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1章 死亡フラグへの第一歩

第7話 十二歳

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 ブラウンウルフとの戦いから一年。俺は遂に十二歳になった。

 あの戦いから俺はどうなったのかというと――

「レオン! 行ったぞ!」

「うん!」

 今、俺は親父と共に魔物狩りを行っている。

 親父の脇をすり抜けてきたブラウンウルフに狙いを定め、魔法陣を貼り付けた蹴りを横っ腹にぶち込む。

 クリーンヒットしたブラウンウルフは吹っ飛び、大きな木に衝突して絶命した。

 ――ボロボロになって屋敷へ運び込まれて以降、俺は親父から「一人で山へ入るくらいなら俺について来い!」と言われ、親父の魔物狩りを手伝うようになった。

 まぁ、意識が戻ったあとは母様とシオンに大泣きされたけどね。

 泣きながら怒られて、無茶しないでと抱きしめられたのは随分と効いた。

 ガキらしく勝手にやってしまおうと考えた自分を後悔するくらい。

 ただ、こうして堂々と魔物狩りの経験を積めるようになったので結果オーライとしておこう。

「よし、今日は帰るか!」

「分かった」

 親父が剣を納めたところで、俺は初級土魔法を駆使して穴を掘り始めた。

 魔物の死体を埋める穴を掘っている間、親父はナイフで魔物の体内から魔石を回収。

 ブラウンウルフ以外の魔物なら肉や毛皮も回収して帰るのだけど、ブラウンウルフは生息数が多いせいもあって街には毛皮の数が溢れかえっている。

 溢れかえっているとはいえ、毛皮を街に持ち帰るのは狩人の仕事だ。彼らの稼ぎを邪魔するわけにもいかない。

 肉も他の魔物と比べて硬いので不人気だしね。

 よって、魔石だけ回収して残りは埋めることとなる。

「お前も魔物狩りに慣れてきたな。動きに無駄が無くなってきた」

「そうかな?」

 親父に褒められると、ガラにもなく照れてしまう。

 正直、親父――アンドリュー・ハーゲットという存在を舐めていた。

 この人は確かに強い。

 ブラウンウルフやワイルドボアなんぞ、複数体を相手にしても口笛混じりに余裕で勝てる男だ。

 持ち前の剛腕で大剣を鋭く振るい、素早いブラウンウルフでさえも捉えて一刀両断。

 直線的な動きしか見せないワイルドボアなどもっと簡単に首を落としてしまう。

 傭兵団の団長として仲間から信頼されるのも頷けるし、母様が惚れるのも無理はない。

 頼りになる強い男の象徴みたいな人だ。

「よし、帰ろう」

「うん」

 魔石を抜いた死体を穴に入れ、最後は土を被せて終了。

 俺は親父と肩を並べながら屋敷へ帰った。

 帰宅してからは親父と一緒に成果自慢だ。

 俺が何頭倒したとか、何を倒したとか。狩りの様子を母様とシオンに報告する時間。

 最初は母様もシオンもハラハラしながら聞いていたけど、さすがに一年も経てば落ち着いて話を聞いてくれるようになった。

「レオ、無茶しちゃだめよ? 父様の言うことをちゃんと聞いてね?」

 ただまぁ、母様の心配性は変わらない。

 いや、これが母親というやつなのだろう。

「しかし、さすがは坊ちゃんです。最近では私も手に負えなくなりそうでハラハラしていますからね」

 相変わらずトレーニングの相手をしてくれるシオンだが、最近は彼女も俺の強さを認めつつある。

「このまま強い細マッチョ男児となって下さい」

 俺のシャツに手を突っ込んで腹筋を触るのは相変わらずだけど。

 というか、両親の前でやらないで。恥ずかしさを感じる歳になってきたから。

 さて、成果自慢が終わったあとは自室で魔法の研究となるのが一日のルーティーンなのだが――

「……オークはいつ襲って来るんだ?」

 十二歳になった今年、オークの群れが襲って来るのは確定しているはず。

 ただ、ゲーム内でも「〇月〇日に襲来した」という詳細は語られていない。

