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2話「先々代の聖女から続く因果」
しおりを挟む八年前、先々代の聖女エッダ・ノルデンが亡くなった。
彼女は歴代の聖女の中でもとりわけ高い魔力を持ち、神秘的な黒い髪と瞳を持つ容姿端麗な女性だった。
エッダが亡くなった一カ月後、次の聖女を選ぶ儀式が行われた。
魔力の高い未婚の女性が神殿に集められた。
その中でもひときわ魔力が高かったのがエッダの親戚にあたる二人の娘、亡き正妻の娘ブルーナ・ノルデンと、後妻の娘カーラ・ノルデンだった。
ブルーナの方が多少魔力が高く、なりよりエッダと同じ黒髪と黒い瞳の持ち主だったため、民からの信仰を得やすいだろうという教会側の思惑から、姉のブルーナが聖女に選ばれた。
そして時を置かずブルーナは王太子の婚約者となった。
面白くないのはブルーナの腹違いの妹のカーラだ、ほんのわずかな魔力の差で聖女の地位と王太子の婚約者の座を姉に奪われたのだから。
カーラの母親であるノルデン公爵夫人は、王妃と中が良かった。ノルデン公爵夫人は王妃の元におもむきブルーナの悪口を吹き込んだ。
その悪口のほとんどはノルデン公爵夫人の作り話だったが、ブルーナの容姿を毛嫌いしていた王妃はノルデン公爵夫人の話を利用しようと考えた。
王妃にとってことの真偽などどうでもよかった、むしろブルーナが悪女であったほうが都合が良かったのだ。
王妃がブルーナを嫌う理由、それは王妃の学生時代にさかのぼる。
十九年前、先々代の聖女エッダは現国王(当時王太子)の婚約者だった。エーデル候爵家の令嬢だった王妃が王太子を寝取ったのだ。
婚約者を奪われたエッダは、独身を貫き、生涯神に仕えることを誓った。
王妃はエッダにそっくりのブルーナが新しい聖女に決まり、息子の婚約者になったことを快く思っていなかった。
ブルーナを見るたびにエッダを思い出し、「王妃の座につくのはお前ではない」とエッダに責められているような気分になるからだ。
カーラもエッダの親戚だが、カーラは母方の血を強く受け継いでいるため、エッダにはまったく似ていなかった。
エッダは黒髪黒眼だったが、カーラの髪と瞳の色は桃色。
そのため王妃は、カーラを王太子の婚約者にしようとするノルデン公爵夫人の計画に賛同した。
王妃はノルデン公爵夫人と共謀しブルーナを聖女の地位から引きずり下ろし、王太子との婚約を破棄する方法を考えた。
二人は王太子妃教育を厳しくすれば、ブルーナは王太子妃の座を諦めるだろうと企てた」
王妃は王宮に王太子妃教育に上がったブルーナに厳しい家庭教師をつけ、誰もが音を上げる過酷な教育を施した。
さらにブルーナを王妃のお茶会に呼び、細かいことを注意し真綿で首を絞めるようにチクチクと攻撃した。
それでもブルーナは弱音一つ吐かず、王太子妃の教育に耐えた。
王妃とノルデン公爵夫人は次に、ブルーナにパーティーに身に着けていくドレスやアクセサリーを与えず、ブルーナ恥をかかせ、ブルーナは王太子妃としてふさわしくないと各方面に訴えようと画策した。
王妃とノルデン公爵夫人はブルーナに聖女を辞めさせる方法も考えた。二人はブルーナが教会にお祈りに向かうときの馬車を、公爵家でも王家でも出さなければよいという結論に達した。
聖女の教会での祈りは毎朝三時に行われる、そのためブルーナは家を二時半には出なければならない。
二時半といえば夜明け前、真っ暗な街を少女が一人で歩いて教会に行けるわけがない。王妃とノルデン公爵夫人は馬車を出さなければ、ブルーナは教会に行くのをあきらめるしかない、と踏んでいた。
聖女の務めを果たさなければ、ブルーナは教会からの信用を落とす、そうなれば聖女を辞めざるを得ない。
だがブルーナは二頭立ての立派な馬車に乗り、教会の祈りにも、王太子妃の教育にも送れずに現れた。
王家主催のお茶会やパーティーには、真新しいドレスを身にまとい、高価なアクセサリーを身に着けて参加した。
王妃とノルデン公爵夫人は、計画がうまくいかないことに腹をたて、教会がブルーナに馬車やドレスを用意しているのだろうと推測した。
教会はブルーナを象徴にして金儲けをしているのだから、そのぐらいの面倒を見るだろうと。
王妃は見方を変え、ブルーナを聖女の地位から引きずり下ろすのではなく、カーラを聖女として認めさせる方法はないか考えた。それがのちに偽物の【竜の愛し子】を仕立て上げる計画につながっていく。
一方王太子は、カラスのように真っ黒な髪のブルーナを初めて会ったときから気味悪く思っていた。
王太子は王妃にぞんざいに扱われるブルーナを見て、ブルーナはいじめてもいい対象だと認識し、ブルーナにつらく当たった。
王太子はノルデン公爵夫人に連れられ王妃のお茶会に参加していた、桃色の髪の愛らしい少女カーラに心惹かれていく。
ブルーナが厳しい王太子妃教育に耐えている最中、王太子とカーラは愛を深めていった。
王宮では王妃と王太子に邪険にされ、家では継母や使用人にそしられ、ブルーナの心は徐々にすり減っていった。
それでもブルーナはけなげに王太子の婚約者の務めも、聖女の務めも果たしていた。
王宮や貴族の茶会で王妃やノルデン公爵夫人がブルーナの悪口を広めるので、ブルーナの評価は貴族の間では下がり続け、ブルーナは徐々に貴族の社会で孤立していった。
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