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7話「言霊と記憶」
しおりを挟むそれから一週間経過しても、ブルーナは目を覚まさなかった。
竜神ウィルペアトは一日に一度魔法でブルーナの体を清め、ブルーナの身にまとっている衣服や、使用しているシーツを新品のものにかえた。
ブルーナは眠ったままだったが、時折うわ言を漏らすことがあった。
「民……民のために……祈りを、捧げな…くては」ブルーナはうわ言でも民を気遣っていた。
「こんな目に合わされても、民を慈しむ心を忘れないなんて、君の心根は清らかで思いやりに満ち溢れ美しいのだね」
竜神ウィルペアトはブルーナの汚れなき心に惹かれていた。
「君が目を覚ましても民に会わせたくないよ、君はあんな目に遭っても人々に乞われれば、また彼らのために祈りを捧げてしまいそうだから。民に祈られる対象の僕が、シュトース国の民に守るべき価値を見いだせなくなっているというのにね」
竜神ウィルペアトはシュトース国の民に、ブルーナが祈りを捧げるだけの価値があるとは思えなかった。
「今は民のことを忘れ、ゆっくりお休み」
竜神ウィルペアトは眠っているブルーナの髪を優しくなでた。
「…………いっそのこと、眠っている間に何もかも忘れてしまえばいいのに、つらいことも、苦しいことも、傷つけられたことも全て君の記憶から消えてしまえばいいのに」
竜神ウィルペアトが発した言葉は、言霊となり数カ月後、現象としてあらわれることになる。
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三カ月後、目を覚ましたブルーナは何もかも忘れていた。
「あの、ここは……? 私はいったい……
あなたは誰ですか?」
竜神ウィルペアトは自身が何気なく発した言葉が、呪文として効果を発揮し、ブルーナから記憶を奪ったことを知った。
「そうだね、まずは何から話そうか……」
竜神ウィルペアトはブルーナの髪をなで、穏やかにほほ笑んだ。
竜神ウィルペアトはブルーナに、自身の名を告げ、倒れていたブルーナを助けたとだけ告げた。
「君がどこの誰か分からないし、名前も知らない」
「そうですか……見ず知らずの方に助けていただいてなんとお礼を言ったらよいのか」
「気にしないで、ところで僕は今から旅に出るんだけど、よかったら君も一緒にどう?」
「えっ…?」
ブルーナは恩人の唐突な言葉に虚をつかれた。
そして自身のいる、ベッド以外に何もない真っ白な空間を見回し、背筋が寒くなった。
『こんな何もない空間に取り残されたくない!』
「あのご一緒してもよろしいのでしょうか?」
ブルーナは差し出された竜神ウィルペアトの手を取った。
「もちろん」
竜神ウィルペアトは人の良さそうな笑みを浮かべ、転移の魔法を唱えた。
竜神ウィルペアトがシュトース国を離れた瞬間、シュトース国を覆っていた結界の役目を果たしていた壁が崩壊し、人々の信仰の象徴であった竜神ウィルペアトの像やモニュメントやレリーフなどは、大きさの大小に関わらず全て崩れ落ちた。
そしてそれはシュトース国の地獄の始まりであった。
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