2 / 5
2話「名探偵、現る?」
しおりを挟む――事故から一カ月後――
私の名前は秋月雷人、二十四歳。「コーポ・ヴィント」二〇三号室の住人だ。
「コーポ・ヴィント」の一階に探偵事務所を構え、私立探偵を営む傍ら朝は牛乳配達と新聞配達。夜はピザのデリバリーとコンビニのアルバイトを掛け持ちし、日々忙しく過ごしている。
今回の依頼人は吉川夫妻。コーポ・ヴィントの二〇一号室に住む中年の夫婦で、車にひかれた少女吉川芽依さんの親御さんだ。
芽依さんは二〇二号室に住む少年、三上蓮くんと仲が良かったそうだ。
交通事故が起きた日、芽依さんと蓮くんは近所の公園でボール遊びをしていたという。
芽依さんの投げたボールが道路まで飛んでいってしまった。
蓮くんは転がったボールを取るために道路に飛び出した。
そのことに気づいた芽依さんが蓮くんを助ける為に道路まで駆けたが、二人とも車にひかれてしまったそうだ。
なぜそれが分かったのかというと、近所の建物に設置された防犯カメラに一部始終が写っていたからだ。
よくある不運な事故だった。
大怪我を負ったはずの芽依さんが事故の現場からこつ然と消え、車にひかれたはずの蓮くんが一キロも離れた公園で無傷で発見された以外は。
「謎は全て解けました」
だが私は、吉川夫妻の話を聞いてピンと来た。
吉川夫妻は目を瞬かせる。
「これは異世界誘拐です」
私の言葉を聞いて吉川夫妻はきょとんとしていた。
「異世界誘拐……ですか?
しかしそれはひと昔前に終わったはずだ」
「残念ながら最近また増えてきているのですよ」
「異世界誘拐というのはあれですよね?
教室ごと生徒が異世界に連れていかれるという。でも芽依がいなくなったのは学校ではなく道路です。
芽依の失踪と異世界誘拐は関係ないと思います」
吉川夫人が私の考えを否定した。
「確かに一昔前はクラスごと人が誘拐されることが多かった」
一昔前に流行った異世界誘拐は通称「クラス転移」と呼ばれている。
その名の通り、ある日突然教室にいた生徒が消えるのだ。
生徒だけではなく、生徒のいた建物の壁や床や天井も一瞬にして消えてしまう。
壁や床を一瞬で消すなど人間には不可能。
故に異世界誘拐は神が行っている説が有力だ。
「ですが最近は単身での誘拐も増えてきているのですよ」
「しかし単身で消える場合、いなくなるのは何年も家に引きこもりしているおじさんだろ?
娘は高校生だ。事故に遭う前は毎日学校に通っていた。
異世界誘拐とは関係ない」
吉川夫君が言った。
「一昔前は仕事をしないで家に引きこもっている成人男性が誘拐されることが多かった。
ですが今は様々な職種の人間が異世界に誘拐されているのですよ。
サラリーマン、OL、自営業、主婦、大学生……もちろん女子校生も例外ではありません」
私の言葉に吉川夫妻は息を呑んだ。
「異世界に誘拐される方法も様々だ。
歩いていたら突然道路に穴が空いてそこに落ちたり、玄関を開けたら異世界だったり、階段から落ちたり、デパートの床に黒い渦が出来て引きずりこまれたり……などなど。
ですが一番多い異世界転移のきっかけはやはり交通事故でしょう」
「じゃあ芽依は……」
「異世界に誘拐された可能性が極めて高いですね」
「そんな、芽依が異世界に誘拐されたなんて……!」
吉川夫人が顔を手で覆った。
「病院で眠っている蓮君が目覚めればもっと詳しいことが分かるでしょう。
それに芽依さんが異世界誘拐されたなら、『女神の掲示板』に芽依さんの物語が掲載されるはずです」
この世界にいる我々に異世界に誘拐された人々のその後を知るすべはない。
ただひとつ「女神の掲示板」を除いては。
「女神の掲示板」は国家ですら削除不可能なサイト。
ネットにアクセスできる環境が整っていれば誰でも無料で利用することできるが、この世界の誰もそのサイトに干渉することはできない。
「女神の掲示板」には神によって異世界に連れ去られた人々のその後が、小説や漫画などの物語形式で不定期に掲載される。
「女神の掲示板」に芽依さんを主役にした物語が掲載されたら、芽依さんが異世界に誘拐されたことが確定する。
1
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
藤壺の女御に転生したので光源氏をフルボッコにする
白雪の雫
ファンタジー
時は桐壺帝の御代。
先帝の皇女として生を受けた幼い女四の宮は前世の記憶を取り戻す。
元女子プロレスラーだったクリムゾン一花(リングネーム。本名は藤沢 愛美)という日本人として生きていた前世を。
「え~っと・・・今の時代の帝は桐壺帝だっけ?で、私は先帝の四女・・・。つー事は私って後の藤壺!?」
桐壺の更衣の代わりとして入内して光源氏と密通。結果、冷泉帝を産んじゃうあの藤壺の女御に生まれ変わっている事に気が付いた愛美は蒼褪める。
マザコンを拗らせて藤壺に対する想いを募らせてしまった光源氏は、彼女の身代わりとなる女性を求めて数多の女性を渡り歩くのだ。
(光源氏のせいで不幸になった人って確か・・・六条の御息所、葵の上、朧月夜。そして何と言っても最大の被害者は紫の上と朱雀帝、弘徽殿大后、女三の宮、柏木、頭中将だよな)
某少女漫画で源氏物語のストーリーを知った愛美こと女四の宮は、自分ひいては彼女達の身に起こる悲劇を回避するべくこれから取るべき行動を考える。
・桐壺帝への入内が避けられないとしたら、光源氏が成人してから入内すればいい
・六条の御息所に光源氏を相手にしないようにと訴える
・物語では紫の上と呼ばれる事になる少女を養女として引き取って将来有望な公達の元に嫁がせる
・光源氏の魔の手から右大臣家の六の君こと朧月夜を守りつつ東宮の女御として入内させる
・六条の御息所の娘である斎宮を朱雀院の女御として入内させる
・朱雀帝と異母妹の娘である女三の宮を不思議ちゃんではなく立派な淑女にする
やるべき事は色々あると思うけど、まずは男から身を護る術を身に付ける事が最優先だ。
だが、平安時代の女性は家に閉じ籠っているのが通常運転である。
どうすれば光源氏に弄ばれる女達を護れるのだろうか?
(そうだ!劉備の奥方となった孫夫人は武芸の誉れが高かったはず。それに神功皇后!!)
彼女達に憧れていると訴えたら母后と女房達も自分が身体を鍛えたり、武術を身に付ける事に対して文句など言わないだろう。
本当は女の敵である光源氏をフルボッコにする為に鍛錬をしていたのだが、孫夫人と神功皇后を前面に出した事により女四の宮の行動は称賛され、やがて都の女性達を強くしていく。
深く考えた話ではないので設定はゆるふわ、源氏物語に出てくる女性達が藤壺に感化されてプロレス技や柔道、空手や某暗殺拳で光源氏を撃退してしまうという実にご都合主義です。
昔読んでいた某少女漫画を最近になってスマホで読んだ事で思い付いた話です。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる