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2話「タイムリープ・十歳の誕生日」

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気がつけば私は鏡の前に立っていた。鏡には白いドレスを着た幼い少女の姿が映っている。

「アリシアお嬢様、お誕生日おめでとうございます。ドレスも髪飾りもよくお似合いですよ」

幼い頃仕えていたメイドがそう告げた。

私の為に尽くしてくれたメイドだったが、私が十五歳のとき馬車の事故で亡くなっている。

鏡に映る幼い自分、死んだはずのメイド、私……もしかして人生をやり直してる?

これが小説やお芝居でよくあるタイムリープというやつね。

十歳の誕生日か……。

そういえばこの日は、父の弟のホルン子爵が、父にお金を借りに来ていたわね。

叔父の息子でいとこのルーウィーも、パーティに来ていたはず。

ルーウィーの顔の良さと外面の良さに騙され、父がルーウィーを公爵家の養子にしようと決めたのもこの日だった。

ルーウィーは孤児院出身のアバズレに惑わされて、義姉の罪をでっち上げるクズに成長した。

恩を仇で返されるとはまさにこのことね。ルーウィーは、お金をかけて教育する価値のない男だったわ。

そういえば、この頃の私は第一王子のスタン殿下の婚約者候補だったわね。

自分で言うのもなんだが、私は家柄、年齢、教養、マナー、養子、全てにおいて他の婚約者候補より優れていた。

なので第一王子の婚約者は、私でほぼ決まりと言われていた。そして半年後のスタン殿下の誕生日に、私とスタン殿下の婚約が発表された。

スタン殿下が私を婚約者に選んだのは、フォスター公爵家の後ろ盾ほしさだ。

スタン殿下が王太子になれたのも、我が家の後ろ盾があったから。

そうでなければ、側妃の子で顔しか取り柄のないスタン殿下が立太子できるはずがない。

我が家の後ろ盾があったから、王太子になれたというのに……ルーウィー同様、恩を仇で返されたわ。

叔父は「アリシアが第一王子の婚約者になったら、公爵家を継ぐものがいなくなる。息子のルーウィーを公爵家の養子にしてはどうだ」と、父に度々言いにきていた。

そんなもの私が第一王子の婚約者に確定して、第一王子が立太子してから言いなさいよ。

王妃が生んだ優秀な第二王子もいる。今の段階では、立太子できなかったスタン殿下が、公爵家に婿養子に入る可能性だってあったのだ。

叔父はルーウィーを公爵家の養子にすることを条件に、公爵家から金を借りたかっただけだ。

叔父が当主を務めるホルン子爵家は、叔父のギャンブルによる借金が原因で火の車。

叔父はなんとしても、公爵家に借金の肩代わりをさせたかったのだろう。

ルーウィーもクズなら、叔父もクズだ。

せっかく人生をやり直すのだから、彼との縁をバッサリと断ち切ってしまおう。

神様、やり直しのチャンスを与えて下さりありがとうございます!

やり直す前の人生で私をはめた奴らに、報復する機会を与えてくださったことに感謝します。

やり直す前の人生では言い訳すら許されず、冤罪をかけられ、裁判にもかけられず、親に別れの挨拶もできず、獣のように殺された。

二度目の人生は、られる前にってやります!

私を殺した奴らに、かける情けなど持ち合わせていない。

まずは今日パーティに来ている叔父といとこのルーウィーを破滅させましょう。

子爵家の借金を払ってやって、公爵家の養子にしてやって、子爵家では受けられない高い教育を施し、高級な服を着せ、豪華な料理を食べさせてやったのに、ルーウィーの奴は証拠を捏造し、私を窮地に陥れた。

高い金を払って裏切り者を養ってやっていたなんて、時間とお金をドブに捨てたも同然だ。

その時トントントントンと、四回ノックの音がした。

「アリシア、わしの可愛いお姫様。支度は終わったかな?」

お父様が部屋に入ってきた。

「お父様~~!」

私は目に涙を浮かべ父に抱きついた。

父は私に甘い。まずは父を仲間に引き入れよう。

私は父にタイムリープしたことを話した。そしてタイムリープする前に何があったのかも説明した。

父は私をはめた奴らに対して激怒した。

「わしの可愛いアリシアをそんな目に合わせた奴を絶対に許さない! 殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……!」

父からは殺気が溢れていた。

「アリシアお嬢様、おいたわしや!」

レニは私の為に泣いてくれた。

「お父様、私やり直し前に私をはめた奴らに報復したいのです」

「よし、やろう! すぐやろう! 今やろう! 手始めに今日パーティに来ているバナンとルーウィーを殺そう!」

お父様のお怒りはごもっともですが、私の誕生日パーティーで殺人はご遠慮ください。

「お父様、それなんですが私にいい考えがあります」

「考えだと?」

「ええお父様。用意していただきたいものが二つあります。それからお父様とレニには、あることに協力していただきたいのです」

「もちろん協力するよ。アリシア」

「私ももちろん協力いたします。アリシアお嬢様。わたしにできることならなんでもします!」

バナン叔父様、ルーウィー、今から地獄に叩き落としてあげますわ。

今はゆっくりパーティを楽しんでいなさい。人生最後のパーティをね。
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