婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~

とうもろこし

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本編

71 制圧完了

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 リーズレット達は街の南側にあった軍施設と船着き場を順調に制圧していった。

 船着き場はリリィガーデン王国にあるようなしっかりとした港ではなく、木材やコンクリートを使用して簡単な係留場が造られただけであった。

 それ故に制圧は非常に簡単で監視小屋のような建物の中にいた軍人を囲むだけで終了してしまう。

 小屋の中で体を丸めて震えていた軍人は2人。年齢も若く、まだ10代後半か20代前半の新人兵士であった。恐らく、施設を攻撃されていると知ってはいたものの恐怖で動けなかったのだろう。

 街の南側にある施設を全て制圧するとリリィガーデン軍は北側へ向かう。

 街全体の造りは中央区画に巨大な市場があり、その東西に住居区画といった造りになっている。広さとしてはリリィガーデン王国首都と同程度だろうか。

 攻撃される軍施設を目撃、もしくは戦闘音を聞いた住居区の一般人が起こした行動は2通り。

 貴重品を纏めて逃げ出す者、もしくは家の中でガタガタと震えながら嵐が去るのを待つ者。

 ラディア人もそうであったように、街が戦場となって巻き込まれた人間が起こす行動は大体がこのパターンだが、ここへ来る前に1つ街を堕とした事もあってすぐに街から脱出した者達が多いようだ。

 前回攻撃した街から逃げて来た住人に事情を聞いた者が多かった、もしくは噂になっていたのかもしれない。どちらにせよ、リーズレット達にとっては都合が良い。

 リリィガーデン軍は一旦住人達を無視し、まずは街の北側へ逃げた軍人達の始末から始めた。

 夜の闇の中で、しかも市街地での銃撃戦は非常に難しい。敵の足音や声に集中して相手の位置を探ろうにも限界はある。

 しかしながら、リリィガーデン軍には偵察用のドローンと街の上空を旋回するイーグルによる索敵が用意されている。

 ドローンのカメラによる暗視・熱源探知。イーグルが上空から照らすライト。

 それらによって街の中に潜んだ共和国軍は炙り出され、連絡を受けた部隊が速やかに鎮圧。

 何度か激しい戦闘はあったものの、リリィガーデン王国軍に死者は無し。更に敵を北側へと追い込んだ。

 街の中央にある市場を越えた北側には工場地帯があった。工場はマギアクラフトから開発レシピを買い取った魔獣を操る為の首輪を生産する製造ラインがほとんど。

 この街で異種族の孤島からドラゴンを輸入し、首輪を生産して自国と他国に出荷しているようだ。

「二小隊で西から追い込みなさい! 残りは私と共に!」

 コスモスを先頭に工場地帯に逃げ込んだ軍人を更に囲い込む。施設から逃れた残り僅かな共和国兵のほとんどが工場地帯で殺害され、一部の士官は早々に街を脱出したようだ。

 これで街にいた軍人は排除したも同然。街の北側入り口を制圧したコスモス達は奇襲に備えつつも、後方部隊へと制圧完了の連絡を送った。

「焼き払え!」

 北側入り口の制圧を終え、遂に街を完全制圧したリリィガーデン軍はマチルダの指示で工場地帯全てに火を放つ。

 火を点けられら工場はゴウゴウと音を立てながら燃え、巨大な火柱が朝日が昇り始めた空へと背を伸ばす。 

 工場の中にあった魔石炉に引火すると大爆発を起こし、遠くからでも街で何があったかという事を示しただろう。

 これで首輪の生産拠点を潰せた事になるが……。

「どうやらまだ首輪の生産拠点はあるようですね。東側にも工場地帯があるそうです」

 手早く尋問を終えた情報部の男が愛用のナイフに付着した血を布で拭き取りながら、街の中央広場に陣取りながら爆発を見ていたリーズレットに告げる。

「そう。ですが、1つは潰せましたわ。こういった事は1つ1つ確実に行わなければ」

「仰る通りです。逃げ遅れた住人は如何しますか?」

「孤島へ向かっている間、奪還部隊を編成されるのも面倒ですわね。今回は全員放流なさい。ただ、その中に諜報員と薬を潜ませる事を忘れないように」

 リーズレットが異種族の孤島へ向かう間、この街には 海を渡れぬ武装魔導車と共に部隊の半数が防衛として残る事となる。

 異種族の孤島はそう離れていない。この街から海を挟んで精々70キロくらいだろうか。

 イーグルで移動をするとなればそう時間は掛からないが、それでもラディア王国と違って共和国軍の数は圧倒的に多い。

 住人を処刑している時間を準備に使われ、いざ出発して孤島に到着したら街を奪還する共和国大隊が出現……なんて事は避けたい。

 異種族の住む孤島がどのような状態なのかはこれから調べるが、それでも島の大きさはこの街の丁度2倍程度くらいだろうか。

 リーズレットが本気を出せば制圧もそう長く掛からないだろう。突拍子もない想定外中の想定外が起きなければだが。

「承知しました。人員は既に選出してあります。恐らく住人達が向かう先は……首都か東しか考えられませんね」

 情報部の男が近くにあった樽をテーブル代わりにして地図を広げた。

 ここは共和国最南端の街。西側も既に制圧している事もあって、この街の住人達が逃げる先はほぼ決まっている。

 北側中央に向かって小さな村や軍の駐屯地を経由しつつ最終的に首都に行きつくか、それとも東側へ逃れて東部にある他国との国境を守護する大きな街へ行くか。

「販売組織はどこまで伸びまして?」

「現在は共和国北部側から東側に伸ばしていますね。首都側へも何名か派遣して、現地で仲介人と販売人を見繕っている最中だと報告が来ています」

 販路の拡大は順調のようだ。彗星の如く出現した『夢の薬』はジャンキー達に大好評な様子。

 買い手のリピート率も非常に高く、薬の存在を知った一部の悪徳傭兵の中では「金になるんじゃないか」と自然に囁かれているようで。

 共和国北部に入り込んだ販売組織の者達が現地の傭兵を仲介人として勧誘しに行くと、販売側の一員になれる事を喜ぶ者まで出る始末。

 広い国土を持った大きな国故に闇も深く、その闇に紛れて悪い事を考える者も元々多かったという事だろう。

「それとですね、やはり一部の共和国貴族がハマっているようで」

 共和国北部を支配する貴族連中の子、次期当主から外れるような次男三男といった貴族家特有のが手を出し始めたとの事。

 家を継ぐ長男、もしくは自分よりも優秀な兄弟への劣等感から湧き上がるストレスか、若い者特有の怖い者見たさかは不明であるが。

「まぁ、それは素晴らしいですわね。金持ちのジャンキー候補が多くて助かりましてよ」

「全くです。我々に手間を掛けさせまいと予備が勝手に潰れてくれるんですから。共和国の優しさに笑いが止まりませんよ」

 なんと素敵な事だろうか。格式高く、偉そうにブイブイ言わせる光物大好きな豚の子供が自らの体に毒を打ち込んで、くたばってくれるのだから。

「軍人はどうですの?」

「それが、軍人にはあまり。尋問中にクスリを見せて知っているか、と聞いたんですが誰も知らないんですよね。サプライズプレゼントはサイモン様が言った通り、貴族が懐に入れたのでしょうか?」

 サプライズで渡した箱の中にはそれなりの数が入っていた。

 軍が見つければリリィガーデン王国で使われる麻酔薬として認知され、怪我をした者へ効果の程を試して、使われた軍人がジャンキーに……といった流れを期待したが効果は無かったか。それとも薄かったのか。
 
 もしくはサイモンが推測した通り、貴族が全て懐に入れたのか。味を知った豚が他の豚へオススメして今の状況に繋がったのだろうか。

 貴族の馬鹿息子や娘達の一部で流行っているという事は後者の説が濃厚と見るべきなのかもしれない。

「どちらでも構いませんわ。本命は連邦での蔓延。共和国の豚共が立派な広告塔となってくれれば十分でしてよ」

「はい。確実に蔓延させてみせます」

 情報部の男との会話が終わったのを見計らい、リーズレットの傍にコスモス、マチルダ、ブライアンが歩み寄る。

「マム。制圧が完了しました。街の内部を調査し、抵抗する軍人は全て始末しました。投降した軍人は100名程度です。投降した者は如何しますか?」

「ご苦労様ですわ。そうですわねぇ……」

 まずは制圧を終えたコスモス達へ労いの言葉をかけると、リーズレットは投降者をどうするか悩み始めた。

 一般人と違って放流すれば再び敵となって向かって来るだろう。居残りの防衛隊に処刑を任せようか、と言いかけたが彼女の脳裏に良い案が浮かんだ。

「投降した者にクスリを投与なさい。ジャンキーにして放流しましょう」

 リーズレットはとても良い笑顔でそう宣言した。軍人のジャンキーが増えぬのならば、こちらで増やせば良い。

 投与した彼等がこの先どうなるかは不明であるが、もしかしたら軍の内部に向けての広告塔になってくれるかもしれない。

「ああ、良い案ですね。情報部で手配します。ついでに実験を行ってもよろしいですか?」

 まるで悪魔同士の会話のようだ。情報部は情報部でどれくらいの量を継続投与したら中毒者としての効果が表れるのか、と実験したいと言い出した。

 薬を調合したリリィガーデン王国の医師団がデータを提供しているはずだが、投与したら尋問をスムーズに行えるかどうかなどの独自データが欲しいのだろう。

「ええ。よろしくてよ。好きになさい。ですが、広告塔として放流する事は必ず行うように」

「はい、心得ております。では、私はさっそく」

 そう言って満面の笑みを浮かべた情報部の男は去っていく。これから色々と準備するのだろう。

 再びコスモス達に顔を向けたリーズレットは次の舞台へ向けての細々とした指示を出した後、最後は次の目的地に向けて話し出す。

「まずは制圧部隊を休ませなさい。次は孤島の制圧が待っていましてよ」

 リーズレットはそう言って、街の中央広場から海へと顔を向ける。

 軍の施設まで街を貫くメインストリートの先にある海には小さく浮かぶ島が見えた。

 朝日も昇って来た事で島の姿はハッキリ見える。あの孤島には一体何があるのだろうか。

「居残り組には街に残された財産を集めるよう伝えなさい。それが終わったら街の南に魔導車を展開して防衛の準備を。交替で休む順番は任せますわ」

 3人へ顔を戻しながらそう言って、

「私達も南で準備をしましょう。バカンス用の食事が残ってましたわね。お酒は無しですが、食事は上質な物を振舞いますわよ」

 軍を労う為に持ち込んだ高級食材をここで全て使うと言った。

 酒は飲めぬものの、それでも美味い食事が食べらえるのは素直に嬉しいのか3人に程度は違えど笑顔が浮かぶ。

 街の南側へ移動して広大な海の眺めながら食事を摂ったリーズレット達は、イーグルに乗り込んで孤島を目指して行った。


-----


 リーズレット達が占拠した共和国最南端の街を離れた場所から双眼鏡で覗き見る小さな影があった。

「あちゃあ。行っちゃった後かぁ」
 
 どの国でも見た事がない、ゴツくて大きなタイヤを備えながらもスポーツカーのように車高が低く、それでいて装甲車のような分厚い外装を持った黒い魔導車の上にちょこんと座りながら双眼鏡を握る人物。

 黒いフード付きのパーカーと緑色のカーゴパンツ。足にはスニーカー。

 薄く紫が混じった銀色のセミロングの髪と青と緑色でそれぞれ瞳の色が違う、少年か少女かわからぬ者。

 グリア共和国首都で魔法少女を殺した者が海の向こう側にある孤島を目指して飛び立ったイーグルを双眼鏡越しに見つけてため息を零す。

「まったく。ようやく追いついたのに。聞いていた通り、行動が早いんだから」

 性別不明の者の声は残念がってはいるものの、口は口角が上がってどこか嬉しそうにも見えた。

「でも、もうすぐ会えるよ」

 左右で色の違う瞳をイーグルに向け、中にいるであろうリーズレットの姿を夢想する。

 生まれた頃から聞かされてきた伝説。生まれた頃から見てきた姿。過去の通信ログを何度も繰り返し聞いて、己の耳に焼き付いた彼女の美声。

「ふふ」

 彼女の美しい戦闘風景がを脳内で思い出す度に性別不明の者は体が熱くなってしまう。

 ぺろりと自分の唇を舐めて潤して、独特なフォルムの黒い魔導車の上から飛び降りる。

 魔導車のドア部分に軽く触れるとガルウイングドアが可動。中に乗り込んだら持っていた双眼鏡を助手席に投げ置いた。

「すぐに追いつくからね。待ってて、リズ」

 キーを捻り、エンジンをスタートさせるとハンドルを握ってリーズレットが向かった孤島を見た。

「追いついたら――いっぱい愛し合おう」

 彼、もしくは彼女はニコリと笑って運命の出会いに向けてアクセルを踏んだ。
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