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15話「アリシアの死」 番外編1
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※やり直し前の人生のスタン一味へのざまぁも……という声をいただいたので、加筆しました。番外編としてアップします。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
――フォスター公爵視点――
今日は娘の卒業式。
卒業式の翌日には、王太子の婚約者であるアリシアは、城に住居を移す。
王太子との結婚式は半年後。
だが結婚までに色々とやることがあるらしく、アリシアは明日から城に住むことになっている。
アリシアが城に上がったら、次はいつ公爵家に帰ってこれるか分からない。
今日は家族でゆっくり夕食を食べよう。
料理長にディナーについての指示をだしているとき、
「旦那様! 一大事です!」
娘につけていたメイドが血相を変えて飛び込んできた。
「どうした? 何があった?」
「お嬢様が! アリ……アリシアお嬢様が……!」
メイドはつっかえながら言葉を紡ぐ。
「そ……卒業パーティで殺されました! 王太子殿下とその側近の方々に……! 王太子殿下の側近の中にはルーウィーぼっちゃまもいらっしゃいました!」
「なんだと……!!」
メイドから聞かされた言葉に、わしの目の前は真っ暗になった。
メイドの話によると、王太子とその側近は、卒業パーティでアリシアに婚約破棄を突きつけ、アリシアに冤罪をかけ、裁判にかけることなくその場で斬り殺したらしい。
王太子はその場で、男爵家のゲレ・ベルガーとの婚約を発表したそうだ。
……いかれている。
王太子も側近も男爵令嬢も、全員いかれている。
スタンめ……! 身分の低い側室の生んだガキのくせに思い上がりおって!
誰のおかげで王太子になれたと思っている!
ルーウィーも同じだ! 誰のおかげで学園に通えたと思っている!
わしがホルン子爵家に援助して、ルーウィーを養子にしなければ、ホルン子爵家は破産し、平民に落ちたルーウィーは父親のバナン共々野垂れ死にしている。
「私はアリシアお嬢様のご遺体を、馬車に乗せて公爵家に連れ帰るのがやっとでございました」
メイドが涙ながらに話した。
「そうか、よくやってくれた。一つ聞くが、王太子とその仲間は城にもそれぞれの実家にも帰っていないのだな?」
「はい。王太子殿下と側近の方々は『ここは血なまぐさくなったから、祝杯を上げるにはむかない。宿付きの食堂に行って飲み直そう』とおっしゃり会場を後にされました……」
祝杯だと? わしの娘に冤罪をかけ虫のように殺しておいて、どの口が言う!
気がつけばわしは、眉間にシワを寄せていた。
「ひっ……!」
メイドがわしの顔を見て悲鳴を上げる。
メイドは魔物を見たような顔で怯えていた。
いかん、怯えさせてしまったか。
このメイドはアリシアの遺体を屋敷まで運んでくれたというのに。
「そうか、よく教えてくれた。アリシアの遺体を運んでくれたことにも礼を言う。そなたはもう下がってよい。今日は疲れたであろう? ゆっくり休みなさい」
「はい、旦那様。お気遣いに感謝いたします。失礼いたします」
メイドは一礼してから下がった。
「復讐より、まずはアリシアの遺体を安全な場所に移す方が先だな」
わしは使用人と共に馬車に行き、アリシアの遺体を棺に移し、氷室に運んだ。
この部屋は一年を通して涼しい。遺体の腐敗を少しは防げるはずだ。
アリシアはわしの贈ったオートクチュールの、赤いドレスを着たままだった。
アリシアの体は、左肩から右の脇腹にかけて大きく斬られていた。
スタンの側近の中でこんな芸当ができるのは、ヨッフム子爵家のジェイしかいない。
思い返せば卒業パーティだというのに、スタンからはドレスもアクセサリーも靴も花束も送られて来なかった。
その時点で気づけばよかったのだ。アリシアがスタンに大切にされていないことに。
わしはアリシアが家を出てしまう悲しみで、おかしくなっていて何も気づかなかった。
暗殺部隊を呼び、女性の剣士二人にアリシアを着替えさせるように命じる。
血や死体に免疫がないメイドでは、遺体となったアリシアを着替えさせるのは難しいだろう。
しばらく経ってから氷室を訪れると、アリシアの着替えが終わり、アリシアの遺体は真っ白なワンピースを着せられていた。
