女神殺しの悪役貴族 ~死亡フラグを殴って折るタイプの転生者、自分と推しキャラの運命を変えて真のハッピーエンドを目指す~

とうもろこし

文字の大きさ
上 下
29 / 50
2章 学園パートの始まり

第28話 課外授業 3

しおりを挟む

 時が止まり、そして空から落ちてきたと思われる黒い戦乙女。

 両目を黒い布で覆い隠しているものの、布越しに物凄い威圧を押し付けてくる。

 ……いや、この場合は殺気と言った方がいいかもしれない。

異常事態バグを検知。対象を排除します」

 そう呟いた戦乙女は、握っていた槍を構える。

「ば、バグ? バグってなんだ――」

 状況を上手く理解できない俺の口からは、自然と困惑の言葉が漏れる。

 しかし、相手は答えてくれなかった。

 代わりに見せたのは、瞬間移動に似た超スピード。

 一瞬で俺の目の前まで移動した戦乙女は、脇に引き絞った槍を俺目掛けて――殺す気満々の一撃を放つ!

「うおわあああああ!?」

 放たれた槍に対し、限界まで背を仰け反らせて回避した。

 額にチリッとした感触と自慢の前髪が数本ほど宙を舞ったがね。

 しかし、この時ほど「鍛えていてよかった」と思ったことはない。

 幼少期の頃から毎日トレーニングを積んでおいて良かった。シオンのスピードに目と体を慣らしておいてよかった、と心底思った。

「は、話を!」

 態勢を戻すと、戦乙女の二発目が飛んでくる。

 今度は横に飛びながら回避し、すぐさま懐に向かって飛び込んだ。

「聞かせろッて、のッ!!」

 理不尽すぎる襲撃への怒りを拳に乗せる。

 自分でも絶好の間合い、絶好のタイミング、それらを活かした一撃を叩き込む。

「…………」

 だが、槍で防御された。

 革のガントレット越しに拳がジンと痺れる。

 槍はこの世の物とは思えないほど硬く、そして返答も返ってこなかった。

「チッ!!」

 俺の反撃を防御した戦乙女はすぐさま攻撃の姿勢を見せ、再び怒涛の連続攻撃が始まった。

「おっ、とっ、ゲェ!?」

 こっちが隙を見せれば、その隙を縫って殺しに来るのだ。

 なんとか反応してギリギリで躱すも、二の腕に槍先が掠って制服とシャツが破けた。

 しかし、避けた先を読むかの如く戦乙女の攻撃は続く。

 槍を左右にステップしながら避け続けるが――

「ウッ!?」

 咄嗟に右腕を大きく上げると、脇腹の真横を槍先が通り抜けた。

 今のは本当にギリギリ。

 服の脇腹が裂けたのは勿論、肉も掠って血が出てしまった。

「…………」

 怒涛の手数と超スピードな動きを続けているにも関わらず、相手は息が切れる様子も見えない。

 対し、こっちは一瞬でも選択を間違えればあの世行き。

 スリリングな戦いだ。

 未だ殺されていない自分を褒めてやりたいね。

「まぁ、死ぬつもりはないんだが、なッ!!」

 当然だ。

 俺はリリたんと出会ったのだから。

 リリたんと爽やかでフルーティーでふわふわな学園青春ファンタジーを過ごしているのだから。

 死ねるはずがない。

 リリたんと結婚して幸せな家庭を築き、娘二人と息子一人の子宝を誕生させるまでは。

 あとはたくさんの孫に囲まれながら、リリたんの膝の上で死にてえ!!

「だからよッ!! 悪いが、お引き取り願うぜッ!」

 渾身の一撃を槍に叩き込む。

 ガツンと受け止められ、そこから戦乙女と攻守交替。

 向こうの蹴りを回避した直後、脇に溜めた槍が突き出される――が。

「目が慣れてきたッ!!」

 突き出された槍に左拳の甲を当て、僅かに槍の軌道を逸らす。
 
 左拳の革ガントレットが擦れ、ジリジリジリと嫌な音を立てながらスライドしていく。

 だが、入った!

 相手の間合いに潜り込んで――

「ふんぬっ!!」

 利き足で力強い一歩を踏みしめながら、セクシーなくびれボディに一撃!

 強烈なボディーブローを腹に叩き込み、同時に衝撃波による一撃を見舞う。

 拳には確実な手応えが伝わってきた。

 殺しちゃいないが、重い一撃を叩き込めた。確実に相手へダメージを与えられたという実感がある。

 その証拠に、初めて相手が後ろへ大きく下がったのだ。

「…………」

 相手は痛がる素振りを見せない。

 腹の肉が抉れてんのにね。

 しかし、傷口の様子がどうもおかしい。

「……青い血?」

 抉れた腹から流れる血の色が青いのだ。

 天使の羽を生やした戦乙女様は確実に人間とは違う、生物的にも決定的な違いのある『何か』なのが窺える。

 ……まぁ、相手が生き物なのかどうかは置いといて。

 まず気にしなきゃいけないのは、俺を「バグ」と呼んだことについてだ。

 バグと呼ぶ理由は何となく察することができる。

 この世界は愛するゲームと同じ世界、あるいは酷似した世界である。

 ゲームには始まりがあり、過程があって、エンディングを迎えるものだ。

 その過程で製作者の意図しない現象が起きること、それをバグと呼ぶ。

 それを同じだと考えれば、この世界には『歩むべき歴史』があるのではないだろうか?

 つまり、ゲームのエンディングと同じく『勇者が魔王を倒す』という歴史だ。

 正しい歴史をプレイヤーに見せる、正史ルートのエンディングってやつだ。

 それと同じ歴史を歩むことを、この世界を創造した『女神』が予め運命付けているのではないか?

 ……俺にはそれをぶち壊した自覚がある。

 課外授業イベントでリアムが勇者の力を覚醒させる前に、フラグとなる魔物を全て殺してしまったから。

 つまり、製作者の意図しない行動をとってしまった。

 女神のシナリオを捻じ曲げてしまった。

 だから、女神様が怒って戦乙女を差し向けた。

 俺をバグと見做し、排除しようとした――という推測が一つ。

「だが……」

 この推測が正解だとしたら、一つ不可解なことがある。

 それはこれまで歩んできた俺の人生だ。

 俺という『レオン・ハーゲット』は悪役として死ぬ運命だった。

 幼少期に故郷がオークに襲撃され、親父が死に、母親は狂気の教育ママになってしまう。

 現状ほどキラキラした生活は送れず、暗くてネチっこい悪役人生を歩むはずだった人間だ。

 しかし、今の俺はそうじゃない。

 正しく悪役としての人生を歩んでいない。

 これは女神様のシナリオに反していないのか? って疑問だ。

 いや、まぁ、レオン・ハーゲットの人生なんざ世界の歴史全体に比べたら砂粒くらい小さく、影響を与えないと思うよ。

 勇者が勇者として覚醒しない方がずっと重いと思うが、本来悪役である人間が勇者と仲良しこよしすることも「バグ」と呼んでいいんじゃないか?

 こっちに関しても、戦乙女様を差し向けるべき状況なんじゃないの?

「なぁ、どうしてだよ?」

 答えは返ってこない。

 まぁ、今回やらかしたことで、遂に女神様の目をつけられちまったとも言えるが……。

「まぁ、いいさ」

 俺はニヤリと笑う。

「怒れる女神だろうが何だろうが、俺の幸せ人生計画を邪魔するやつはぶっ飛ばすだけだ」

 悪いが、俺は死なないよ。

 死亡フラグは全部殴り折って、リリたんと添い遂げるんだからな。

 だから、今俺が持つ全てをぶつけさせてもらうぜ。

「ああ、愛しのリリたん!」

 俺はギリギリで槍を回避して、戦乙女の顎にアッパーを叩き込む。

 直後、側面に飛んで蹴りを回避。

 戦乙女が履く黒パンティをチラ見しながら脇腹にワン・ツー! またまた横に飛んで、今度は後頭部にハイキック!

 完全に相手の攻撃を見切った俺は、吹っ飛ぶ戦乙女の尻を観察する余裕まである。

 さすがは女神様が造形せし戦乙女だ。ナイスバディ。尻も良い形である。

「だが、愛嬌が足りない。リリたんのようなワンコスマイルを見せないお前に価値はない」

 全体的に黒色ってのも気に入らねえ。

 戦乙女と言えば白。清楚で純血乙女をイメージした白がメインカラーであるべきじゃないのか?

 黒なのは懲罰部隊的な感じ? 

