10 / 26
10話「ラウ侯爵家」ざまぁ
しおりを挟む――三か月後――
ある日の夕食時。父と食卓を囲んでいた。
「アリシア、知っているかい? ラウ侯爵家があの金山を買ったそうだよ」
子羊のステーキを呑み込み、父が訪ねてきた。
「やり直し前の人生ではザイドル伯爵家が購入して、石しか出てこなくて破滅したあの金山でございますか? お父様」
私はワインを一口飲んでから答えた。
「そう、あの金山だよアリシア」
「それはラウ侯爵もお気の毒に」
私はナイフで子羊のステーキを切り分けながら、ふっと笑う。
「本当に、誰がそんなものをラウ侯爵家に売りつけたんだろうね?」
お父様はワインを豪快に飲み干して、くすりと笑った。
☆
――一年後――
「アリシア新聞を読んだかい? ラウ侯爵家が破産したそうだよ」
自室でエデル殿下の治療を受けていると、父が新聞を片手に部屋に入ってきました。
「ええ読みましたわ、お父様。借金を返済するために屋敷や土地を売り払い、爵位を返上したそうですね。それでも借金を返しきれず、ラウ侯爵の三親等先の親族まで、強制労働所に送にられたそうですね」
子供のカスパーも強制労働所に送られ、肉体労働をさせられるのですね。
ペンより重いものを持ったことがないカスパーに、強制労働所での仕事が務まるかしら?
ラウ侯爵家は文系だから肉体労働には不向き。強制労働所で何年働けるかしら?
カスパーは美形だから、労働所の看守の慰みものになれるかもしれません。そのほうが長生きできるかもしれませんね。
最も彼らの行為は乱暴だそうですので、何年体が持つか分かりませんが。
「また、悪巧み?」
エデル殿下がヒールを唱えながら小首をかしげる。。
「嫌ですわエデル殿下、私はただ父と世間話をしていただけですよ」
私は「なんのことでしょう?」という顔で扇で口元を覆う。
「そうですよ、エデル殿下。人聞きが悪い。ところで娘の足の具合はどうですかな?」
エデル殿下には、定期的に私の足の火傷を見てもらっている。
エデルが公爵家に滞在して約一年。
その間にエデル殿下を狙った暗殺者が公爵家を襲撃した回数が、十二回。
公爵家は一カ月に一回、暗殺者の対応にあたっています。
エデル殿下には、私の婚約者という肩書きで、王家や貴族からの婚姻の話を断る口実になって頂いております。
ですが暗殺者がエデル殿下を襲う回数がこうも多いと、公爵家にとってエデル殿下の存在はマイナスになります。
なのでエデル殿下には、それなりの働きをしていただかないと。
「あと一年も治療を続ければ、アリシア嬢の足の火傷は完全に治ります。火傷の痕も完全に消せますよ」
「本当ですか殿下! ではこれから毎日アリシアに治療魔法をかけてください!」
父は私の足が治り、私の体から火傷の痕が完全に消えることが嬉しいようだ。
この一年、私は松葉杖と車椅子のお世話になっていた。
「エデル殿下、治療はゆっくりでいいですわよ。歩けないフリをしていれば、お茶会や誕生会の招待状が来ても、断る口実になりますから」
「アリシアそう言わないで、この機会にエデル殿下に治してもらおう」
父は私が治療を拒否するとは思っていなかったようだ。
「あら私の治療を長引かせることは、エデル殿下にとってもメリットがありますのよ。私の火傷の痕が消えるまでは、エデル殿下が公爵家から追い出されることはありませんからね」
エデル殿下だって暗殺者に狙われている身で、放り出されたくはないだろう。
「アリシア嬢のその言い方だと、用済みになった僕は、無一文で公爵家を放り出されそうだね」
暗殺者に狙われているエデル殿下を外に放り出す=死を意味します。
「嫌ですわエデル殿下ったら。私が血も涙もない非道な人間だとお思いですか? 私が消したいのは前世で私をはめた五人だけ。無関係のエデル殿下を寒空の下、下町に放置したりいたしませんわ」
前世からの因縁のある人間のうち四人は消えました。
残る標的はスタン殿下お一人。
「私こう見えて、エデル殿下のことを気に入っていますのよ。用済みになっても屋敷から追い出したりいたしませんわ」
「ならアリシアって呼んでもいい? アリシアも僕のこと呼び捨てにしてほしいな」
「わかりました。エデル」
「ありがとう、アリシア」
この一年でエデル殿下は背がすらっと伸びて、少年の顔から青年の顔になりつつあります。
顔のいい男にはこりごりなので、顔がいいだけの男に惚れる気になりません。
しかしエデル殿下に呼び捨てにされたとき、不覚にもときめいてしまいました。
イケメン好きは殺されても治らないようです。
エデル殿下を頬を染めて見ている私を、父は面白くなさそうな顔で眺めていた。
子離れしてくださいね、お父様。
58
お気に入りに追加
3,319
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる