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本編

116 淑女式焼豚パーティー

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 魔法少女マキを殺害したリーズレット。彼女が地上制圧にむけて最大の障害を取り除いた事でリリィガーデン王国軍の勢いも増していく。

 混乱したマギアクラフト隊を追い込み、魔導兵器を全て破壊すると残り僅かとなったマギアクラフト兵を鎮圧していった。

「地下に何があるのか答えてもらおうか?」

「我々を捕らえたところで意味はないッ!」

 捕らえた士官とその部下を並ばせて、地下施設の詳細を問うマチルダ。

 しかし、銃口を突きつけられていてもマギアクラフトの士官は口を割らなかった。

「そうか。悪いが、時間が無いのでな」

 そう言ったマチルダは握っていたハンドガンのトリガーを容赦なく引いた。

 発射された弾は士官の額を貫いて命を奪う。

 彼女の姿はどこかの淑女を彷彿とさせるような……。長く共に戦ってきたことで随分とマチルダも染まってきたようだ。

 ただ、効果は十分だった。目の前で士官が殺される様子を強制的に見せられた者達はマチルダが本気であり、容赦のない人物であると理解しただろう。

「地下には何がある?」

「……我々の拠点がある。研究所もだ」

 今度は下っ端の兵士に銃口を向けて問うマチルダ。先ほどの射殺する様子を見ていたからか、銃口を向けられた者は随分と口が軽くなった。

「下にマギアクラフトの指導者はいるのか?」

「……全員ではないが」

「拠点への入り口は他にあるか?」

「隣の山にもエレベーターがある。だが、既に封鎖された」

 隣の山には兵器搬出用ではなく、人が地下へと向かう為の小さなエレベーターが洞窟内にあるようだが既に閉鎖されているようだ。

 なるほど、と言うように無言で頷いたマチルダはすぐ傍にいたリーズレットを見た。

 彼女は数時間ぶりにサリィが淹れたお茶を楽しんでいたが、マチルダの視線に気付くとニコリと笑う。

「どうせ下っ端に聞いても全ては得られませんわ。下に引き籠った者達に聞きましょう」

 リーズレットは逃げ出す為の出入り口であるエレベーターを封鎖した事に違和感を覚えるが、その事を下っ端に問うても答えは得られまい。

 封鎖されてしまっている以上、王国軍は昇降機を使って地下へ向かうしかない。

 封鎖したのは王国軍を下へ引き込んで殲滅するためだろうか。

「承知しました。では、この者達は処分致しますか?」
 
 まるでゴミを捨てるかの如く、とても自然な口調で問うマチルダ。

 彼女のセリフを聞いたマギアクラフト兵達の肩がビクリと跳ねた。

「いいえ。まだ利用価値がございましてよ」

 リーズレットが首を振るとマチルダは向けていた銃口を逸らし、ハンドガンを腰のホルスターへしまう。

 ホッと安堵するマギアクラフト兵を他所に、リーズレットは用意された折り畳みテーブルの上へ2つの弾丸を置いた。

「コスモス。貴女もいらっしゃい?」

「はい。マム」

 昇降機を調べていたコスモスを呼び、マチルダとコスモスを傍に立たせると、テーブルの上に2つの弾丸と残り1発が装填された対物ライフルを置いた。

「それはAMBですわ。使うタイミングは任せます」

 正式採用されたIL-10の使用弾薬規格に合わせて製造された2発のAMBをコスモスに。

 対物ライフルはマチルダへと託す。

「ハッ。かしこまりました」

「ありがとうございます」

 2人は託された意味を悟り、敬礼しながら礼を言う。

 本当ならばもっと製造してブライアンやグリーンチームにも渡したかったが時間が足りない。

 AMBの受け渡しが完了した直後、周囲を探っていたブライアン率いるブラックチームとグリーンチームが帰還する。

「マム。お時間を頂き、ありがとうございました」

 先頭にいたブライアンは真剣な顔を浮かべて敬礼してはいるものの雰囲気が重い。

「いいえ。それで、目的の人物は見つかりまして?」

「いえ……。どうやら逃げられたようです」

 ブライアンが探していたのはジェイコブであった。マギアクラフトに所属する傭兵の1人であり、過去にブライアンの部下を殺した男。

 今度こそ仇を討とうとしたが、ジェイコブは戦況が不利と判断すると真っ先に戦線離脱したようであった。

 捕らえたマギアクラフト兵から得た目撃情報によると、魔法少女が負けた直後には姿が見えなかったようだ。

「随分と鼻が利く豚ですわね」

 長年、傭兵として生き残ってきた者故の嗅覚はリーズレットも感心してしまう。

 彼を臆病と捉えるか、それとも利口とするか判断に迷うところではあるが。

「ブライアン。まずは敵の組織を壊滅させてからだ」

 悔しさを滲ませるブライアンに一言告げたのはマチルダだった。まずは目の前にある敵拠点の攻略をしてから、という判断にブライアンは首を縦に振った。

「承知しています」

 当然ながらブライアンは私怨と任務、どちらが優先すべきかはしっかりと理解している。

「突入の準備は完了していますが、どうしますか?」

 地下へと続く昇降機の操作は情報部が把握した。

 ただ、地下への突入で使用できる兵器は昇降機の大きさからして魔導車が限界だろうか。

 さすがにサリィの機動戦車を昇降機に乗せてのパワープレイは難しい。

 その為、サリィは機動戦車と共に地上に残る防衛チームと一緒に待機となった。

 怪我をしたラムダも同様に治療を受けながら待機だ。本人は不服そうであったが、仕方がない。

「下では大量の敵が待ち構えていますよね」

 コスモスの予想は当たっているだろう。恐らくは昇降機の扉前で銃口を構えながら待ち構えているはずだ。

「そうですわねぇ……」

 どうしましょうか、と頬に指を当てながら可愛らしく悩むリーズレット。

 使える物は無いかと周囲に目を向けて、顔の動きが止まったのは捕虜となったマギアクラフト兵を見た瞬間だった。

 ニコリと笑った彼女の様子から察するに、良いアイディアを思いついたようだ。

「捕虜にした豚共をさっそく使いましょう」

 笑いながらそう言ったリーズレットを見るマギアクラフト兵達の背中に悪寒が走った。  


-----


「敵が降りて来るぞ! 全員、武器を構えろ!」

 マギアクラフトの地下拠点にある昇降機の前には100人以上の黒いアーマーを着用したマギアクラフト兵が魔法銃を構えていた。

 彼等は地下施設にあるハンガーに陣取り、上から降りて来る昇降機の下降状況を表す数字の描かれたパネルを注視しつつ……。

 光っていた『1』の数字が『B3』に変わったのを確認すると、一斉に扉を睨みつけた。

 昇降機のシャッターには大穴が開いていて、中には人影が見えた。

 だが、その人影はどうやら黒いアーマーを着ているようだ。つまり、自分達と同じ格好をしている。

 味方が降りてきた? と一瞬油断した待ち伏せ部隊。だが、半壊したシャッターが詰まって半分しか開かない状態になりつつも、中にいたのは味方だけじゃないと認識する。

「むううう!!」

「んんんん!!!」

 口に何かを詰められ、両手を背中で縛られた仲間達とその後ろに陣取るのは赤いドレスを着た女性とその仲間達。

 昇降機にいた捕虜達は背中側から蹴飛ばされ、待ち構えていた仲間達へと突き飛ばされる。

 彼等の距離が縮まった瞬間、昇降機の中にいたリーズレットがニコリと笑う。

「ごきげんよう~!」

 手にはペン型の装置を持っていて、彼女の親指はボタンの上に置かれていた。

 待ち伏せ部隊はリーズレットを撃とうとするが、反応が遅れてしまっていた事で彼女がボタンを押すのを阻止できず。

 BOOOM!!

