1 / 10
1話「7年婚約した幼馴染に婚約破棄された」
しおりを挟む婚約者のエアハルト伯爵家の長女ブルーナが、父親のエアハルト伯爵と弁護士を連れて我が家にやってきた。
ブルーナは茶髪に茶目、地味な色のドレスばかり着ているぱっとしない女だ。
ブルーナとの婚約は、彼女の母親と僕の母親が友人だから結ばれたもので、僕はもともとブルーナとの婚約には乗り気じゃなかった。
応接室に通されたエアハルト伯爵は、書類の束をテーブルの上に置いた。
「アーク・ヴェルナー候爵令息が浮気した証拠七年分です」
エアハルト伯爵がそう言って僕を睨め付けた。
僕とブルーナが婚約したのが十歳のとき、それからずっと僕を監視していたというのか?
陰険な奴らだを
僕は金色の髪にエメラルドグリーンの瞳、神に愛されて造形された美貌を持つ絶世の美少年。
それなのに婚約者は地味な色の服しか着ない、化粧もしない、アクセサリーで自分を飾ったりしない地味な女。
そんな女と婚約していたら浮気もしたくなるさ。
「アーク・ヴェルナー侯爵令息と我が娘ブルーナ・エアハルトとの婚約を破棄させていただく。
理由はアーク・ヴェルナー侯爵令息の数々の不貞行為。
ヴェルナー侯爵令息の不貞が原因での婚約破棄ゆえ、エアハルト伯爵家はヴェルナー侯爵家にそれ相応の慰謝料を請求する。
それから我が家がヴェルナー侯爵家に貸していた金も耳を揃えて返してもらうので覚悟しておくように」
エアハルト伯爵が僕の父を睨みつけ、温度のない声で言い放つ。
「伯爵風情が偉そうに!
ブルーナのような頭でっかちで説教ばかりしてくる可愛げのない女、こっちから願い下げだ!
……ごひっ!」
エアハルト伯爵にたんかを切ったら、父に頭を抑えられ床に額をこすりつけられた。
「痛いですよ!
何するんですか父上!」
「黙れ馬鹿者!
エアハルト伯爵息子にはよく言って聞かせます!
どうか今一度チャンスを!
今エアハルト家に手を引かれては我が家は……!
アークお前も謝罪しろ!」
「ごふっ! がはっ! 痛いっ!
止めてください父上!」
僕は父に頭を捕まれ床に何度も頭を打ち付けられた。
「ヴェルナー侯爵、ご子息を教育するならもっと早くにするべきでしたね。
アークは七年間、娘がどれだけ言っても行いを改めなかった。
しかも婚約者の父親である私にもこの態度だ……今さら再教育したところで、どうにかなるとは思えませんね」
エアハルト伯爵はそう冷たく言い放つと、席を立った。
ブルーナと弁護士も伯爵と同じタイミングで椅子から腰を上げた。
「ああそれから、これからは他人になるので借金の返済が滞ったときはきっちり利息をいただきますからね」
エアハルト伯爵はそう言い残し、娘と弁護士を連れて部屋を出て行った。
「侯爵家の当主である父上がこんなに謝ったのにあの態度!
エアハルト伯爵の思い上がりは目に余る!
父上、あんな奴とはこっちから絶縁してやりましょう」
「黙れ愚か者!
エアハルト伯爵に事業から手を引かれたら我が家は終わりだ!」
父上が拳を握りしめ振り上げる。
「止めてください父上っ!
顔は、顔だけは殴らないでください!」
「うるさい!
この顔だけしか取り柄のない鳥頭の馬鹿息子が!
あれだけブルーナを大事にしろ、浮気をするなと言って聞かせたのに!」
父上が僕の背中をポカポカと叩く。
「痛っ……! やめっ! 叩かないで!」
このままでは僕の美しい顔に傷がついてしまう! 逃げなくては!
「僕のこのパーフェクトな顔さえあれば、公爵家の令嬢だろうが王族様だろうが簡単に縁を結べますよ!
たかが伯爵家の令嬢に婚約を破棄されたぐらいでそんなに怒らないでください!」
「このうつけ者!」
父が顔を真っ赤にし、ついに凶器まで持ち出した。
このままここにいたら父に何をされるかわからない。
「あーーもううるさいなっ!
気晴らしに遊びに行ってきます!」
杖を振り上げた父上を突き飛ばし、僕は部屋を飛び出した。
「待て! アーク!
戻ってこい!」
父が怒鳴っているが無視し、僕は建物を飛び出し馬車がある小屋に向かった。
馬車に乗り込み御者に行きつけのレストラン「バッケン」に行くように指示を出した。
エアハルト伯爵と父に怒られて腹が空いてしまったからな、まずはレストランで腹ごしらえだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
本日から新作小説を4作投稿しています。
「今日から私は好きに生きます! 殿下、美しくなった私を見て婚約破棄したことを後悔しても遅いですよ!」
「幼馴染を敬愛する婚約者様、そんなに幼馴染を優先したいならお好きにどうぞ。ただし私との婚約を解消してからにして下さいね」
「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
→タイトル変更「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
「侯爵令息は婚約破棄されてもアホのままでした」
全作品最終話まで予約投稿済みです。よろしくお願いします。
23
お気に入りに追加
680
あなたにおすすめの小説
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
(完結)婚約破棄されたのになぜか私のファンクラブが結成されました。なお王子様が私のファンクラブ会長を務められています
しまうま弁当
恋愛
リンゼは婚約相手であるチャールズから突然婚約破棄を伝えられた。チャールズはリンゼが地味で華がないからという無茶苦茶な理由で婚約破棄を一方的に行い、新しい婚約者のセシルと共にゴブリンイカ女と酷い言葉でリンゼを罵るのだった。リンゼは泣く泣く実家へと戻ったのだが、次の日ドルチェス王子をはじめとしたたくさんの人々がリンゼを心配してリンゼの屋敷に駆けつけたのだった。そしてドルチェス王子をはじめとする駆けつけた人々から次々にリンゼへの愛の告白を行われ、ドルチェス王子が会長を務めるリンゼ熱烈ファンクラブが結成されたのだった。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる