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本編
61 ラディアの魔法少女
しおりを挟む3階に到達したリーズレット達は階段を確保しながら廊下から現れるラディア軍を処理していく。
上下左右からやって来る大量のラディア兵に一時は足止めされつつあったが、階段の下からリリィガーデン軍らしき者達の声が聞こえてきた。
同時に下から上がってくるラディア兵の数が減少。どうやら下にいる自軍が攻撃を開始したようだ。
「一気に上がりますわよッ!」
「了解ッ!」
マチルダ隊の男達が3階廊下にグレネードを投げ、リーズレットとマチルダが上の階から降りてくる兵士を撃ち殺す。
廊下の爆発と同時にリーズレットとマチルダは4階へ続く階段を駆け上がった。
踊り場にいた兵士を撃ち殺し、降りて来る途中だった男兵士の股間を銃のストックでぶん殴るマチルダ。それを見ていたマチルダ隊の男の1人が「オォウ……!」と同情の声を上げる。
しかし金的の痛みなど知らぬマチルダは敵兵が悶絶した瞬間、首にナイフを突き立てて絶命させた。
「まぁ。ラッキーな男ですわね。最後にタマを殴られるんだから。しかし、淑女としてはナンセンスでしてよ」
一方、リーズレットは別の男の股間に銃弾をぶち込んだ。何ともお上品だ。淑女たるもの、男性のそういった部分へ気軽にタッチするのはよろしくない。
「ワァオ!」
マチルダ隊の男達は一斉に顔を顰める。
「失礼しました。森暮らしが長かったもので」
首からナイフを抜いたマチルダは刃に付着した血を払うと、再びリーズレットと共に前進。
階段を上りきると待ち構えていた兵士達を次々に射殺する。そのまま前進し、左右に伸びた廊下を交互に見る。
スッ、と鼻で空気を吸い込むとリーズレットは右の廊下を顔で指し示す。
「こちらですわね。豚王特有の不快な臭いがしますわ」
リーズレットが右に進み、マチルダ隊も続く。前方から追加で現れた敵兵を撃っていると――
廊下で倒れていた敵兵の腕がピクリと動いた。
「あん?」
微かな音を聞いたマチルダ隊元狩人の男が後方に振り返りながら銃を向ける。
すると、倒れていた敵兵が両腕で体を持ち上げるのではなく、重力に反したような不自然な動きで立ち上がったではないか。
「な、なんだァ!? まだくたばってなかったのか!?」
立ち上がったのはリーズレットに左目部分を撃ち抜かれた男。どう見ても致命傷で、頭部を銃弾が貫通しているはずだ。
どういうわけか動き出した敵兵の胸にマチルダ隊の男が銃弾を3発撃ち込んだ。バスバスバス、と銃撃を受けた反動で体が跳ねる。だが、倒れない。
無言で血を流しながらも、1歩また1歩と歩いて来るではないか。
「おい、何かおかしいぞ!?」
マチルダ隊の男はたまらず叫んで皆に知らせた。
すると、階段の方向から同じようにぎこちない動きを見せながら敵兵がゾロゾロと姿を現す。
「あれは……?」
振り返ったリーズレットが後方からゆっくりと向かって来る敵兵を見た。
彼等の動きはまるで糸で繋がった人形のようだ。人形師が糸を操作して一歩一歩動かしているような。
廊下の外にドローンが飛んでいる事を確認してリトル・レディから送られてくる情報が間違っていないと確認する。
あれは動いているが生きた人じゃない。熱源が通常よりも弱いせいか、リトル・レディは『死人』と判断していた。
それに加え、確かに頭部には人が生きるには致命的なダメージを負っているのだから生きているなどあり得ない。
彼女は向かって来る敵兵の頭部に向かって銃弾を浴びせた。大口径の銃弾は頭部のど真ん中に命中すると敵兵の頭部を吹き飛ばす。
「こういった事は頭を吹き飛ばせばよろしいと、相場が決まっていますわ」
前時代に帝国の転生者が作り出した『魔導映像作品』の異世界物語に登場するゾンビか傀儡の類は頭部を破壊すれば動かなくなる。
それを思い出したリーズレットは映像作品通りに撃ち抜いてみせたが……。
「ホーリィシット!」
倒れた敵兵はほとんど頭が無くなっているにも拘らず、再び起き上がろうとしているではないか。
何という事だ。ある日の深夜、アルテミスと共にポップコーンを抱えながら見たホラー作品よりも酷い。
驚愕していると前方からは再び追加のラディア兵が登場。
「ファック! マチルダは前を!」
マチルダに前方の敵を任せ、リーズレットはアイアン・レディで後方の摩訶不思議兵士を討ち続ける。
頭部がダメなら胸か。心臓か。
動きがトロい相手に当てるのは容易であるが、心臓をぶち抜いても止まらない。
『マム! 死んだ敵兵が急に立ち上がって動き出しました! 敵兵だけじゃない! 味方も!?』
耳に装着した通信機からコスモスの声が聞こえた。どうやら下にいる敵兵も同じように動き出したらしい。
しかも最悪な事に動き出したのは敵兵だけじゃなく、戦死した味方も含まれているようだ。
「面倒ですわね! それを貸しなさい!」
これは早く対策を見つけなければなるまい。
マチルダ隊の男が肩から掛けていたショットガンを頂戴して上半身をぶっ飛ばす。さすがに上半身が全て無くなれば活動は停止するようだ。
試しに下半身、2本の足をショットガンで撃って千切り取る。活動は停止しないものの、その場で藻掻くような動きを見せた。
「グレネードで吹き飛ばしなさい!」
リーズレットは体の一部を吹き飛ばすのではなく、半分を吹き飛ばすのが有効だと判断。
マチルダ隊が持つグレネードを全て投入せよ、と命令して階段からやって来るほとんどを始末した。
「コスモス! 動き出した敵は上半身か下半身を吹き飛ばしなさい! ロビィ、着陸して火炎放射器をコスモスに! コスモスは火炎放射器で動き出した敵を焼いて始末する事を優先なさい!」
『ウィ、レディ』
『了解です、マム!』
リーズレットは通信を終えると持っていたショットガンを男に返した。
「貴方はこれで後方警戒! 全員、前進しますわよ! 生き返った敵兵の原因を探してぶっ殺しますわ!」
再び先頭に躍り出たリーズレットはアイアン・レディをリロードして前進を開始。
彼女の脳裏には大体の予想が出来ていた。こういったファッキンホラーを可能にするのは1つしかない。
リトル・レディから送られてくる情報を元に前進を続け、敵兵が守っていた重厚なドアを蹴破ると中には多数のラディア軍士官らしき者達とご丁寧にも王冠を被った男がいるではないか。
「見つけましたわよ、ファッキンピッグ!」
豚共の王を見つけたリーズレットは銃口を向けるが、彼の横で手を広げる少女が目に入る。
何とも下品なボンテージ姿。肩と腹、胸の半分は露出して下は黒い紐パンが見えてしまうほどの丈が短いスカート。
リーズレットは自分とは対照的な下品な恰好をした少女の紫色の瞳と目が合うと舌打ちを鳴らす。
「きゃはは☆ お姉様、初めましてだね~?」
「チッ、ここでもマジカルビッチでして? いい加減にして下さいまし!」
ドンドン、と連続で銃弾を2発リリムに撃ち込むと案の定、防御壁に防がれた。
「いや~ん! チョーこわ~い!」
銃を撃たれようとも貫通しないと分かっているリリムはクスクスとその場で笑う。
「おい、リリム! あやつをさっさと殺してくれ! 早くこの場から敵を――」
「うるさいですわねッ!!」
ぎゃあぎゃあとうるさい豚の王の頭部に銃弾をぶち込むリーズレット。一撃が彼の右目をぶち抜き、豚の王であるヘルモンドは床に倒れて絶命した。
彼女の一撃が引き金となり、部屋の中にいた士官共が魔法銃を抜く。当然、撃たれまいとマチルダ隊も銃を構えて士官達を撃ち始めた。
何名か被弾したものの、部屋の中にいた者はヘルモンドを含めて死亡。残ったのはリリムだけ。