 突き飛ばされた5人のマギアクラフト兵捕虜は口に詰められていたグレネードが爆発。

 リーズレットお手製のファッキンボムが爆発すると、待ち伏せ部隊は爆発の余波を喰らって態勢を崩した。

「お出迎え、ご苦労様でしてよ~!」

 すると、リーズレットは背負っていた火炎放射器の噴射器を持って待ち伏せ部隊へと炎を浴びせた。

 彼女は半開きになったシャッターから飛び出して、待ち伏せ部隊の先頭にいた者達を焼き殺す。  

「あああああ!!」

「たす、助け!?」

 一瞬で阿鼻叫喚の地獄となった地下施設のハンガー。リーズレットの後に続き、王国軍が続々と飛び出すと銃でマギアクラフト兵を射殺していった。

「おーっほっほっほ! やっぱり敵拠点の内部制圧は火炎放射器に限りますわねェ~!」

 シュゴー! と炎を撃ち出しながらどんどん人を燃やしてパーティータイムを盛り上げるリーズレット。

 ハンガーの中にマギアクラフト兵の悲鳴と「おーっほっほっほ」と笑う淑女の声が入り混じり、まさに地獄のような有様となっていた。

 すると、誰かが警報装置を押したのか地下施設内にブザーが鳴り響いた。

 ハンガーを制圧したリーズレット達が次のフロアへと続くドアへ向かう。

 近寄ると自動で開いたドアの先には狭い廊下があり、廊下の先からはハンガーへ向かって来るマギアクラフト兵が見える。

 相手もリーズレットの姿を認識したのか、廊下の途中で止まると魔法銃を構えた。

 しかし、これは悪手である。

 なんたってリーズレットが握っているのは火炎放射器だ。狭い道で立ち止まっては……。

「ホッホゥー! ファッキューベイビー! ハッハー!」

「ぎゃあああああ!?」
 
 先頭にいたマギアクラフト兵の体は炎に包まれ、後続の兵士達が悲鳴を上げる。

 火達磨になった兵士は廊下の真ん中でパニックになって、もう助からないというのに体の炎を消そうとするような動きを見せた。

「ファッキュー!」
 
 リーズレットは火達磨になった憐れな焼き豚を蹴飛ばして、後続にいた兵士達に向けて火炎放射器を放つ。

 後続の1人が炎に飲まれると混乱と恐怖に満ちた兵士達の悲鳴が響く。その悲鳴を聞いたリーズレットの顔には満面の笑みが浮かんだ。

「おーほっほっほっほ! どいつもこいつもマットレスにシミを作っているようなフニャチン野郎ばかりですわね!」

 廊下には炎が散り、床には燃え盛る敵兵達の死体が散乱する中で地獄を創り出す創造主の笑い声が響く。

「ほらほらァ! 地下に引き籠る豚共に私が春の温かさをお伝えに参りましたわよ! 感謝して下さいましィー?」

 徐々に後方へと退いていくマギアクラフト兵達を追い詰めるようにリーズレットは軽い足取りで前進を続ける。

「扉をロックしろ!!」

 次のフロアへ退避したマギアクラフト兵は急いで扉を閉めて、開けられないようにロックする。

 しかし、春の精霊となったリーズレットは炎を噴射して扉そのものを溶かして敵へと迫る。

「無駄ですわ! 無駄でしてよ!」

 扉の正面で魔法銃を構えていた者は炎を避けようと更に後退。しかし、彼等の本命は扉の両脇に控えていた者達だ。

 扉を通過する瞬間、リーズレットを撃とう待ち構えていたが……リーズレットは溶けた扉の隙間にグレネードを投げ込むと少し後ろに下がった。

 ワンバンウンドしたグレネードは即座に爆発し、扉が吹っ飛ぶと同時に両脇に控えていた兵士も吹き飛ぶ。

 吹っ飛んだ扉は丁度、リーズレットの足元に転がると彼女は何事も無かったかのように再び前進を開始した。

「ハッ! 所詮は私を恐れた臆病共が作った兵士! 懐に入ってしまえばこの程度ですわッ!」

 淑女は臆病共が作り上げた組織を罵倒しながら、高笑いを上げて突き進む。

 その笑い声はどんどんと奥へと向かって行き……やがてこの階層を制圧すると更に下へと声が続いていくのであった。
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