【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ

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5話「ブルーナを取り巻いていた環境」

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王太子の結婚式から三日が過ぎた。

結界の役目を果たしていた国境の壁が崩壊し、国外のモンスターが国内に侵入、王国にもともといたモンスターの凶暴化。

国内の井戸や川の水位が下がり、畑の作物は枯れ、食料を備蓄していた倉庫がモンスターの襲撃を受け、各地で食料や医療品が不足。

モンスターと戦う魔術師や剣士の弱体化。

炎魔術師は小さな火の玉しか出せなくなり、水魔術師は水鉄砲並の威力の水魔法しか使えなくなり、風魔術師はそよ風しか起こせなくなった。

剣士は長剣が重くてまともに振ることができず、やむを得ず食堂のナイフで戦っている。その上普段の十倍以上疲れやすく、すぐに息が上がってしまう。

伝書鳩によってもたらせる各地の被害報告に国王な苦慮していた。

「どうしてこうなった……?」

国王は眉間を押さえ深く息を吐いた。

だが国王にはどうしてこうなったのか心当たりがあった。

全ては三カ月前のブルーナの断罪劇から始まった。

いや根っこはもっと深い、国王が王太子時代に当時の聖女エッダとの婚約を一方的に破棄したとき、あの時からこの国の崩壊の序曲は始まっていたのだ。

それゆえ国王はカーラを【竜の愛し子】に仕立て上げた王妃も、ブルーナとの婚約を破棄し公の場でブルーナを断罪した王太子も、偽物の【竜の愛し子】であるカーラも、責めることができなかった。

国王は各地の被害状況の調査とは別に、ブルーナについても調べていた。

王妃とノルデン公爵夫人と偽物の【竜の愛し子】であるカーラが、本物の【竜の愛し子】であるブルーナに何をしてきたのか。なぜブルーナが本物の【竜の愛し子】だと、竜神ウィルペアトに告げられるまで誰も気づかなかったのかを。

「ノルデン公爵夫人は、前妻の子ブルーナ様が聖女に選ばれ、実子のカーラ様が聖女に選ばれなかったことに激しい怒りを覚え、友人である王妃殿下にブルーナ様の悪口を吹き込んでいたようです。

ブルーナ様の容姿が先々代の聖女エッダ様に似ているのが気に入らなかった王妃殿下は、ノルデン公爵夫人と一緒になってブルーナ様を虐待しておりました」

やはりなと思い国王は顔をしかめた。教会に推薦されてもブルーナを王太子の婚約者に指名するべきではなかっと、国王は深く後悔していた。

「王太子殿下とカーラ様は、ブルーナ様が王太子妃教育に明け暮れている間に仲を深めたようです。

カーラ様の背に偽物の竜の模様を施すはかりごとの首謀者は、王妃殿下とノルデン公爵夫人でした。

カーラ様は王太子妃の座と聖女の地位が欲しさに、お二人のたくらみに協力したようです。

王太子殿下だけはカーラ様の背に現れた竜の模様が偽物だとは知らなかったようです」

「なぜブルーナの背に竜の模様があることに誰も気が付かなかったのだ?」

「それはブルーナ様には侍女がついておらず、湯浴みを一人でしていたためでしょう。

自分の背中は自分では見られませんから、ブルーナ様もご自分が【竜の愛し子】であることに気づいていなかったと思われます」

「そうかブルーナには侍女すらついていなかったのだな……」

国王はブルーナのことを思い出していた。

ブルーナはいつも悲しげな顔をしていた、だがブルーナは着るものやアクセサリーには困っているように見えなかったので、国王はブルーナがそこまで酷い扱いを受けているとは思っていなかった。

「北の牢獄ろうごくにブルーナはいたか?」

「いえおりませんでした、ブルーナ様が一度は入った形跡はあったのですが……」

「詳しく話してみよ」

「牢番は確かに最下層の一番奥の牢屋にブルーナ様を入れ、外から鍵をかけたそうです。

王妃殿下からブルーナ様には水も食料も与えるなと命じられていたので、牢番はブルーナ様を牢獄ろうごくに入れてから三カ月間、一度もブルーナ様を閉じ込めた牢を見にいかなかったそうです。

私が王命を持って北の牢獄ろうごくに行き、急いでブルーナ様を閉じ込めていたという牢屋を調べたのですが、そこはもぬけの殻でした。

外からきちんと鍵はかかっているのに、中に入れたはずのブルーナ様だけが消えていました」

「消えただと?」

「はい、牢屋にはホコリがたまっており、ブルーナ様が身につけていたものと思われる血のついたヴァトー・プリーツの切れ端だけが落ちていました」

「牢番は間違いなくブルーナを牢屋にいれたのだな?」

「はい鍵を三つかけ、鍵は牢番が首にかけ肌見放さず持っていたそうなので、牢番はブルーナ様が牢屋から逃げ出せるはずがないと申しておりました。

ブルーナ様が牢屋にいたことは間違いなく、北の牢獄ろうごくの監視は誰もブルーナ様を牢屋から出していないので、ブルーナ様は牢屋に入れられたあと、忽然こつぜんと姿を消したとしか思えません」

忽然こつぜんと姿を消したか……神ならばそのようなこともいとも容易くやってのけるのかもしれぬな」

「陛下?」

「いや何でもない、もう下がってよい」

「はっ!」

報告を終えきびすを返し部屋を出ていく配下を見送り、国王は深く息を吐いた。

「せめてブルーナを城から出す前に湯浴みをさせ着替えさせていれば……ブルーナの背に竜の模様があることに気づけたであろうに」

ブルーナが夜会で身につけていたドレスはローブ・ア・ラ・フランセーズ。

ローブ・ア・ラ・フランセーズは胸元は開いているが、背中は開いていない。

ドレスの上にヴァトー・プリーツを羽織っていたので絶対に背中は見えない。

「しかし……ドレスは一人では着れぬはず、ブルーナの着付けは誰がしていたのだ? 本当にブルーナには侍女が一人もついていなかったのか? もし侍女がついていたとして、その者はなぜブルーナの背に竜の模様があることを国に報告しなかった?」

国王は先ほど帰したばかりの配下を呼び戻し、ブルーナについて今一度調べさせることにした。



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