【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ

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18話「最後の晩餐」番外編4

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――ルーウィー視点――


卒業パーティでお義姉様アリシアに冤罪をかけ、殺害することに成功した。

血なまぐさくなった卒業パーティの会場を後にし、ホテルを兼ねたレストラン「ケーフィヒ」で祝杯を上げていた。

レストランには、王太子殿下とゲレとジェイとカスパーも一緒に来た。

「やっと邪魔なアリシアを始末することが出来た」

王太子殿下は隣の席に座るゲレの肩を抱き、上機嫌で言った。

「あとは僕がフォスター公爵家を継ぎ、ゲレを養女にしたのち、王太子殿下の婚約者にするだけですね」

「あたし~~、公爵家の養女になれるの~~? じゃあ、あたしはルーウィー様と姉弟になるのね~~」

ゲレが話した。ちょっと顔が赤いから酔っているのかもしれない。

「ゲレ、さっき僕が公爵になるって説明したよね? ゲレは僕の義姉ではなく、義理の娘になるんだよ」

「ええ~~? そうなの~~? ルーウィー様の方が年下なのに~~、あたしのお義父様になるの~~?? 不思議~~? あたし~難しいことは、よく分かんな~~い」

ゲレのちょっと頭の弱いところも、語尾を伸ばす話し方も、困ったときこてんと首をかしげる仕草も、全てが可愛い。

ゲレは、純粋で、無垢で、清らかで、まるで地上に舞い降りた天使のようだ。

嫉妬深くて、高飛車で、傲慢で意地悪で、口うるさくて、やることなすこと全て鼻につく、義姉のアリシアとは大違いだ。

公爵家の長女に生まれたというだけで、最初からなんでも持っていたアリシア。

アリシアは、貧乏子爵家出身である僕を、いつも見下すような目で見ていた。

幼い頃から傲慢だったアリシア。公爵家の権力を使い、当時第一王子だったスタン殿下の婚約者になり。

「スタン殿下の生みの親である側妃様は、子爵家出身。フォスター公爵家が後ろ盾になって守って差し上げねば」と上から目線で言ったり。

男爵令嬢のゲレに「マナーがなってない」「婚約者のいる殿方に、馴れ馴れしく触れてはいけない」と言って馬鹿にしたり。

殿下に盾突いた下位貴族を、殿下がジェイに命じて半殺しにしたときは「肩がぶつかっただけで、そこまでする必要がありまして?」と言って殿下や僕たちを咎めた。

アリシアは、やることなすこと鼻につく嫌な女だった。

スタン殿下は第一王子、生まれたときから王太子になるのが決まっている、高貴なお方なんだ。

側妃様の実家が子爵家だろうが、王妃が第二王子を生もうが、スタン王子の未来に影を落とすことなんてないんだ。

それなのにアリシアは、自分がスタン殿下の婚約者になったから、スタン殿下が王太子になれたと思っていたようだ。

思い上がりもはなはだしい。

アリシアが婚約者じゃなくなったぐらいで、スタン殿下の地位は揺るがない。

もし本当にスタン殿下にフォスター公爵家の後ろ盾が必要なら、僕が公爵家を継ぎ、僕がスタン殿下の後ろ盾になればいい。

養父を隠居に追い込み、公爵家を継いだらゲレを養女にして、スタン殿下の婚約者にしよう。

美しく純粋なゲレは、誰よりも王太子の婚約者にふさわしい。

ゲレは、未来の王妃になるべくして生まれてきた存在なのだ。

「ゲレはおバカさんだな。まぁ、そんなところが可愛いのだが」

スタン殿下がいやらしい目つきでゲレの体を眺め、ゲレの腰に手を回した。

「やだ~~、スタン様~~、手がエッチですよ~~」

とか言いながら、ゲレもまんざらでもなさそうだ。

スタン殿下が羨ましい。僕もゲレに触れたい。ゲレとイチャイチャしたい。

ゲレは王太子殿下との初夜を終えたら、僕やジャイやカスパーとも、床を共にしてくれると約束してくれた。

ゲレが「スタン様はお心が広いので、みんなであたしを共有することを、許可してくれたんですよ~~」と言っていた。

ジェイやカスパーまでゲレを抱くのは癪だが、これもみんなとの絆を深めるためだ。多少のことは我慢しよう。

スタン殿下とゲレの初夜が終われば、僕はゲレと一夜を……!

ゲレはスタン殿下の次は、僕に抱かれたいと言ってくれた。

僕はジェイやカスパーより、ゲレに好かれていることが分かり、優越感に浸っている。

スタン殿下とゲレの結婚式が今から待ち遠しい。いやゲレの結婚まで待たなくてもいいかもしれない。

今夜のスタン殿下は、いつもよりゲレとのスキンシップが激しい。

今宵、スタン殿下とゲレが一線を越える可能性が高い。

ということはそう遠くない未来、僕はゲレを……抱ける!

その日が来るのが今から楽しみだ。





その時、ガタン……!! 
と椅子が倒れる音の後がした。
続いて、パリーン! と何かが割れる音がホールに響いた。

すぐ隣の席で、若い男性客二人が取っ組み合いの喧嘩を始めたようだ。

聞こえてきた会話から推測すると、二人が争っている理由は、部下が上司の奥さんと寝たのが原因のようだ。

部下の男は「奥様が『あなたと関係を持つことは主人も了承済みなの』と言って誘ってきたんだ!」と叫んでいる。

馬鹿かあの男は? 

普通に考えて、部下と妻を共有したがる上司はいない。

どうやら部下の男の頭の中は、お花畑のようだ。

「静かに飲みたいからこの店に来たのに、なんだこの騒ぎは?」

スタン殿下が眉をしかめる。

ここは高級レストランだ。

この店で出されるワイン一本で、僕の一カ月のお小遣いが飛ぶ。

僕も公爵家の養子になってから、少なくない金額のお小遣いをもらっている。

ここの料理は、そんな僕が怯むほどの値段なのだ。

支払いはいつも、スタン殿下がしてくださる。

スタン殿下は、アリシアとの交際費に割り当てられたお金を遣い、時々こうして俺たちにご馳走してくれる。

スタン殿下の話ではお金が足りなくなったら、王宮に「アリシアとの交際費が足りなくなった。追加で支給してくれ」といえば、追加でお小遣いがもらえるそうだ。

スタン殿下がアリシアに贈り物をしているのを見たことがないので、予算のほとんどは王太子とゲレの遊興費に消えているのだろう。

アリシアが死んだから、今後はこんな贅沢はできないかもしれない。

あんなクズみたいな女でも、生きていれば多少は僕たちの役に立っていたんだな。

「こんなに騒がしくてはお祝い気分が台無しだ。ルーウィー席を変えてもらうぞ。お前が店員と交渉しろ」

不機嫌な顔でスタン殿下が言った。

僕もすっかり酔いが覚めてしまった。

「はい。殿下」

僕が席を立とうとしたとき……。

「お客様。お騒がせして申し訳ありませんでした。今すぐ特別室にご案内いたします」

店員の方から声をかけられた。

数回、この店を利用したことがあるが、見たことのない店員だった。

でもすごく美人だ。それにスタイルもいい。

店員に見とれていたら、ゲレに睨まれた。

いけない、思わず鼻の下を伸ばしている場合ではない。

僕にはゲレがいるんだ。よそ見をしてはいけない。

「個室はありがたいが、値段が高いのでは?」

高額な料金を請求されて、翌日実家に金を借りに行く……という醜態は晒したくない。

「お騒がせしたしたお詫びに、本日のお代は無料にさせていただいきます。個室ですから、ゆっくりお食事をお召し上がりいただけますよ」

美人店員が説明した。

無料と聞いて、スタン殿下の目の色が変わる。

食事代が無料になれば、他のことにお金を遣えるからな。スタン殿下が喜ぶのも分かる。

「では、お言葉に甘えるとしよう」

スタン殿下の許可が出たので、店員の後について僕たちは場所を移動した。





個室はレストランから離れた場所にあった。

このレストランに個室があるなんて初めて聞いたが、まぁいいか。

個室に入ると、立派なテーブルの上に豪華な料理と高級シャンパンが用意されていた。

「こちらのお料理とシャンパンは、ご迷惑をおかけしたお詫びです。遠慮なくお召し上がりください」

女性店員はそう言ってにっこりと笑い、部屋を出ていった。

女性店員が出ていったあと、甘い香りだけが微かに残った。

「今の店員、なかなかの美人だったな。ルーウィー、気に入ったのなら今晩抱いたらどうだ?」

王太子殿下がからかうように言った。

ゲレが拗ねた顔で僕を見ている。

ゲレは僕に嫉妬してくれているのかな? 嬉しいな。

「殿下、お戯れが過ぎますよ。それに僕には心に決めた女性がいますから」

そう言ってゲレをまっすぐに見つめるり

安心してゲレ、僕の童貞は君に捧げるからね。

ゲレは僕の言葉を聞いて、安心したようだ。

ゲレはニコニコと笑いながら、殿下のグラスにシャンパンを注いでいるり

それからは、みんなでシャンパンを開けもう一度アリシアを葬ったことに乾杯し、祝杯を上げた。





それから一時間ほどしたころ……グラリと頭が揺れる感覚がした。

飲みすぎたかな?

手に力が入らなくて、持っていたシャンパングラスを落としてしまう。

周りを見れば、他のメンバーもナイフやフォークやグラスを床に落としていた。

なんだ……? みんな飲みすぎたのか?

「ちょっとお手洗いに……」

トイレに立とうとしたが、足がもつれて転んでしまう。

起き上がろうとしたが、体に力が入らない。

手足にしびれを感じる。

視線だけ動かすと、他の皆も椅子から崩れ落ち、床に倒れていた。

毒……? 料理かシャンパンに毒が入っていたのか?!

まさか、店内での乱闘騒ぎは誰かが仕組んだもの?

いけない! スタン殿下と、ゲレを守らなくては……!

だが、体が動かない!

そのとき扉が開き、複数人の男女が入ってきた。

「しびれ薬が聞いたようだね」

声を発した人物に、僕は驚愕した。

「お、お義父様……?」

義父がゴミを見る目で、僕たちを見下ろしていた。

「スタン・ゲート、ゲレ・ベルガー、ジェイ・ヨッフム、カスパー・ラウ、ルーウィー。最後の晩餐を楽しんでいたけたかな?」

義父が冷酷な目で僕たちを睨み、温度のな声でそう言った。


☆☆☆☆☆
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