剣士二人は、アリシアの血を拭い、真っ白な服を着せたと説明してくれた。
わしは二人に礼を言い、部屋の外で待機するように命じた。
娘と話す時間が欲しかった。
「アリシア、すまなかった。こうなったのは、スタンとルーウィーの愚かさを見抜けなかったわしのせいだ。
今まで良き父親、良き養父、良き義父、良き臣下になろうと努力してきた。
しかし今日で辞めることにするよ。
わしは今から……復讐の鬼になる!」
アリシアが十歳のとき、当時第一王子だったスタンに一目惚れした。
アリシアが「スタン殿下がほしい」と言ったので、スタンをアリシアの婚約者にした。
アリシアが「スタン殿下が王太子になりたがってるの。スタン殿下が王太子になったら、私は王太子妃ね」というので、スタンを王太子にするために力を貸してやった。
没落寸前のバナンとルーウィーが訪ねて来たとき、「アリシアが叔父様とルーウィーが可愛そう」と言うので、ホルン子爵家に融資してやった。
その時点でアリシアがスタンの婚約者になることは、半ば決まっていた。
アリシアを王室に取られる寂しさから、バナンの口車に乗せられ、ルーウィーを養子にしてしまった。
ルーウィーを公爵家の当主とするため、大金を支払い一流の家庭教師をつけて今日まで育ててきた。
だが、どれもこれも無意味だった。いやそれどころかアリシアを窮地に陥れてしまった。
今なら分かる。
アリシアを公爵家の後継者にし、スタンを婿養子にすればよかったのだ。
そうすればあのバカも、もう少し自分の立場をわきまえ、アリシアを大切に扱ったのだろう。
ルーウィーはバナンと一緒に破滅。平民となったルーウィーは、アリシアに話しかけることすら叶わなかった。
全てわしの判断の悪さが招いたこと。
幼かったアリシアは、周囲の人間を助けようとしただけ。
奴らは純粋なアリシアの好意を踏みにじり、恩を仇で返したのだ。
絶対に許さん!
全員、地獄に送ってくれる!
「アリシア。お前の仇はわしが取る。王太子妃教育で疲れただろう。ゆっくりお休み」
わしはアリシアに最後のお別れを言い、氷室を後にした。
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――フォスター公爵視点――
今日は娘の卒業式。
卒業式の翌日には、王太子の婚約者であるアリシアは、城に住居を移す。
王太子との結婚式は半年後。
だが結婚までに色々とやることがあるらしく、アリシアは明日から城に住むことになっている。
アリシアが城に上がったら、次はいつ公爵家に帰ってこれるか分からない。
今日は家族でゆっくり夕食を食べよう。
料理長にディナーについての指示をだしているとき、
「旦那様! 一大事です!」
娘につけていたメイドが血相を変えて飛び込んできた。
「どうした? 何があった?」
「お嬢様が! アリ……アリシアお嬢様が……!」
メイドはつっかえながら言葉を紡ぐ。
「そ……卒業パーティで殺されました! 王太子殿下とその側近の方々に……! 王太子殿下の側近の中にはルーウィーぼっちゃまもいらっしゃいました!」
「なんだと……!!」
メイドから聞かされた言葉に、わしの目の前は真っ暗になった。
メイドの話によると、王太子とその側近は、卒業パーティでアリシアに婚約破棄を突きつけ、アリシアに冤罪をかけ、裁判にかけることなくその場で斬り殺したらしい。
王太子はその場で、男爵家のゲレ・ベルガーとの婚約を発表したそうだ。
……いかれている。
王太子も側近も男爵令嬢も、全員いかれている。
スタンめ……! 身分の低い側室の生んだガキのくせに思い上がりおって!
誰のおかげで王太子になれたと思っている!
ルーウィーも同じだ! 誰のおかげで学園に通えたと思っている!
わしがホルン子爵家に援助して、ルーウィーを養子にしなければ、ホルン子爵家は破産し、平民に落ちたルーウィーは父親のバナン共々野垂れ死にしている。
「私はアリシアお嬢様のご遺体を、馬車に乗せて公爵家に連れ帰るのがやっとでございました」
メイドが涙ながらに話した。
「そうか、よくやってくれた。一つ聞くが、王太子とその仲間は城にもそれぞれの実家にも帰っていないのだな?」
「はい。王太子殿下と側近の方々は『ここは血なまぐさくなったから、祝杯を上げるにはむかない。宿付きの食堂に行って飲み直そう』とおっしゃり会場を後にされました……」
祝杯だと? わしの娘に冤罪をかけ虫のように殺しておいて、どの口が言う!
気がつけばわしは、眉間にシワを寄せていた。
「ひっ……!」
メイドがわしの顔を見て悲鳴を上げる。
メイドは魔物を見たような顔で怯えていた。
いかん、怯えさせてしまったか。
このメイドはアリシアの遺体を屋敷まで運んでくれたというのに。
「そうか、よく教えてくれた。アリシアの遺体を運んでくれたことにも礼を言う。そなたはもう下がってよい。今日は疲れたであろう? ゆっくり休みなさい」
「はい、旦那様。お気遣いに感謝いたします。失礼いたします」
メイドは一礼してから下がった。
「復讐より、まずはアリシアの遺体を安全な場所に移す方が先だな」
わしは使用人と共に馬車に行き、アリシアの遺体を棺に移し、氷室に運んだ。
この部屋は一年を通して涼しい。遺体の腐敗を少しは防げるはずだ。
アリシアはわしの贈ったオートクチュールの、赤いドレスを着たままだった。
アリシアの体は、左肩から右の脇腹にかけて大きく斬られていた。
スタンの側近の中でこんな芸当ができるのは、ヨッフム子爵家のジェイしかいない。
思い返せば卒業パーティだというのに、スタンからはドレスもアクセサリーも靴も花束も送られて来なかった。
その時点で気づけばよかったのだ。アリシアがスタンに大切にされていないことに。
わしはアリシアが家を出てしまう悲しみで、おかしくなっていて何も気づかなかった。
暗殺部隊を呼び、女性の剣士二人にアリシアを着替えさせるように命じる。
血や死体に免疫がないメイドでは、遺体となったアリシアを着替えさせるのは難しいだろう。
しばらく経ってから氷室を訪れると、アリシアの着替えが終わり、アリシアの遺体は真っ白なワンピースを着せられていた。
剣士二人は、アリシアの血を拭い、真っ白な服を着せたと説明してくれた。
わしは二人に礼を言い、部屋の外で待機するように命じた。
娘と話す時間が欲しかった。
「アリシア、すまなかった。こうなったのは、スタンとルーウィーの愚かさを見抜けなかったわしのせいだ。
今まで良き父親、良き養父、良き義父、良き臣下になろうと努力してきた。
しかし今日で辞めることにするよ。
わしは今から……復讐の鬼になる!」
アリシアが十歳のとき、当時第一王子だったスタンに一目惚れした。
アリシアが「スタン殿下がほしい」と言ったので、スタンをアリシアの婚約者にした。
アリシアが「スタン殿下が王太子になりたがってるの。スタン殿下が王太子になったら、私は王太子妃ね」というので、スタンを王太子にするために力を貸してやった。
没落寸前のバナンとルーウィーが訪ねて来たとき、「アリシアが叔父様とルーウィーが可愛そう」と言うので、ホルン子爵家に融資してやった。
その時点でアリシアがスタンの婚約者になることは、半ば決まっていた。
アリシアを王室に取られる寂しさから、バナンの口車に乗せられ、ルーウィーを養子にしてしまった。
ルーウィーを公爵家の当主とするため、大金を支払い一流の家庭教師をつけて今日まで育ててきた。
だが、どれもこれも無意味だった。いやそれどころかアリシアを窮地に陥れてしまった。
今なら分かる。
アリシアを公爵家の後継者にし、スタンを婿養子にすればよかったのだ。
そうすればあのバカも、もう少し自分の立場をわきまえ、アリシアを大切に扱ったのだろう。
ルーウィーはバナンと一緒に破滅。平民となったルーウィーは、アリシアに話しかけることすら叶わなかった。
全てわしの判断の悪さが招いたこと。
幼かったアリシアは、周囲の人間を助けようとしただけ。
奴らは純粋なアリシアの好意を踏みにじり、恩を仇で返したのだ。
絶対に許さん!
全員、地獄に送ってくれる!
「アリシア。お前の仇はわしが取る。王太子妃教育で疲れただろう。ゆっくりお休み」
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