しかし、リーズレットの脳裏には「やはり」という感想が浮かぶ。
リリムは撃たれても無傷なのは理解できる。だが、彼女は王達を助けようという素振りすら見せなかった。
連邦の首都で出会った魔法少女は軍と協力しているようであったが、リリムは彼等と協力して自分を殺そうという動きすら見せない。
まるで死ぬのを待っていたような。
「やっぱり、みんなよわよわ~。でもぉ、リリムがちゃぁんと有効活用してあげるからね~?」
リリムは広げていた手を一度握って、再び開いた。すると半透明の糸が指から部屋の死体に伸びる。
魔法の糸と繋がった死体は廊下の時と同じようにぎこちない動きで立ち上がり、リーズレット達へと腕を伸ばし始めたではないか。
「やっぱり魔法でしたわね!」
「そうだよぉ。みんなはこの国のお姫様であるリリムの事がだ~い好きだからぁ。死んでも働いてくれるんだよぉ?」
クスクスと笑うリリムに首を傾げるリーズレット。彼女はたまらず問いかけた。
「お姫様? 貴女、マギアクラフトの魔法少女ではなくて?」
「そうだよぉ? あ! もしかして、お姉様は他の魔法少女と会った事があるの? でも、私を他の子と一緒にしないでよね! 私は魔法少女でありながらラディア王国の王子と結婚したお姫様。リリムちゃんで~す!」
キャハ☆ と笑うリリムはどうやら他の魔法少女とリーズレットが出会っている事を知らぬ様子。
その理由は彼女がこの国に来てから魔女の館へ一度も帰還せず、お姫様生活を満喫しているからなのだが。
そんな事はどうでもいい。それよりもリーズレットは彼女がイケメン王子とやらと結婚している事実に「んまっ」と口を手で覆いながら驚愕を露わにした。
まさか自分が最上と願っていた国の王子と結婚して権力と金を手に入れている者がいたとは。しかもそれが魔法少女となれば……リーズレットは驚愕した後、すぐに奥歯をギリギリと歯ぎしりして鳴らす。
何と羨ましい事か。
「あ! もしかして、羨ましい? お姉様って結婚したがってたけど出来なかったんだよね? リリム、知ってるよぉ!」
「な、くッ!」
リーズレットの顔が珍しくも苦々しく歪む。
「リリムは結婚できましたぁ~。イケメン王子と結婚して毎日ヤリまくり~! 城にいる他のイケメンともヤリまくり~! キャハハ☆ 羨ましい?」
「この、メスガキッ! くたばれってんですわよォッ!!」
不特定多数の男性と行為をする事に関しては羨ましいとは思わぬが、イケメン王子と結婚するという最上の夢を叶えた事による嫉妬が大爆発。
クソが、羨ましい! 絶対にぶっ殺す、と両手に構えたアイアン・レディを連射した。
防御壁で防がれるか、と思われたがリリムの前に立ったのは死体となった兵士達。
まるでお姫様を守る騎士のように、銃弾から彼女を守る。
「ほらほら、こうやって守ってくれるの~」
クイクイ、と指を動かして魔法の糸を操作するリリム。どうやら彼女は防御壁よりもお人形遊びが好きなようだ。この操られた死体は傀儡兵と表現すべきか。
「ハッ! 動きがカメみたいな死体が相手だったら――」
先ほどの廊下と同じようにショットガンで上半身を吹き飛ばせばいい。幸いにも動きは遅く、狙うのはイージー……となるはずだったが。
「キャハハッ! こんな風に早く動かせるも~ん!」
リリムが再び指を動かすと部屋にいた傀儡兵が駆け出した。廊下で遭遇した時よりも動きが人間に近い。
いや、死んでリミッターが外れているせいか人の時よりも機敏で速い。王であるヘルモンドも含めて20人の傀儡兵が一斉に襲い掛かってきた。
「チッ! マチルダ! 人形共を任せますわよッ!」
連邦で遭遇した魔法少女マキが炎を操っていたように、リリムは死人を操る魔法を得意とするのだろう。
死人がいるだけ彼女の兵士は増える。つまり、こちらがラディア人を殺せば殺すほど彼女が操る人形は増えるという事だ。
ここに来るまで何人のラディア兵を殺しただろうか。城に転がる死体を全て同時に操れるかは不明であるが、相手が魔法少女となれば例えコスモスが下で奮闘していようとも不安要素は残る。
魔法を使い、傀儡兵が動く元凶であるリリムを殺さねば厄介な状況は好転しない。
しかも、ただでさえ銃弾が効かぬのだ。防御壁の対処法を知るのはリーズレットだけであり、マチルダやコスモスでもリリムの相手は厳しい。
「さっさと、くたばりなさいッ!」
アイアン・レディを連射しながら接近を試みるリーズレット。銃弾との間には傀儡が割り込む。
腕をクロスさせて銃弾を防ぎ、銃撃が終わると両手を伸ばしてリーズレットを捕獲しようとする。2体の傀儡兵は連携してリーズレットへと迫った。
淑女へ触れようとする傀儡の腹を蹴飛ばせば、横から別の傀儡兵が迫って来る。全てリリムが操作している事であるが、なかなか鬱陶しい。
「キャハハ☆ お姉様も私の人形になってよぉ!」
「ハッ! 貴女のお人形遊びに付き合うのなんて御免ですわね!」
返答を返しながらリーズレットは傀儡兵の顔面にハイキックをぶちかます。1体を吹き飛ばし、もう1体に銃を連射。防御させておき、リリムへと走る。
両手に持っていたアイアン・レディの片方をホルスターに収め、片手をフリーにして。リリムの胸にあるペンダントを奪えばチェックメイトだ。
「!?」
しかし、リーズレットへ3体目の傀儡兵が椅子を投げつけた。咄嗟にバックステップで避けると、ハイキックで吹き飛ばした傀儡兵が体勢を整えて再び彼女を捕獲しようと接近。
「私の人形になったらぁ~。いっぱい愛を教えてあげるよ~? 私はお姉様と違って愛を知っているもの~」
「ファァァァック!!!」
愛を知っている、自分とは違うと比較されてリーズレットは苛立ちが募る。好きで独身を貫いたわけではない、と今にも叫びそうだ。
加えて、リリムのねちっこく色っぽい声音が鼻につく。性欲に忠実な男ならば大歓迎だろうが、リーズレットにとっては口からクソを捻り出している音と同義である。
「チッ!」
なかなかリリムに近接戦闘を仕掛けられない。人形遊びが好きなだけあって、人形使いの腕は一流と認めざるを得ないだろう。
「マム! 援護しやすぜ!」
マチルダ隊の男が傀儡兵を処分し終えたのか、ショットガンを構えてリリムを守る傀儡を撃とうとした。
その瞬間、傀儡兵の背後にいたリリムと目が合う。
「あ? え?」
彼はショットガンのトリガーを引かない。それどころか、銃口をリーズレットに向けたではないか。
「あはっ☆ まさか、死体だけしか操れないと思った?」
まさか生きている人間も操るのか。リーズレットがリリムを見やると彼女の瞳が紫から赤に変わっていた。
産まれた時から持つ身体的魔法能力、所謂『魔眼』というやつだ。リーズレットは前世でも持っている者を見た事がある。
数万人に1人の割合で所持する、この世界では珍しい能力。魔眼は大体1対1でしか使えぬ能力であるが、それでも所持しているのであればどうしてリーズレット本人に魔眼を使わなかったのか。
その理由はリーズレットの瞳にあるコンタクトレンズだ。特別製の素材で作られたコンタクトレンズは裸眼を覆っている為、魔眼能力の『直視せねばならぬ』という制約に引っ掛かったのだろう。
もしかしたら、リリムはリーズレットが気付かぬうちに試みたのかもしれない。定かではないが、とにかく操られたのが味方というのが問題だ。
「ああ、クソ! 体がッ!」
ショットガンをリーズレットに向けた男は自分の意思とは関係無くトリガーを引いた。弾はもちろん、リーズレットへと飛んでいく。
男を撃つか。いや、撃てない。リリムの狙いはそれだ。
彼を撃ったところで別の者を操り、再びリーズレットに撃たせる気だろう。
