6 / 10
6話「小馬鹿にされる」
しおりを挟む「昨日、エアハルト伯爵家の使いの方が家に来たんです。
使いの方にアーク様と浮気していた証拠を突きつけられました。
私はただの遊びで食事とその後のちょっとした遊びに付き合っただけだと答えたのですが、パパとママには『婚約者のいる男性と食事に行くなど軽率すぎる!』と叱られてしまいましたわ。
その後、エアハルト伯爵家の使いの方からアーク様がブルーナ様に婚約を破棄されたことを知らされました」
「私もミア様と同じですわ」
「じゃあお前たちが僕が婚約破棄された噂を流しているのか?」
「その噂を流しているのはヨーゼフ様やマルク様たちですわ」
「あいつら……!」
昨日は家に泊めてくれなかったし、今日は僕が婚約破棄された噂を流すし、全く持って酷い奴らだ!
「今やアーク様が浮気しまくってエアハルト伯爵を怒らせて、ブルーナ様に婚約破棄されて、多額の慰謝料を請求されたことを知らない者はこの学園にはいませんよ」
「貴族社会の情報網は凄いですからね。
生徒の口から親や親戚に伝わり、アーク様が婚約破棄されたことはあっという間に国中の貴族に知れ渡りますよ。
それにアーク様が怒らせたのはあのエアハルト伯爵ですから……」
「エアハルト伯爵がなんだ、たかが伯爵だろ?」
みんななぜヴェルナー侯爵家の嫡男である僕ではなく、エアハルト伯爵やブルーナの顔色を伺うんだ?
「別に伯爵家なんて恐れることはないだろ?
君たちにはヴェルナー侯爵家の跡継ぎである僕がついてるんだから」
そう言ったら二人は目を見開いてお互いに顔を見合わせていた。
「アーク様、それ本気でおっしゃってますか?」
「エアハルト伯爵家の凄さなら末端の貴族である男爵家の私でも知っていますよ。
エアハルト伯爵家は国一番のお金持ちですよ。
伯爵家が運営する商会に睨まれたらこの国で生きていけません」
「私たちもこれ以上エアハルト伯爵家に、目をつけられたくないんです。
エアハルト伯爵家は自国の上位貴族や他国の貴族とのつながりも深いですからね。
というか、アーク様は昨日までエアハルト伯爵家のブルーナ様と婚約してたんですよね?
なんでエアハルト伯爵家の凄さを知らないんですか?」
二人が小馬鹿にしたように言う。
「それに……完璧な淑女であるブルーナ様に婚約破棄されたアーク様になんか、なんの価値もありませんし」
「なんだと? それはどういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。
エアハルト伯爵家の令嬢ブルーナ様は座学の成績はいつもトップ、裁縫も、ダンスも得意、立ち姿も歩く姿も座っている姿も花のように優雅で、淑女の鑑と称されている素晴らしいお方」
「そのブルーナ様より、私たちが優遇されるのが楽しかったんです」
「優秀なブルーナ様に嫉妬の視線を向けられるのは快感でした。
しかもブルーナ様のお金でレストラン『バッケン』で美味しいものを食べられて最高でした」
「あらでも、ブルーナ様が私たちに嫉妬の視線を向けたことなんてありましたかしら?」
「そういえば無かったわね。
ブルーナ様がアーク様や私たちに向ける視線は『無』でしたから」
「そういえばブルーナ様がアーク様に向ける視線には愛情のかけらも感じませんでしたね。
じゃあアーク様と遊ぶメリットは美味しいご飯を食べられることだけでしたのね」
「アーク様に自慢話を延々と聞かされるのは苦痛でしたけどね」
ミアとソフィーの言葉に僕は衝撃を受けた。
二人が僕と遊んでいたのは美味しい食事をただで食べられるからだけなのか?
完璧な淑女であるブルーナに嫉妬の視線を向けられることに、二人は喜びを感じていたといたいうのか?
その上ブルーナは僕を愛情のこもった目で見たことがないと?
馬鹿な! 僕はこの国で一、二を争う美少年だぞ!
「お前たちは……【バッケン】の支払いを裏でブルーナがしていたのを知っていたのか?」
「当然ですよ。
あんな高級店で三人で飲食して、代金が銀貨の二枚や三枚で済むわけないじゃないですか」
「貴族なら子供でも分かることですよ」
つまり僕は子供より馬鹿だと言いたいのか?!
「お前たちは僕が好きじゃなかったのか?」
二人は顔を見合わせてクスクスと笑い出した。
「まさか、顔だけしか取り柄がない貧乏侯爵のご令息なんかに惚れるわけがないでしょう?」
「エアハルト伯爵家に捨てられたアーク様になんてなんの価値もないわ。むしろ不良債権よ」
「アーク様の座学の成績は下から数えた方が早いし、剣術や乗馬の成績も今ひとつ。
それにエアハルト伯爵家に縁を切られたヴェルナー侯爵家の末路は……ねぇ?」
ソフィーは歯切れの悪い言い方をする
「アーク様と結婚するぐらいなら、金持ちの商家に後妻として嫁いだ方がましですわ」
「私はアーク様と結婚するぐらいなら修道院に入りますわ」
ミアとソフィーは顔を見合わせてくすくすと笑う。
「くそっ!
僕だって好き好んで男爵家の令嬢なんか相手にするものか!
あっちにいけ!」
「「きゃーー!!」」
僕が拳を振り上げると、ミアとソフィーは叫びながら逃げて行った。
☆☆☆☆☆
25
お気に入りに追加
680
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
(完結)婚約破棄されたのになぜか私のファンクラブが結成されました。なお王子様が私のファンクラブ会長を務められています
しまうま弁当
恋愛
リンゼは婚約相手であるチャールズから突然婚約破棄を伝えられた。チャールズはリンゼが地味で華がないからという無茶苦茶な理由で婚約破棄を一方的に行い、新しい婚約者のセシルと共にゴブリンイカ女と酷い言葉でリンゼを罵るのだった。リンゼは泣く泣く実家へと戻ったのだが、次の日ドルチェス王子をはじめとしたたくさんの人々がリンゼを心配してリンゼの屋敷に駆けつけたのだった。そしてドルチェス王子をはじめとする駆けつけた人々から次々にリンゼへの愛の告白を行われ、ドルチェス王子が会長を務めるリンゼ熱烈ファンクラブが結成されたのだった。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる