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3章 夏と教会
第43話 南東区勢力戦争 2
しおりを挟むもうちょっと状況を確認できる位置に移動しようと、俺はせっかく上った屋根の上から飛び降りた。
路地の半ばに着地すると、内心で「何事も雰囲気だけでは上手くいかないもんだ」と反省。
足音を立てず、そろそろと静かに移動して――包囲されている薔薇の館に視線を向ける。
入口の奥、エントランスと思われる場所には四人の魔法使いが展開していた。
その後ろにいて激を飛ばすように指示するのがバーベナだ。
まぁ、彼女は「早く撃て!」とか「早く殺して!」などと、具体性のない指示を飛ばしているだけなのだが。
「アロッゾの方は彼女を殺したくないのか」
殺したくないどころか、傷もつけたくないのだろう。
アロッゾ側の魔法使いはシールドを張ってひたすら耐えるだけで反撃する気配もない。
……ここから初級魔法でもぶっ放したらどうなるんだろう?
俺が放ったとバレた瞬間、両陣営と戦うはめになっちまうかな?
全員ぶっ飛ばすのは楽でいいが、その間にバーベナが逃走しそうだ。
「もうちょっと見守ってみるか」
そう決めた瞬間、事態が動いた。
バーベナの背後に動く影が見えたのだ。
ゆっくり静かに動く姿を見る限り、アロッゾ側の人間だろう。
恐らく裏口が完全に制圧されたか、あるいは他の侵入経路を確保したか。
とにかく、娼館の中に侵入した一人が背後からバーベナを狙っている。
武器を持たぬ手をゆっくり広げて、狂乱するように怒声を上げるバーベナを後ろから――捕まえた!
「確保!」
「いや、いやああ! 離してッ!!」
捕まえられても尚バタバタと暴れるバーベナだが、屈強な男には敵わない。
「あ、貴方達! 何をボサッと見ているの!?」
バーベナのために戦っていた魔法使い達だが、雇い主が確保されたことで勝敗を確信したのだろう。
これ以上無駄な抵抗をすれば自分の身が危ないと案じてか、両手を挙げて降参のポーズを見せた。
「は、薄情者! 貴方達を雇うのにどれだけの苦労と金を――!」
早々に降参した魔法使い達に怨嗟の声を浴びせるバーベナだが、数秒もすれば黙ってしまう。
娼館を囲む男達を掻き分けながら、長身の男が入口の前に立ったからだ。
「手間を掛けさせやがって。バーベナ、お前の負けだ」
黒スーツに剃り込みの入った坊主頭、明らかに「王都の裏を仕切ってます」と言わんばかりの見た目。
あれがアロッゾだろう。
敵の親玉が現れるも、捕まったバーベナは一言も喋らない。
代わりに男達を射殺さんばかりの眼力で睨みつける。
「そう睨むな。殺さなかっただけ有難いと思え」
そう言ったアロッゾはフッと笑う。
「……私をどうする気? あんたの奴隷になるなんてお断りよ。それなら大人しく魔物の餌になるわ」
「勘違いするな。俺はお前に興味はない。あるのは、この土地と建物だけだ」
おや? 建物と土地だけ?
アロッゾは貴族との繋がりが欲しかったんじゃないのか?
貴族と太いパイプを持つバーベナを取り込み、自身の勢力圏を拡大する切っ掛けにしたかったんじゃないのか?
どういうことだろう? と首を傾げていると、横からちょんちょんと腕を突かれた。
「ダ、ダンナ」
ピーグだ。
仮面をつけているのにどうしてバレ……いや、こいつは俺の服装知ってるからバレバレか。
「ダ、ダンナは、あ、あの二人を、ど、どうしたいの?」
「ん? 二人っていうか、バーベナだな。できればバーベナには死んで退場してもらいたいんだが……」
これからどうしようかな。
目論見に反してアロッゾはバーベナを殺さないっぽいし。
他人にバーベナを排除してもらう俺の計画は失敗か。
やはり自身の手で排除せなばならないか。
次の計画を頭の中で組み立てていると――
「お、お、恩をか、か、返す」
「は?」
そう言ったピーグは、ボロの中から錆びた小さなナイフを取り出した。
「おい――」
おいおい、まさかと思った瞬間だった。
錆びたナイフを握ったピーグが走り出したのだ。
いつものヒタヒタと歩く様子からは想像もできないほど早く、娼館を囲む男達の隙間をスルスルと抜けて行く。まるで地面を走るネズミのような動きだった。
「イイイイッ!!」
浮浪者から獰猛なドブネズミと化したピーグはあっという間にアロッゾを追い抜き、両手を挙げた魔法使いの間をすり抜け、捕まっているバーベナへ向かって飛んだ。
「え?」
バーベナの口から気の抜けた声が漏れるが、次の瞬間には錆びたナイフが彼女の胸に突き刺さっていた。
恩を返す、と言ったピーグは俺に向かって振り返る。
彼の顔にはとても良い笑顔が浮かんでいて――一拍遅れて彼の顔にアロッゾの足が突き刺さる。
「テメェッ!!」
側頭部を蹴飛ばされたピーグは物凄い勢いで俺の視界から消えた。
続けてアロッゾの怒声が響き渡り、彼の「死なせるな!」という声が連続して響く。
一気に現場は騒がしくなり、深夜とは思えないほどハチャメチャだ。
この状況に対し、正直言うと俺の心臓はドキドキと跳ねていた。
バーベナが刺されたことよりも、刺したピーグの方が心配だったからだ。
蹴られたピーグは死んでいないだろうか? どうしてあんなことをしたのだろうか?
恩を返すって言っても、そんなやり方ないだろう?
「……チッ」
舌打ちを鳴らした瞬間、既視感のある感覚が俺を襲う。
一瞬だけキーンという耳鳴りが発生した後、世界の時間が止まった。
「……ははぁん。なるほどね」
恐らく、バーベナが死んだのだろう。
だからお怒りなのだ。
「他人を利用してもダメってわけか」
俺が舌打ちを鳴らすと同時に黒い羽が舞い散る。
そして、娼館の屋根に戦乙女が降臨した。
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