 現在は春真っただ中であるが、今年の夏かもしれないし冬かもしれないのだ。

 覚悟はしているものの情報が足りず、曖昧になっているのが非常にもどかしい。

「しかし……。群れって言っても何体くらい現れるんだろう?」

 ここで魔物についておさらいしておく。

 この世に生息している「魔物」の定義は、人類と意思疎通が出来ない種であることがほとんどだ。

 前世の世界と違って、世界中に生息する動物達もほとんど魔物化しており、ほぼ全ての種類が人類に敵意を向ける。

 同時に人型であっても、人類と意思疎通ができずに敵意を向けてくる種は魔物と判断されている。

 強さに関してだが、動物型の魔物よりも人型の魔物――ゴブリン、オーク、オーガなどの有名な人型魔物の方が遥かに強い。

 人型種はどれも繁殖力が高く、知性もあるため群れという組織を形成して活動していることもあるが、単純に力が人類よりも優れている。

 ブラウンウルフやワイルドボアを鼻歌交じりに倒す親父でさえ、オークを相手にして相打ちになったのだ。

 ……これに関しては、恐らくオークの数が多かったからと思いたいが。

 何にせよ、オークは動物型の魔物よりも遥かに強い存在であることを自分自身に強調しておきたい。

 じゃないと、絶対に俺が殺される。

「……まだゲームの本編が始まってもいないんだよな」

 少し話が戻るが、ハーゲット領襲撃に関する出来事は『勇者が魔王を倒しに行く』という物語の本題が始まる前に起きた事件だ。

 謂わば、今はゲーム本編開始前の前日譚にあたる。

 魔王討伐に関わるシナリオが本格的に始まるのは勇者が学園に入学してから。

 在学中に勇者の力に目覚め、女神が作った光の剣を抜いてからが本番だ。

 現在の世の中では『魔王』と『魔王軍』なんて存在は発見されていないし、認知されていないという状況。

 魔王の存在がほのめかされるのは、やはり勇者が光の剣を抜いて以降だ。

 ただ、ゲームの中盤あたりで「ハーゲット領を襲ったオークの群れは、魔王による指示だったのではないか?」と議論されるのである。

 議論されるだけで明確にはならないし、夏の祭典で限定販売された制作会社公式の設定資料を読んでも真相は語られていないので謎のままであるが。

「もう魔王って誕生してるのかな?」

 本当に魔王による指示の元、オーク達はハーゲット領を襲うのだろうか?

「魔王軍って大半が人型魔物で組織化されてるしなぁ」

 魔王軍の構成はほとんど人型魔物で組織化されており、そこに凶悪な魔物――キメラやグリフォンといった大型の魔物が混じって構成されている。

 人類は魔王軍の侵略に耐えつつも、勇者を支援しながら魔王の元へ送り込むという流れだ。

 勇者は旅の道中で様々な人と触れ合い、助け合いながら魔王を倒す。

 そして、プレイヤーが選んだヒロインとのエンディングへと至るわけだが。

「……俺も生き残ればリリたんと甘い結婚生活を送れるかな?」

 あま~いイチャラブ生活を想像するも、鏡に映った自分の顔が想像以上にキモくて一瞬で正気に戻ってしまった。

「何にせよ、体は万全な状態にしておこう。トレーニングと魔物狩りの経験もギリギリまで積まないと」

 脳裏には家族や街の人達の顔が浮かぶ。

 この四年間、大切だと思える人達の数は日に日に増えている。

 全員を守るためにも、足掻くことは止めない。止めてはいけない。

「よし、走りに行くか!」

 決意を新たにしたせいか、俺の中には焦りと不安が渦巻く。

 それを払拭するためにも体を動かすことにした。

「母様! 外を走ってくる!」

「え!? またぁ!?」

 呆れる母様に手を振りながら、俺は屋敷を出て駆け出した。

 ――それから二か月後、遂に狩人の一人から「オークを見た」と報告がもたらされた。

 俺にとって、死亡フラグへの第一歩。

 覆さねばならない運命の時がやってくる。
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