引き入れるべきではなかった。
まさか、当主の娘であるアリシアを罠にはめるとはな。
恩を仇で返されるとはまさにこのことだ」

フォスター公爵はそう言って、僕の足にハサミを突き刺した。

「ぐぎゃああああ!!」

どくどくと音を立て、僕の足から血が流れ出す。

「義弟に裏切られたとき、アリシアはどんな気持ちだったのだろうな?」

そう言って、義父は何度も僕の足にハサミを突き立てた。

「うがァァアアア! や、やめて……! やめてくだ……さい!」

肉が抉れ、血が吹き出す。

「体は麻痺しているのに、苦痛を感じる。お前の薬は本当に素晴らしいな」

「恐れ入ります。閣下」

公爵は、店員に扮した女を褒めた。
 
「ハサミの次は硫酸だ」

フォスター公爵がハサミを僕の手に刺したまま、冷淡な声で言った。

「やめ……やめて……ください! それだけは勘弁してください……! 嫌だ! 僕が悪かった……だから、助け……! ぐぎゃあああああああああ!!」

フォスター公爵に頭から硫酸がかけられた。

痛みで気を失いそうになると、手に甲にハサミを突き立てられる。

頭を抱えて、転げ回りたいのに、体が麻痺して動かない。

僕の顔はただれ、目が潰れ、部屋で何が起きているか分からない。

顔が……! 

僕の美しかった顔がぁぁぁ!

何も見えない……! 真っ暗だ……!

痛みと、恐怖だけをこのまま永遠に与え続けられるのか……?

絶望しかない。





紫の髪の幼い少女の顔が瞼の裏に浮かぶ。

『叔父様とルーウィーが可愛そう』

そう言って、幼い少女は僕と父に手を差し伸べてくれた。

ああそうだ……思い出した。没落しかけたホルン子爵家を助けてくれたのはアリシアだった。

僕が養子になることもアリシアが許可してくれたんだ。

『私が本当にスタン殿下と婚約して、スタン殿下が王太子になったら、私はこの家を出て王宮で暮らさなくてはいけない。
お父様が一人になっては可愛そうだから、あなたが一緒にいてあげて』

そう言って僕の手を優しく握ってくれたんだ。

アリシアは全てを最初から持っていたわけじゃなかった。

アリシアは婚約者となったスタン殿下を支えるために、死にものぐるいで努力していたんだ。

マナーも、政治も、勉強も、話術も、ダンスも、寝る間も惜しんで勉強していたんだ。

僕も最初の方はアリシアと一緒に努力していた。

でもいくら努力しても、アリシアには全然叶わなくて……。

そんなとき、公爵家を訪ねてきた実父に言われたんだ、
『お前はいずれ公爵家を継ぐ。
義姉は王太子妃。
お前自身は王太子の側近。
黙っていればなんでも転がり込んで来るのに、なぜ努力する必要がある?』
と。

スタン殿下も
『俺は生まれながらの王太子だ! 
将来が約束されている身! 
努力なんてのは、継ぐ家のない恵まれない身分に生まれた奴がすることだ!』
と言って、僕を遊びに誘った。

僕は次第に努力をしなくなっていった。

黙っていても全て手に入るのに、努力するだけ無駄だと思うようになっていた……。

僕の周りには、僕と同じ考えの貴族の嫡男ばかりが集まるようになった。

それからだ、アリシアが僕を蔑むような目で見るようになったのは。

アリシアは、地位の上にあぐらをかくようになった僕をいつも注意してくれたのに。

それなのに僕は、楽な方に、楽な方に、流されて……。

努力しているアリシアを、疎んで嫌って……。

最低だ……。



『私が本当にスタン殿下と婚約して、スタン殿下が王太子になったら、私はこの家を出て王宮で暮らさなくてはいけない。
お父様が一人になっては可愛そうだから、あなたが一緒にいてあげて』



ごめんアリシア……。

君を殺すことに手を貸してしまった僕は、伯父様の側にいることはできない。

ごめん。

ごめん……。

本当にごめん……。

許されることではないが、謝らずにはいられなかった。

いつしか僕は焼けただれ潰れた目から、血の涙を流していた。



☆☆☆☆☆


※一人目の断罪はルーウィー。
そんなに残酷な描写にならなくてすみません。
ざまぁのネタ少ないんですよ。
番外編は後付だから、矛盾があったらすみません。



☆☆☆☆☆
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