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10話「少女とウィルペアト」最終話
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水平線まで続く海、砂浜を淡い水色のルダンゴドの下に純白のシュミューズ・ドレスを身にまとった黒髪の少女が、パシャパシャと音を立てながら素足でかけていく。
「ウィルペアト様、早く早く、こちらに大きなカニがいるんです」
少女は羽飾りがついたボンネットを抑えながら振り返った。
「今いくよ」
ゆったりとした足取りでウィルペアトが少女のもとに向かう。
少女の周りには火、水、風、土を操る四体の精霊もいた。
かつて竜神と呼ばれたウィルペアトには、今しがたかつて自身が加護を与えていた国がモンスターにより滅ぼされたことが分かった。
だがウィルペアトは目の前にいる少女にそのことを告げる気はなかった。
「シュトース国が滅びたことなんて、あの子が一生知る必要のないことだよ」
ウィルペアトの吐いた言葉は波の音にかき消された。
二人がいるのはシュトース国からいくつも海を越えた大陸、シュトース国が滅びた事実が民のうわさに上ることもない遠い遠い国。
「ウィルペアト様、見てください星型の生き物がいます!」
少女は朱色の星型の体長三センチメートルほどの生き物のはしをつかみ、ウィルペアトに掲げて見せた。
「それはゴカクヒトデだね」
「綺麗ですね」
「そうだね、でも海に返してあげた方がいいかな」
「はーい」
少女はゴカクヒトデをそっと海に返し、ウィルペアトは少女の手に浄化の魔法をかけた。
「毒はないけど念のため」
少女はウィルペアトの過保護さがむず痒くて、くすりと笑った。
「行こうオニキス……そろそろ日が暮れるよ」
ウィルペアトはブルーナに新しい名を与え、ブルーナがかつてシュトース国の聖女であったことを伝えずに一緒に暮らしている。
「もう少しだけ、星空を見てからではいけませんか?」
「夜は冷えるからね」
「お願いします、あと少しだけ」
「仕方がないね、どうしてもというならこれを着て」
ウィルペアトは自身の上着を脱いで、オニキスの肩にかけた。
夕日が水辺線の彼方に消え、月が浜辺にいる二人を照らす。
なんの変哲もない穏やかな日常が過ぎていく。
『心の赴くままに生きても許されるよね、僕はもう神ではないのだから……』
ウィルペアトは無闇に人間の国に干渉し、途中で国を捨て逃げ出し罪を問われ、竜人の国に帰ることを許されなかった。
ウィルペアトはそれでも構わなかった、今この時をオニキスの隣にいられることが幸せだったから。
浜辺に並んで座り星空を眺めながら、ウィルペアトはオニキスと過ごす時が永遠に続くことを願った。
ウィルペアトの願いは魔法となりオニキスの寿命に作用し、二人はこれより五百年の時をともに生きることになる。
――終わり――
最後まで読んでくださりありがとうございます!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2022/03/14に新作を投稿しました!こちらの作品もよろしくお願いします!
「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/38607887 #アルファポリス
婚約破棄された公爵令嬢が、断罪の場で助けてくれた人に溺愛され幸せに暮らす話です。
ざまぁもあります。
「ウィルペアト様、早く早く、こちらに大きなカニがいるんです」
少女は羽飾りがついたボンネットを抑えながら振り返った。
「今いくよ」
ゆったりとした足取りでウィルペアトが少女のもとに向かう。
少女の周りには火、水、風、土を操る四体の精霊もいた。
かつて竜神と呼ばれたウィルペアトには、今しがたかつて自身が加護を与えていた国がモンスターにより滅ぼされたことが分かった。
だがウィルペアトは目の前にいる少女にそのことを告げる気はなかった。
「シュトース国が滅びたことなんて、あの子が一生知る必要のないことだよ」
ウィルペアトの吐いた言葉は波の音にかき消された。
二人がいるのはシュトース国からいくつも海を越えた大陸、シュトース国が滅びた事実が民のうわさに上ることもない遠い遠い国。
「ウィルペアト様、見てください星型の生き物がいます!」
少女は朱色の星型の体長三センチメートルほどの生き物のはしをつかみ、ウィルペアトに掲げて見せた。
「それはゴカクヒトデだね」
「綺麗ですね」
「そうだね、でも海に返してあげた方がいいかな」
「はーい」
少女はゴカクヒトデをそっと海に返し、ウィルペアトは少女の手に浄化の魔法をかけた。
「毒はないけど念のため」
少女はウィルペアトの過保護さがむず痒くて、くすりと笑った。
「行こうオニキス……そろそろ日が暮れるよ」
ウィルペアトはブルーナに新しい名を与え、ブルーナがかつてシュトース国の聖女であったことを伝えずに一緒に暮らしている。
「もう少しだけ、星空を見てからではいけませんか?」
「夜は冷えるからね」
「お願いします、あと少しだけ」
「仕方がないね、どうしてもというならこれを着て」
ウィルペアトは自身の上着を脱いで、オニキスの肩にかけた。
夕日が水辺線の彼方に消え、月が浜辺にいる二人を照らす。
なんの変哲もない穏やかな日常が過ぎていく。
『心の赴くままに生きても許されるよね、僕はもう神ではないのだから……』
ウィルペアトは無闇に人間の国に干渉し、途中で国を捨て逃げ出し罪を問われ、竜人の国に帰ることを許されなかった。
ウィルペアトはそれでも構わなかった、今この時をオニキスの隣にいられることが幸せだったから。
浜辺に並んで座り星空を眺めながら、ウィルペアトはオニキスと過ごす時が永遠に続くことを願った。
ウィルペアトの願いは魔法となりオニキスの寿命に作用し、二人はこれより五百年の時をともに生きることになる。
――終わり――
最後まで読んでくださりありがとうございます!
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2022/03/14に新作を投稿しました!こちらの作品もよろしくお願いします!
「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/38607887 #アルファポリス
婚約破棄された公爵令嬢が、断罪の場で助けてくれた人に溺愛され幸せに暮らす話です。
ざまぁもあります。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(46件)
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まきくん様
感想&誤字報告ありがとうございます。
怖いという感想を他の方からも頂いたので、一気読みすると若干怖い話なのかもしれません(^_^;)
「洗いざらしたシーツ」の意味を教えて下さりありがとうございます。修整しました。
seika様
感想ありがとうございます!(*^^*)
乙ありです!楽しく読んで頂けて嬉しいです(*´艸`*)
竜神ウィルペアトは不器用でお人好しだったんですね、怠け者の民とは相性が悪かったんだと思います。(^_^;)
「誰ぞ」も間違いではなかったのですね、勉強になります(^^)
次回作の執筆頑張ります!\(^o^)/
蘭丸様
感想ありがとうございます!(^^)
乙ありてす!(*´艸`*)
話を膨らませるのが苦手でして……あっさりと終わらせてしまいました(^_^;)前作でざまぁ後に主役二人のいちゃいちゃを書いたら、他サイトの感想欄で【蛇足】と言われたので、今回はあっさりと終わらせてみました(;´∀`)
竜神ウィルペアトとブルーナ(オニキス)のその後は読者のご想像にお任せします(*^^*)