上 下
16 / 26

16話「バジリスクの毒」番外編2

しおりを挟む


執務室に戻ったわしは、家令と暗殺部隊を呼んだ。

彼らはすぐにわしの部屋に集合した。

敵は王太子スタン・ゲート、男爵令嬢ゲレ・ベルガー、子爵令息ジェイ・ヨッフム、侯爵令息カスパー・ラウ、公爵家養子ルーウィー・フォスターの五人。

ここからは時間との戦いだ。

王太子とその仲間達が家に帰る前に、わしの手で奴らを抹殺する。

奴らは、王命による婚約を一方的に破棄し、公爵家の令嬢に冤罪をかけ、裁判にかけずに殺害し、卒業パーティを台無しにした。

いくら王太子とその側近といえど、厳罰は免れまい。

しかし王は判断が遅い。そして身内に甘い。

側妃と王太子にいいように言いくるめられ、王太子とその一味を軽い処分で済ませるかもしれない。

一番身分が低く、アリシア殺害の実行犯でもあるジェイ・ヨッフムに罪を押し付け、他の四人は逃げる可能性がある。

その場合、死罪になるのはジェイ・ヨッフムのみ。

残りの四人に下される刑罰は、スタンは廃太子され貴族牢に幽閉。カスパー・ラウは侯爵家から除籍。男爵令嬢のゲレは修道院。ルーウィーは養子縁組を解除されホルン子爵家に帰る……その程度だろう。

わしの娘に冤罪をかけ、弁解も許さずに殺しておいて、その程度の罰で済むと思うなよ!!

「家令! ルーウィーとの養子縁組を解消する! 早急に手続きの準備をせよ!」

「かしこまりました。旦那様」

「ついでにホルン子爵家へ行き、バナンを捕えろ。子の不始末の責任は、実の親であるやつにもある」

愚弟との縁を今日限りで切る。

「ルーウィーの奴、養子の分際でつけ上がりおって。やつだけはあっさりと殺さん。死んだほうがマシと言う目に合わせてから、じわじわと殺してやる」

養子の分際で、当主の実子であるアリシアに冤罪をかけ、ただで済むと思うなよ。

「バジリスクの毒を使う。用意せよ」

わしは暗部に命令する。

「承知いたしました」

砂漠に住むバジリスクは猛毒を有している。

その毒は遅効性で、徐々に体が動かなくなり、最後は肉が腐り落ちて死に至る。

バジリスクの毒に効く解毒剤はない。

「親の責めを問うのなら、スタンの親である側妃にも問わなくてはなならんな。

王妃より先に息子を生んだ程度でのことで、息子が王太子になれると信じ込み、幼いころからスタンを洗脳し続けた罪は重い」

側妃が子を生んだ日、男だと分かった瞬間、側妃もスタンも始末しておけばよかったよ。

遅くても王妃がファルケ殿下を生んだ時点で殺しておくべきだった。

「ハッセ子爵家に行き、側妃の父親にバジリスクの毒を使え。すぐに死なないように、ごく少量の毒を注射器を使いハッセ子爵に射て」

わしは暗部の女性隊員に命じた。

「承知いたしました」

バジリスクの毒は、少量ずつ注射すると病にかかったように見える。

側妃はファザコンだ。父親が病にかかったと知れば、実家に飛んで帰るだろう。

父親の看病のために実家に帰った側妃が倒れる。病に侵されたものは王宮に入ることはできない。

それは側妃であっても例外ではない。例外が許されるのは国王と王妃と王太子のみ。

側妃を思い入れのあるハッセ子爵家で、大好きな父親と一緒に死なせてやるのだ、わしは優しいな。

「王太子と側近のいる食堂は分かったか?」

「はい。王都の中心にあるホテルを兼ねた高給レストラン、ケーフィヒです」

鳥かごケーフィヒか、自ら檻の中に入って待っているとは関心なことだ」

「今日はそのレストランで食事をしたあと、ホテルに泊まるようです」

「そうか、では奴らが今日、家に帰らなくても誰も気づかなないのだな」

奴らの親の元にも、奴らが学園で何をしでかしたのか情報は入っているだろう。

各家の人間は、今すぐバカ息子・バカ娘。家に連れ帰り、子供に処罰を与える気概があればよいが。

今頃は子供を切り捨て、家の対面を保つことばかり考えているはずだ。

フォスター公爵家もなめられたものだな。

子供を切り捨て除籍したぐらいで、わしが許すと思っているのか?

ゲレ・ベルガー、ジェイ・ヨッフム、カスパー・ラウ、ルーウィーの実の親にも責任を取らせる。

スタンの親にだけ責任を取らせ、他の奴の親を見逃したのでは不公平だからな。

アリシアが生まれてから十八年。

最愛の娘に嫌われたくなくて、温厚な父親を演じてきたが、それも今日で終わりだ。

地獄の悪魔よりも残忍で、魔女よりも執念深く、龍よりもしぶといと言われた、わしの恐ろしさを思い知らせてやる。

首を洗って待っているがいい。

全員簡単には殺さぬぞ。

自分たちのしでかしたことを、後悔しながら死ぬがいい。

しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

処理中です...