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6話「小馬鹿にされる」

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「昨日、エアハルト伯爵家の使いの方が家に来たんです。
 使いの方にアーク様と浮気していた証拠を突きつけられました。
 私はただの遊びで食事とその後のちょっとした遊びに付き合っただけだと答えたのですが、パパとママには『婚約者のいる男性と食事に行くなど軽率すぎる!』と叱られてしまいましたわ。
 その後、エアハルト伯爵家の使いの方からアーク様がブルーナ様に婚約を破棄されたことを知らされました」

「私もミア様と同じですわ」

「じゃあお前たちが僕が婚約破棄された噂を流しているのか?」

「その噂を流しているのはヨーゼフ様やマルク様たちですわ」

「あいつら……!」

昨日は家に泊めてくれなかったし、今日は僕が婚約破棄された噂を流すし、全く持って酷い奴らだ!

「今やアーク様が浮気しまくってエアハルト伯爵を怒らせて、ブルーナ様に婚約破棄されて、多額の慰謝料を請求されたことを知らない者はこの学園にはいませんよ」

「貴族社会の情報網は凄いですからね。
 生徒の口から親や親戚に伝わり、アーク様が婚約破棄されたことはあっという間に国中の貴族に知れ渡りますよ。
 それにアーク様が怒らせたのはあのエアハルト伯爵ですから……」

「エアハルト伯爵がなんだ、たかが伯爵だろ?」
 
みんななぜヴェルナー侯爵家の嫡男である僕ではなく、エアハルト伯爵やブルーナの顔色を伺うんだ?

「別に伯爵家なんて恐れることはないだろ?
 君たちにはヴェルナー侯爵家の跡継ぎである僕がついてるんだから」
 
そう言ったら二人は目を見開いてお互いに顔を見合わせていた。

「アーク様、それ本気でおっしゃってますか?」

「エアハルト伯爵家の凄さなら末端の貴族である男爵家の私でも知っていますよ。
 エアハルト伯爵家は国一番のお金持ちですよ。
 伯爵家が運営する商会に睨まれたらこの国で生きていけません」
 
「私たちもこれ以上エアハルト伯爵家に、目をつけられたくないんです。
 エアハルト伯爵家は自国の上位貴族や他国の貴族とのつながりも深いですからね。
 というか、アーク様は昨日までエアハルト伯爵家のブルーナ様と婚約してたんですよね?
 なんでエアハルト伯爵家の凄さを知らないんですか?」
 
二人が小馬鹿にしたように言う。
 
「それに……完璧な淑女であるブルーナ様に婚約破棄されたアーク様になんか、なんの価値もありませんし」
 
「なんだと? それはどういう意味だ?」
 
「そのままの意味ですよ。
 エアハルト伯爵家の令嬢ブルーナ様は座学の成績はいつもトップ、裁縫も、ダンスも得意、立ち姿も歩く姿も座っている姿も花のように優雅で、淑女の鑑と称されている素晴らしいお方」

「そのブルーナ様より、私たちが優遇されるのが楽しかったんです」
 
「優秀なブルーナ様に嫉妬の視線を向けられるのは快感でした。
 しかもブルーナ様のお金でレストラン『バッケン』で美味しいものを食べられて最高でした」

「あらでも、ブルーナ様が私たちに嫉妬の視線を向けたことなんてありましたかしら?」

「そういえば無かったわね。
 ブルーナ様がアーク様や私たちに向ける視線は『無』でしたから」

「そういえばブルーナ様がアーク様に向ける視線には愛情のかけらも感じませんでしたね。
 じゃあアーク様と遊ぶメリットは美味しいご飯を食べられることだけでしたのね」

「アーク様に自慢話を延々と聞かされるのは苦痛でしたけどね」
 
ミアとソフィーの言葉に僕は衝撃を受けた。

二人が僕と遊んでいたのは美味しい食事をただで食べられるからだけなのか?

完璧な淑女であるブルーナに嫉妬の視線を向けられることに、二人は喜びを感じていたといたいうのか?

その上ブルーナは僕を愛情のこもった目で見たことがないと?

馬鹿な! 僕はこの国で一、二を争う美少年だぞ!

「お前たちは……【バッケン】の支払いを裏でブルーナがしていたのを知っていたのか?」
 
「当然ですよ。
 あんな高級店で三人で飲食して、代金が銀貨の二枚や三枚で済むわけないじゃないですか」
 
「貴族なら子供でも分かることですよ」
 
つまり僕は子供より馬鹿だと言いたいのか?!
 
「お前たちは僕が好きじゃなかったのか?」
 
二人は顔を見合わせてクスクスと笑い出した。
 
「まさか、顔だけしか取り柄がない貧乏侯爵のご令息なんかに惚れるわけがないでしょう?」
 
「エアハルト伯爵家に捨てられたアーク様になんてなんの価値もないわ。むしろ不良債権よ」
 
「アーク様の座学の成績は下から数えた方が早いし、剣術や乗馬の成績も今ひとつ。
 それにエアハルト伯爵家に縁を切られたヴェルナー侯爵家の末路は……ねぇ?」

ソフィーは歯切れの悪い言い方をする

「アーク様と結婚するぐらいなら、金持ちの商家に後妻として嫁いだ方がましですわ」

「私はアーク様と結婚するぐらいなら修道院に入りますわ」
 
ミアとソフィーは顔を見合わせてくすくすと笑う。
 
「くそっ!
 僕だって好き好んで男爵家の令嬢なんか相手にするものか!
 あっちにいけ!」
 
「「きゃーー!!」」
 
僕が拳を振り上げると、ミアとソフィーは叫びながら逃げて行った。
 
 
 
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