「なんか冷徹で冷酷な感じがしてイヤッ!!」

 振り返った戦乙女の顔面に膝蹴りを叩き込み、着地した直後に腹へ衝撃波付きの一撃をぶち込む。

 まだまだ続くぜ。

 腹の肉は脆いって分かってるからな。

 俺は徹底的に腹を狙い続ける。

 相手に攻撃の隙を与えないほど、怒涛のラッシュを続けていった。

「ふぅ、ふぅ、これで、どうだッ!!」

 最後は力を振り絞って、全力全開魔力も盛り盛りな高威力衝撃波付きの一撃を腹に叩き込んだ。

 あー! しんど!

 もう無理! もうキツい! さすがに疲れたし、魔力も枯れそう!

 ただ、己の限界に挑戦した甲斐もあったようだ。

 徹底的に狙いまくった戦乙女の腹はボロボロのズグズグになっており、もはや人の肉体とは思えないほどの状態になっていた。

 映像だったらモザイクが必要なレベル。

 う"ー! って顔を逸らしたくなる感じ。

 こうなってはさすがの戦乙女様も堪えたようで、槍を杖のようにしながら辛うじて立っていた。

「……深刻なダメージを検知。肉体の損傷率が八十パーセントを超えました」

 そうでしょう、そうでしょう。

 それにしても君、機械みたいな話し方するね? まるでシステムが搭載された人形みたい。

 ファンタジー系の物語にも稀に登場するオートマトン? 機械人形的な? それに近い要素を感じる。

 ただ、この推測は正しかったのかもしれない。

 深刻なダメージを負ったという戦乙女は、自らの体に自身の手を突き刺したのだ。

「ゲェー!?」

 超絶グロシーンの直後、体内から取り出したるは虹色に光る宝石。

 魔石に似た光る物体を自身の体から抜き取って、それを空に掲げたのだ。

「……リ・テイクの申請を開始」

 ぶつぶつと呟くと、空に掲げる虹色の宝石が強く光りだす。

 眩しすぎて手で光を遮らないといけないほど強く。

「おいおい、何をする気だ!?」
 
 どう考えてもヤバそうな状況だが、止めるには遅すぎたようだ。

「承認を確認。実行――」

 戦乙女が虹色の宝石を握り潰すと、世界から光が消えた。


 ◇ ◇


 ――! ――君!

「レオ君!」

「ハッ!?」

 世界から光が消えた直後、気付くと俺は濡れた皿を握っていた。

「レオ君、大丈夫?」

 隣には心配そうに俺を見つめるリリたんの姿があって……。

「あ、え?」

 キョロキョロと周囲を見回し、自分の状況を確認すると――時間が戻っている?

 槍が掠って破れた服も元通りになっているし、体に出来た擦り傷や切り傷も無い。

 完全完璧パーフェクトボディ。

 しかも、腹の中にはたらふく食った食事の満足感もあるし、少し遅れて脳みそが『リリたんの料理最高だった!』という幸福感まで発し始めるのである。

 ……リリたんの作った夕食を食った直後、彼女と二人で使用した皿を洗っていた時まで時間が戻っているのか?

「どうしたの? 急に黙っちゃったけど……」

「あ、いや、なんでも……」

 なんだ? 何が起きた? どうして時間が戻ったんだ?

 戦乙女が最後に見せた行動は、時間を巻き戻すための儀式か何かだったのか?

 だとしたら……。

 この時間まで時間が巻き戻ったということは、再び勇者の覚醒をやり直すつもりか? 

「……もしかして、私の料理が合わなかったとか?」

「え!? 違う、違う!」

 リリたんから悲しそうな声が聞こえてきた瞬間、俺は思考の海から緊急脱出した。

 拭きかけの皿を置き、リリたんの肩に手を置く。

「美味かった! 毎日食べたいってのは本当!! 毎朝、毎晩、リリのエプロン姿が見たい!!」

「あ、あっ、う、うん……。あ、ありがとう……」

 あまりにも熱を込めて言ったせいか、リリたんの顔がみるみる赤くなっていく。

「みんなの前で熱い告白とはやりますわね」

 俺達のやり取りを見たマリア嬢がクスクスと笑う。

「ぼ、僕だって作れるよ!? これからたくさん練習するよ!?」

 何故かシャルが張り合ってくる。

 ――いつも通りだ。

 確実に時間が巻き戻っている。

 ということは、ここから講師達から眠る前の注意事項を聞いているタイミングで~?

『ま、魔物だぁー!』

 ほらぁ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...