「マム、撃ってくれ!」
恩人に銃を向けるくらいなら殺してくれ、と叫ぶマチルダ隊の男。しかし、彼女は首を振る。
「いいえ、撃ちませんわ。その代わり、少々我慢して下さいまし!」
握っていたアイアン・レディをホスターに収め、両手を空けたリーズレットは男に急接近。腕を絡めるとショットガンを奪い取る早業を披露してから腹を蹴って遠くへと吹き飛ばす。
パワー・ハイヒールは起動していないので死にはしていないだろう。
奪ったショットガンをリリムの守る傀儡兵へ向けて連射。胴体を吹き飛ばしながらリリムへと駆ける。
「なッ!?」
マチルダ隊の男を操った事で安心したのか、その隙を突いたリーズレットにリリムは対応が遅れた。
しかし、リリムを守るべく4体の傀儡兵が間に割り込んだ。1体、2体とショットガンで胴を吹き飛ばす……が、3体目を撃つ前に弾切れ。
リーズレットは弾切れになったショットガンを投げ捨てて、そのままリリムの真ん前で立つ傀儡兵へ肉薄。傀儡兵の腹に勢いを乗せた蹴りをお見舞いして、当たった瞬間に自身のスカートを摘まみ上げた。
傀儡兵がリリムへと倒れ込み、バランスを崩したリリムと傀儡兵の足元にはコロコロと転がるピンの抜かれた2つのグレネード。
リーズレットは着地後すぐに横っ飛びで爆発範囲から逃れた。
爆発したグレネードは傀儡兵を木っ端微塵にしただけでなく、床を破壊してリリムを下の階へ落す。
大穴の開いた床を覗き込むとリリムが地面に四つん這いになりながらコホコホと咳しているのが見える。
「さぁ、メスガキ。ぶっ殺して差し上げますわ」
再びアイアン・レディを抜いたリーズレットがリリムを追って降りると――
「リ、リーズレット様?」
「え? ロ、ロウ?」
下の階にはロウがいた。
どうやら3階にいる傀儡兵を処理する部隊に着いて来ていたのか、リーズレット達が戦っていた部屋の真下で補給用の弾が入った弾薬箱を広げて用意していたようだ。
リリムとの戦闘に気を取られて真下に誰かいるかなど未確認だった事もあるが、一目惚れしていた相手と突然の遭遇に一瞬だけ動揺するリーズレット。
しかし、リリムはそれを見逃しはしなかった。ニヤリと笑った彼女は瞳を赤に変える。
「ふぅん。ねえ、そこのお兄さん~?」
「え?」
「ッ! いけませんわ! ロウ、彼女を見ないで!」
リリムはロウに話しかけた。魔眼で操ろうとする彼女を阻止しようと、反応してしまったロウとの間に割って入り込むべく駆け出すリーズレット。
「あ――」
しかし、一歩遅かった。
何も知らぬロウはリリムの声に反応して目を合わせてしまう。
「あは☆ ゲット~!」
「このッ!」
焦りを見せたリーズレットは魔眼の支配から彼を開放しようと銃口をリリムに向けるが、彼女はロウを操って自分と銃口の間に立たせる。
「撃っちゃう~? ねぇねぇ~?」
トリガーを引かぬリーズレットを見たリリムは小悪魔のように笑った。言いながらロウを後退させて、自分の近くに寄せる。
マチルダ隊の男を操った時は蹴飛ばされてしまった。そうならないよう、自分の元へ引き寄せて他の死体を操る準備を終えるまで時間稼ぎしようという魂胆。
リリムの傍で両膝を地面に付いたロウの体へ背後から絡み付いて、彼の頬をベロリと舐めながら盾にする。
盾にするのと同時にリーズレットへの精神攻撃を兼ねる彼女らしい行動であった。
「メスガキッ! 彼から離れなさいッ!」
自分ですら触れた事のないロウの頬を舐めるリリムにリーズレットの怒りの叫びが木霊する。
「きゃは☆ お姉様の彼氏、ゲット~!」
精神攻撃が効いていると感じたリリムは更に笑みを深め、ロウの顔を片手でベタベタと触りながら空いた手で死体に魔法の糸を送るのであった。
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